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第13話・かもめが翔んだ日

【春雨】

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(ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー…)

時は、5月11日の昼過ぎであった。

この日は、朝から雨が断続的に降っていた。

またところ変わって、鴨部《かんべ》団地の郁恵《いくえ》夫婦の家族が暮らしている家の広間にて…

家の広間には、ヨリイさんと友代《ともよ》と郁恵《いくえ》の3人がいた。

ゆりこが自殺未遂を起こした上に列車の運行をボーガイした事件を起こした…

他にも、ゆりこは深刻なトラブルやもめごとをたくさん起こしていた…

ヨリイさんは、ゆりこのめんどうを見るのがイヤになった…

だから、友代鹿之助《おやもと》へゆりこを帰すと訣《き》めた。

ヨリイさんは、ものすごく怒った表情で友代《ともよ》に言うた。

「ゆりこちゃんのおかあさま…ヘラミ(よそみ)しないでこちらを向いてください!!」
「向いてますよぅ~」
「あなた方は、このままムカンシンを通すつもりですか!?」

友代《ともよ》は、ヨリイさんに対して泣きそうな声で言うた。

「施設長、ゆりこちゃんが菊間で事件を起こした原因はオヤゴであるうちらがムカンシンであったと認めているのですよ…そんなにガーガーガーガーガーガーガーガーガーガーおらばれたら、しんどいんです…」

ヨリイさんは、ものすごくあつかましい声で友代《ともよ》に言うた。

「うちらかてガーガーガーガー言いたくないわよ!!だけど、あなたたちの態度がヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラヘラしているから怒っているのよ!!」
「ヘラヘラしていません…」
「だまりなさい!!」

端で聞いていた郁恵《いくえ》は、ヨリイさんに困った声で言うた。

「施設長、お気持ちはよく分かりますが…」

ヨリイさんは、ものすごく怒った声で『だまりなさい!!』と郁恵《いくえ》を怒鳴りつけた。

郁恵《いくえ》は、ものすごく困った声でヨリイさんに言うた。

「施設長、お願いですから聞く耳を…」
「だまりなさいと言うたらだまりなさい!!なんでうちが聞く耳を持たないといかんのよ!!聞く耳を持てと命令するな!!」

ブチ切れたヨリイさんは、のみかけの麦茶を一気にのみほしたあと、グラスをカベに投げつけた。

(ガシャーン!!)

カベにぶつかったグラスが、こなごなにくだけ散った。

ヨリイさんは、ものすごくヒステリックな表情で友代《ともよ》と郁恵《いくえ》をにらみつけたあと、ゆりこの今後のことについて話した。

「ゆりこちゃんの病状について説明いたします…ゆりこちゃんの乳がんは…ステージ4に上がりました…」
「ステージ4。」
「そんな~」

友代《ともよ》と郁恵《いくえ》は、悲痛な声で言うた。

ヨリイさんは、よりし烈な怒りを込めながら友代《ともよ》と郁恵《いくえ》に言うた。

「ゆりこちゃんは、23年前(1995年の5月6日)よーくんに対して暴力をふるいました…ゆりこちゃんは、よーくんに対してひとこともわびていません…ゆりこちゃんはこのまま人生を終えたいと言うてますが、うちとしてはこのまま死なせるわけには行きません!!それはおわかりですよね!!」
「分かっています…23年前にゆりこちゃんがよーくんに暴力をふるった事件は…全部うちらに非があります…血はつながってないとは言え…ゆりこちゃんのオヤゴであることに変わりはありません…」

友代《ともよ》は、悲痛な声でヨリイさんに言うた。

ヨリイさんは、怒った声で友代《ともよ》に言うた。

「この家には、ゆりこちゃんの居場所はないみたいね。」

郁恵《いくえ》は、ものすごく泣きそうな声で『もうしわけございませんでした。』とヨリイさんに言うた。

ヨリイさんは、ものすごく怒った声で友代《ともよ》と郁恵《いくえ》に言うた。

「最後に、大事なお話がございます…施設は、今年じゅうをめどに閉鎖することにしました。」
「閉鎖するって…」
「施設は、しまなみヒルズ(今治新都市)にある大きな土地に新しく作り直すことになりました…保護されたお子さま方たちとお母さま方たちがさらに増えたので…建物と敷地が手狭になりました…完成時期は未定です…今年の7月か8月をメドに、今の施設を閉鎖します。」
「それで、その後はどちらへ移るのですか?」
「それは言えません…次は、ゆりこちゃんのショグウについてお知らせいたします…ゆりこちゃんは、施設が閉鎖する前日に(国立四国)がんセンターへ入院させます…ステージ4の状態であっても、治療は受けていただきます!!…お伝えすることはそれだけです…帰ります…」

ヨリイさんは、ものすごく怒った表情で席を立ったあと背中を向けて家から出た。

(ザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザーザー…)

時は、夜8時頃であった。

雨は、夜になっても降っていた。

またところ変わって、母子保護施設の食堂にて…

ヨリイさんは、つらい表情で食堂に入った。

この時、パジャマ姿のお母さま方数人が集まっておしゃべりを交わしていた。

おしゃべりの話題は、『ヴェリイ』(光文社・お母さん雑誌)の最新号のメイン特集に関することであった。

「ジャーン、今月の『ヴェリイ』の最新号の特集で~す。」
「アグネスイワマツアンナカンタベリー。」
「もしかして、よーくんのお嫁さんかな?」

『ヴェリイ』の最新号の巻頭にアンナのファッションとコスメとジュエリーアンドウォッチとインタビューなどが掲載されていた。

りりしいレディーススーツ姿で、オフィスビルの私の個室にあるデスクで執務中の写真…

美しいお妃さま服で、特大豪邸のハーレムルームでハーレムのお妃さまを務めている写真…

チャイナドレスや琉球がすりなどの民族衣装で、おうちのお嫁さんを務めている写真…

かわいいエプロン姿で、キッチンでクッキーを作っているママの写真…

おうちデートのファッションコーデ…

そして、オキニのランジェリーファンデーション…

さらに、アンナのオキニの韓国コスメとジュエリーアンドウォッチの写真も掲載されていた。

お母さま方たちが盛り上がっている時に、ヨリイさんが食堂に入った。

「施設長さーん。」
「なあに?」
「今月号の『ヴェリイ』見ました~」
「えっ?」
「アグネスイワマツアンナカンタベリーさんの記事よ。」
「ああ…よーくんのお嫁さんよね。」
「よーくん、かわいいお嫁さんをもらったのね。」
「そうよ。」
「よーくん、しあわせいっぱいね。」
「いいな~うちもよーくんのお嫁さんになりたかったわ~」
「うちも、よーくんちの床の間にかざってほしかった~」

お母さま方たちのおしゃべりは、さらに盛り上がった。

そんな中で、ヨリイさんは大きな岐路に立っていた。

ゆりこがのぞむ形で静かに人生を終わらせた方がいいのか…

それとも、私・イワマツに対してひとことわびてから人生を終わらせるべきか…

どちらが最良だろうか…

…と悩んでいた。
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