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第2話・翼をください

【翼をください】

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そしてまた時は流れて…

1995年10月7日の昼前のことであった。

またところ変わって、今治市中心部にある吹揚神社《ふきあげじんじゃ》にて…

神社の境内《けいだい》に、お粉《しろい》で顔を染めた文金高島田《きらびやかなはなよめいしょう》姿の女性がいた。

文金高島田姿《はなよめすがた》の女性は、ゆりこであった。

(カシャ、カシャ、カシャ…)

文金高島田姿《はなよめすがた》のゆりこを写真館のスタッフさんたちが撮影していた。

ゆりこと結婚する新郎《おとこ》は、40過ぎのものすごくなさけない野郎《クソバカ》であった。

アイコー(松山の中高エリート校)~トーダイを経て一流企業に就職した。

管理職で年収1億円…

ドーキで一番乗りでショウシンした猛まじめな男…

…であった。

健太は、5月6日の一件で『あんたは恋愛・結婚は厳禁《いっしょうダメ》!!』と敏江から厳命《めいれい》されたので、ゆりこと会うことができなくなったようだ。

ヨリイさんも、ゆりこと健太が結婚することは厳禁《ダメ》と強くとなえていた。

施設のスタッフさんたちも、ゆりこと健太が結婚することは『ノー!!』と強くとなえていた。

事件発生から5ヶ月の間、ヨリイさんと施設のスタッフさんたちはゆりこの結婚相手を探し回った。

その結果、なさけない野郎《クソバカ》をゆりこの結婚相手に選んだ。

お式は、神前式だけにするなど…

なにもかもテキトーにセッティングしたようだ。

こななテキトーなセッティングでいいと思っているのか…

…と怒りたくもなるわ(怒)

神前式《おしき》は、写真撮影が終了してから30分後に始まった。

場所は変わって、神社の本殿にて…

神前式《おしき》は、ヨリイさんと施設のスタッフさんたち20人が見守る中でとりおこなわれた。

新郎の親御《おや》親類たちは、素直によろこべないと言うて出席拒否《ボイコット》した。

神官たちの和楽器演奏が本殿に鳴り響く中で、神前式《おしき》が行われた。

さて、その頃であった。

ヨリイさんに呼ばれていた私は、吹揚神社《ふきあげじんじゃ》ヘ向かって歩いていた。

今の私は、気持ちがひどくやんでいた…

せやけん、ヨリイさんと施設のスタッフさんたちはもちろん、施設で暮らしていた同い年のコたちと会うのが苦痛であった。

去年(1994年)の10月から先月(9月頃)までの間、京阪神《アーバンネットワークエリア》と九州北部の各地を歩いて大番頭《おおばんと》はんたちとマァマを探し回ったが、見つけることができなかった。

もうアカン…

もうこれまでだ…

ここでギブアップするしかないようだ…

そんな時であった。

神社の本殿で、深刻なもめごとが発生したようだ。

またところ変わって、神社の本殿にて…

神前式《おしき》は、サンサンクドの儀式に入った。

まず、新郎《おとこ》が持っているますに宮司さまが酒《おみき》を注いだ。

新郎《おとこ》は、酒《おみき》をのみほした。

つづいて、ゆりこが持っているますに宮司さまが酒《おみき》をついた。

ゆりこが酒《おみき》を飲もうとした時であった。

本殿の前に、だらしない格好をしている20代半ばの男がやって来た。

男は、ゆりこに向かって大声で叫んだ。

「ゆりこちゃん…ゆりこちゃん!!」

男の大声に反応したゆりこは、酒《おみき》が入っているますをその場にほかした。

それと同時に、男が本殿に乱入した。

「ワーッ!!ワーッ!!」

(ガツーン!!)

本殿に乱入した男は、ゆりこの結婚相手の野郎をボコボコにいて回したあと、ゆりこを連れて逃走した。

「大杉くんやめて!!何するのよ!!」

ゆりこを奪いに来た男は、ゆりこと健太と同じ小学校に通っていた英才くん・大杉小太郎《おおすぎこたろう》であった。

小太郎は、ゆりこを連れて城の広場にやって来た。

そこへ、健太がやって来た。

健太は、ものすごい血相で怒り狂っていた。

「オドレ大杉《クソッタレやろう》!!」
「健太くん…」

(ガツーン!!ガツーン!!)

