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第19話・哀しみ本線日本海

【愛を置き去りに】

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話しは、1975年9月の第一土曜日の夜のことであった。

ところ変わって、国鉄串間駅のすぐ近くにある安宿《やどや》にて…

時は、夜8時過ぎであった。

3つの私は、部屋でテレビを観《み》ていた。

テレビの画面は、宮崎放送が映っていた。

この時間は『8時だヨ!全員集合!!』が放送されていた。

3つの私は、ひとことも言わずに画面に映っているザ・ドリフターズの公開コントを観《み》ていた。

この日は、都井岬火まつり(毎年9月の第一土日開催)が開催されていた。

小番頭《こばんと》はんは、シャテイの男と一緒に祭りの会場で啖呵売《バイ》をしていた。

時は、深夜11時10分頃であった。

この時、3つの私はテレビのある部屋にしかれているお布団に入ってスヤスヤと眠っていた。

お布団の横には、安宿《やどや》のオカミがものすごく心配な表情で私の寝顔を見つめていた。

安宿《やどや》のオカミは、ヨリイさんのふたごの妹さんであった。

小番頭《こばんと》はんは、そのとなりの部屋にいた。

腕組みした状態で座っている小番頭《こばんと》はんは、考え事をしていた。

テーブルの上には、今朝水揚げされたばかりの魚貝類《さかな》で作ったお造りが並んでいた。

この時、シャテイの男が日本酒が入っている白い徳利《おちょうし》2本を持って来た。

「アニキ、おかわり持ってめいりやした。」
「(浮かない表情で言う)ああ。」

シャテイの男は、白い徳利《おちょうし》2本をテーブルの上に置いた。

この時、私を見守っていたオカミが小番頭《こばんと》はんとシャテイの男がいる部屋に入った。

オカミは、ものすごくつらい表情で小番頭《こばんと》はんに言うた。

「あんた。」
「(ものすごくめんどくさい声で言う)なんやねん…」
「この子は、どこから来たのよ?」
「(ものすごくめんどくさい声で)ぼうずは、なんにも言うてへんかった。」
「この子は、親御《おや》いるの?」
「(ものすごくめんどくさい声で)ぼうずは、親御《おや》いてへんと言うた。」

オカミは、小首を傾《かし》げながら『おかしいわねぇ~』と言うたあと、小番頭《こばんと》はんに言うた。

「あんた。」
「なんやねん…」
「この子は、ホンマに親御《おや》いてへんの?」
「せやから、ぼうずは親御《おや》いてへんと言うたねん。」

オカミは、ものすごく困った声で小番頭《こばんと》はんに言うた。

「あんた。」
「なんやねん!!」
「やっぱりよくないわよ。」
「どう言うこっちゃねん?」
「この子、いくつなの?」
「3つや。」
「(おどろいた声で言う)3つ!!」
「大きい声出すな!!」

オカミは、ものすごく困った声で小番頭《こばんと》はんに言うた。

「あんた。」
「なんやねん!!」
「やっぱり、親御《おや》をこちらに呼んだ方がいいと思うけど…」
「せやから、なんで親御《おや》を呼ぶんゾ!!」
「3つと言うたら、親御《おや》がいないとなにもできないのよ…」

小番頭《こばんと》はんは、ますます怒った声でオカミに言うた。

「せやけど、ぼうずは親御《おや》がおらんねん!!」

オカミは、ものすごく困った声で『そんなはずはないわよ~』と言うた。

オカミからあつかましく言われた小番頭《こばんと》はんは、怒った声でオカミに言うた。

「ぼうずは親御《おや》に捨てられたと言うた!!…帰る家はあらへん!!身よりはいてへん!!生まれた郷里《くに》がどこか分からん!!…こなな状態で、家に帰れだなんて…できるわけあらへん!!」

オカミは、ものすごく困った表情で『そうは言うけど…』と言うた。

小番頭《こばんと》はんは、ものすごく怒った声でオカミに言うた。

「ワイは理解できん!!だいたいなんのために子は親御《おや》と暮らすんぞ!!」

オカミは、ものすごく困った声で小番頭《こばんと》はんに言うた。

「なんのためって…子どもが頼れる相手は親御《おや》しかいないのよ。」

小番頭《こばんと》はんは、ものすごく怒った声で言うた。

「そななルールを作ったのはどこの政治家《クソアホンダラ》や!!」

小番頭《こばんと》はんは、徳利《おちょうし》に入っている日本酒を2合を一気にのみほしたあと、なおも怒った声でオカミに言うた。

「ケッ、ふざけんじゃねえよ!!なにが『子どもが頼れる相手は親御《おや》しかいないのよ…』だ…そこまで言い切れるコンキョはなんやねん!!」

小番頭《こばんと》はんのそばにいるシャテイの男は『まあまあ、落ちついてーな…』と言うた。

小番頭《こばんと》はんは『分かっとるわ!!』と怒った声で言うたあとこう言うた。

「子どもが家出したと聞いた時に、親御《おや》がメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソメソ泣きながらあちらこちらに電話していた…あれホンマに腹立つワ!!」

