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第1話・どこへ帰る

【冬の花】

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時は戻って…

私が生まれてくる2日前の1971年11月28日頃であった。

ところ変わって、カナダ・プリンスエドワード島のキャベンディッシュにあるゲストハウス内にあるレストランにて…

レストランの座席に、大きな胎《からだ》を抱えている実母とマァマたちと大番頭《おおばんと》はんと事務長《じむちょう》はんと宮出さんとケントさん夫妻が座っていた。

午後1時頃に、番頭《ばんと》はんがレストランに入った。

番頭《ばんと》はんは、大番頭《おおばんと》はんたちに会議を始めることを伝えた。

「たいへんながらくお待たせしやした。」
「ほな、ぼちぼち始めまひょか?」

大番頭《おおばんと》はんは、事務長《じむちょう》はんに『例のアレを…』と伝えた。

例のアレとは、公正証書《こうせいしょうしょ》に書き換えたセヴァスチャンじいさんの遺言書《ゆいごんしょ》である。

セヴァスチャンじいさんは、遺言書《ゆいごんしょ》を破棄してイワマツの全財産《すべて》を実母の胎内《なか》にいる私に所有権を移すと訣《き》めた。

このあと、事務長《じむちょう》はんが公正証書《こうせいしょうしょ》が入っている封筒をはさみでゆっくりと開封したあと、中身を取り出した。

その後、事務長《じむちょう》はんは実母の胎内《なか》にいる私に向けて公正証書を読み上げた。

まず、事務長《じむちょう》はんは、本籍地をここ(キャベンディッシュ)に移したことを実母と胎内《なか》にいる私に伝えた。

「その前に、コリントイワマツヨシタカグラマシーの本籍地をここ(キャベンディッシュ)ヘ移したいきさつについて申し上げる…実の父親・ラクシュイワマツヨリイエスルタンときょうこは、1971年1月に両方の戸籍抄本《こせきしょうほん》を愛媛県周桑郡東予町《えひめけんしゅうそうぐんとうよちょう》(今の西条市)の役場に移したあと、婚姻届を提出した…保証人の第三者は東予町内《ちょうない》で暮らしているヨリイエの知人の両親である…両親は模範的《もはんてき》で社会の信頼が厚《あつ》いと言うことで、保証人と認定した…戸籍抄本をここ(キャベンディッシュ)に移したいきさつは、1971年7月頃に夫婦関係が急激に冷えたので、きょうこの胎内《なか》にいるコリントイワマツヨシタカグラマシーを保護する目的で移した…保証人のご夫婦のご協力などを経て、1971年8月3日にここ(キャベンディッシュ)ヘ移した…これにより、コリントイワマツヨシタカグラマシーの出生届はここ(キャベンディッシュの役場)で提出できるようになった…よって、コリントイワマツヨシタカグラマシーの出生地ならびに本籍地はカナダ・プリンスエドワード島・キャベンディッシュ・フレンチリバー…である…と言うことを最初に伝えておく!!」

事務長《じむちょう》はんは、長い前置きを述べたあとイワマツの全財産《すべて》を実母の胎内《なか》にいる私に所有権を全部移すことと生まれて来たあとの人生設計《ライフプラン》について読み上げた。

「ひとつ…イワマツグループとイワマツ家の財産書に記載されている全財産《すべて》を、コリントイワマツヨシタカグラマシーに名義変更する…ただし、1989年11月29日までの間は、連帯立会人《れんたいたちあいにん》の管理下に置かれるので、所有権の効力は生じない…満18歳の誕生日を迎える1989年11月30日以降より仮の所有権が生じるが、引き続き連帯立会人《れんたいたちあいにん》の管理下に置かれる…正式な所有権は、法的な手続きをへて生じる…なお、コリントイワマツヨシタカグラマシーに不測の事態が発生した場合に備えるために正式な手続きを行った日から必要に応じてイワマツの全財産《すべて》を連帯立会人のもとで管理する…また、不測の事態でプロジェクトが停止した場合は、連帯立会人《れんたいたちあいにん》はイワマツの独立と安全を完全に確保することに務めること…」