健太は、よりし烈な力で小太郎を殴りつけた。

「オドレ大杉《クソッタレ》!!よくもゆりこちゃんをドロボーしたな!!」
「健太くんごめんなさい~」
「ワーッ!!」

(ガーン!!)

健太は、グーで小太郎のこめかみを殴りつけた。

「ワーンワーンワーンワーンワーンワーン…」

小太郎は、女々しい声で泣いていた。

ゆりこは、健太に対して『なんで大杉くんを殴るのよ!!』と怒った。

ブチ切れた健太は、平手打ちでゆりこの顔を思い切りたたいた。

(パチーーーーン!!)

「ワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーン…」

健太に顔をたたかれたゆりこは、声をあげて泣いた。

それから2分後に、私が広場にやって来た。

健太は、私に向かって殴りかかってきた。

「オドレ!!やっつけてやる!!」

そこへ、施設のスタッフさんたち20人が健太を止めた。

「健太くんやめなさい!!」
「離せ!!よーくんもゆりこちゃんをドロボーしようとしたからボコボコにどつくんや!!」
「健太くん落ち着きなさい!!」
「だまれ!!だまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれダーーーーーーーーーーーーーマーーーーーーーーーーーレーーーーーーーー!!」
「だまれは健太くんでしょ!!」
「ふざけるな!!ゆりこちゃんとぼくが結婚できなくなったのはオドレらだ!!」

それから1分後にヨリイさんがやって来た。

「よーくん…ああ、よかったわ…」

私は、ものすごく怒った声でヨリイさんに言うた。

「これは一体なんやねん!!」
「よーくん…」
「これは一体なんやねんといよんじゃ!!」
「よーくん、落ちついてよ…」
「ヨリイさんは、私と健太を決闘させるために呼んだのか!?」
「違うわよ…よーくん、落ちついてよ…」
「私と健太の決闘をセッティングした人は誰やねん!?」
「違うわよ…違うわよ…」

この時、健太はワーッとなってスタッフさんたちをふりほどいたあと、私の胸ぐらをつかんだ。

「よくもゆりこちゃんをドロボーしたな!!」
「健太くんやめなさい!!」
「なんでよーくんに殴りかかって行くのよ!!」
「よーくんも大杉《クソバカ》と同じ英才《えらそうなやつ》だからぶっ殺すしかないんだよ!!」

スタッフさんたちは、健太を私から引き離した。

健太に殴りかかられた私は、カチンと来た。

なんやと…

小太郎と同じ英才《えらそうなやつ》とはどういうことぞ!?

ヨリイさんは、ものすごくおたついた声で私に言うた。

「よーくんごめんなさい…よーくんごめんなさい…」

私は、ものすごい血相でヨリイさんに怒った。

「あやまって済むとおもとんか!?もうこらえへんぞ!!」
「よーくん、それならどうしたらいいのよ!?」
「ふざけるな!!私は、今日限りで母子保護施設《しせつ》と訣別《おさらば》するから…私が特例措置でアメリカ国防総合大学と超有名医大に入ったことをボロクソに批判した…その分もふくめて一生うらみ通すゾ!!…健太は、9000兆倍の力でうらみ通すからな!!」

私の言葉を聞いた健太は、ものすごい声で私を怒鳴りつけた。

「ほんならぼくもよーくんをうらんでやる!!ゆりこちゃんをドロボーしようとしたから一生うらんでやる!!」
「ああ、オレも健太をうらんだらぁ!!オレのことをそこまでボロクソに言うのであれば、健太やゆりこや施設で暮らしていた同い年のコたちとも会いたくないわ!!なんやねん一体もう…」

私は、ヨリイさんとスタッフさんたちと健太とゆりこと小太郎に背中を向けたあと広場から立ち去った。

サイアクだ…

こななことになるのであれば、今治《ここ》ヘ帰って来るんじゃなかったワ…

私は、ものすごく怒った表情でつぶやきながら歩いた。

10月7日の一件が原因で、波止浜の母子保護施設《しせつ》ヘ帰ることができなくなった。

それよりも、大番頭《おおばんと》はんたちとマァマを見つけないと…

このままだと、放浪生活がズルズルと続いてしまう…
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