オカミは、泣きそうな声で小番頭《こばんと》はんに言うた。

「なんでひどいことを言うのよ…どこの家の親御《おや》は、お子さまが家出したことを聞いたら悲しくなるわよ…」
「それがいかんと言うてんねん!!子どもにきつい暴力をふるっておいて、なんじゃあいよんぞ!!」

小番頭《こばんと》はんは、ものすごく怒った声でオカミに言うた。

オカミは、ますます泣きそうな声で小番頭《こばんと》はんに言うた。

「だから、親御《おや》は子どもさんに悪いことをしたからあやまりたいといよんよ…」

小番頭《こばんと》はんは、ものすごく怒った声で『それがいかんといよんよ!!』と言うてからオカミにこう言うた。

「そなな親御《おや》は、家庭を持つ資格も育児をする資格もないんや!!」
「(ますます泣きそうな声で)それじゃあ、どうしたらいいのよ!?」
「家出した子どもは、家の戸籍《せき》を抜かれると決まってんだよ!!」
「戸籍《せき》抜かれたら困るのはお子さん自身なのよ!!」
「それができん親御《おや》はひ弱や!!」

小番頭《こばんと》はんは、大きくため息をついてからオカミに怒った声で言うた。

「オカミは、ぼうずにどないしてほしいねん!?」
「どないしてほしいって、この子にもう一度チャンスを与えてあげたいのよ…」
「オカミがいよるチャンスとはなんやねん!?」
「だから、この子に幸せになってほしい…」
「オカミがいよる幸せとはなんやねん!!オカミがいよる幸せなんかしょぼいワ!!」

オカミは、ものすごくあきれた声で小番頭《こばんと》はんに言うた。

「しょぼい…この子が親御《おや》と一緒に暮らすことがしょぼいってどう言うことよ!?」
「しょぼいをしょぼいと言うたらいかんのか!?」

オカミは、泣きそうな声で小番頭《こばんと》はんに言うた。

「どこの家の親御《おや》には、たったひとつの楽しみを持っているのよ!!」
「それがどないした言うねん!?」
「親御《おや》の一番の楽しみは家族なのよ!!」
「それがしょぼいといよんねん!!親御《おや》の楽しみはそれしかないのか!?」

オカミは、泣きそうな声で小番頭《こばんと》はんに言うた。

「だからなんでしょぼいと言うのよ!!」
「しょぼいをしょぼいと言うたらいかんのか!!」

小番頭《こばんと》はんは、近くにあったアサヒビールの瓶ビールに入っている残りのビールを一気にのみほしたあと、怒った声でオカミに言うた。

「親御《おや》の楽しみと言うたら、子どもしかないのか…子どもが元気な顔で学校に通う姿を見ることが楽しみだと…せやからしょぼいといよんや!!…子どもにコーコーへ行けといよる親御《おや》も腹立つワ…そないにいよる親御《おや》の夢はなんやねん!?…『クラブ活動をしている姿が見たい』『卒業式に出席している姿が見たい』…どいつもこいつもホンマにふざけとるワ!!」

オカミに怒った声で言うた小番頭《こばんと》はんは、このあと旅支度《しゅっぱつじゅんび》を始めた。

シャテイの男は、おどろいた声で小番頭《こばんと》はんを呼んだ。

「アニキ!!アニキ!!」

小番頭《こばんと》はんは、怒った声で言うた。

「はよせえ!!」

シャテイの男は、ものすごくおたついた声で言うた。

「アニキ、夜が遅いさかいに…」
「グダグダ言うな!!…おい、ぼうずをはよ起こせ!!」
「困りまんねん~」
「はよせえや!!」

シャテイの男は、ものすごくなさけない声で私に起きるようにと言うた。

なんで起きなアカンねん…

眠いよぅ…

シャテイの男にたたき起こされた3つの私は、旅支度《しゅっぱつじゅんび》を始めた。

それから40分後であった。

旅支度《しゅっぱつじゅんび》を終えた3つの私は、シャテイの男と一緒に安宿《やどや》の玄関にいた。

それから10分後に、旅支度《しゅっぱつじゅんび》を終えた小番頭《こばんと》はんがやって来た。

「待たせてすまんのぉ~」
「アニキ…」
「なんやねん!?」
「あの言葉はまずいと思うねん…」
「そんなん知らんワ!!」
「ほな、どないしまんねん?」
「ここは居心地が悪いけん場所を変えるだけや!!」
「アニキ…」
「行くぞ!!」
「分かったねんもう~」

このあと、3つの私は小番頭《こばんと》はんとシャテイの男と一緒に安宿《やどや》から出発した。

その次の日以降、3つの私は小番頭《こばんと》はんとシャテイの男と一緒に西日本のあちらこちらを転々とする暮らしを送ることになった。
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