ひと間隔あけて、事務長《じむちょう》はんは強い口調で言うた。

「イワマツの全財産《すべて》の所有権はコリントイワマツヨシタカグラマシーに訣定《けってい》した…つづいて、コリントイワマツヨシタカグラマシーの人生設計《ライフプラン》を発表する。」

つづいて、私の人生設計《ライフプラン》が読み上げられた。

満18歳になったらイワマツの全財産《すべて》がもらえる…

ただし、そのためには法的な手続きを取らなければならない…

私に不測の事態が生じた時は、引き続き大番頭《おおばんと》はんたちの管理下に置かれる…

…などの条件が課されていた。

そしてまた、私の人生設計《ライフプラン》はより過酷な内容が記《しる》されていた。

事務長《じむちょう》はんは、実母の胎内《なか》にいる私に対して、より厳しい条件を突きつけた。

「つづいて、コリントイワマツヨシタカグラマシーの人生設計《ライフプラン》を発表する…心して聞くがよい…ひとつ・『教育』…コリントイワマツヨシタカグラマシーは、日本の国の小学校・中学校・全日制の高等学校へ通うことを厳禁《げんきん》とする!!」

事務長《じむちょう》はんは、実母の胎内《なか》にいる私に『日本の小学校・中学校・(公立私立問わずに)全日制《ぜんにちせい》の高等学校ヘ行くな!!』と厳命《げんめい》した。

それを聞いた施設の女性スタッフさんふたりが、おどろいた声で言うた。

「えー、そんなー!!」
「あんまりだわ!!」

事務長《じむちょう》はんは女性スタッフさんふたりに『静かにせえ!!』と怒鳴りつけたあと、日本の学校へ行くなと言う理由を説明した。

「理由はある…学校は楽しい時間を過ごす場所ではない!!…行事ごとがたくさんある、土曜日半休《バンドン》、夏休み冬休み春休み…休みがたくさんあるからと言う…全くけしからん!!…休みと友だちの家に遊びに行くことしか知らないヤカラどもがいる小学校・中学校・全日制高校《コーコー》に行ったら…コリントイワマツヨシタカグラマシーは100パーセントダメになる!!…大学も大学だ…サークル・合コン・合宿…そして、革命を起こす…目的で大学に行くやつらばかりがいるからますますけしからん!!…そなな大学に行ったら、コリントイワマツヨシタカグラマシーは100パーセントダメになる!!…よって…日本の学校へ行くことは厳禁《げんきん》だ!!…楽しい時間を過ごすことも厳禁《げんきん》だ!!」

事務長《じむちょう》はんは、ケンカ越しの口調で言うた。

女性スタッフさんふたりは、事務長《じむちょう》はんに対して異議《いぎ》を唱えた。

「異議《いぎ》あり!!」
「うちも異議《いぎ》あり!!」

事務長《じむちょう》はんの端にいた大番頭《おおばんと》はんが女性スタッフさんふたりを怒鳴りつけた。

「あんさんら!!だまって聞きなはれ!!」
「なんでジジイが横から入って来るのよ!!」
「そうよそうよ!!」
「やめなさい!!…すみませんでした…」

この時、ヨリイさんが大番頭《おおばんと》はんに対してペコペコと頭を下げてわびた。

その後、ヨリイさんは女性スタッフさんふたりを必死になだめた。

このあと、事務長《じむちょう》はんは私の『教育』に関する事項をすべて読みあげた。

つづいて、『恋愛・結婚』に関する事項が発表された。

「つづいて、『恋愛・結婚』の項目について読み上げる…コリントイワマツヨシタカグラマシーは、日本の国で『恋愛』『お見合い』『結婚』をすることを厳禁《げんきん》とする…たとえ相手の女性が幼なじみであっても、『恋愛結婚』は一切認めない!!…コリントイワマツヨシタカグラマシーの恋愛は厳禁《げんきん》!!…とする!!」

事務長《じむちょう》はんは、よりし烈な言葉で胎内《じつぼのなか》にいる私に『恋愛厳禁《れんあいげんきん》!!』とボロクソに言うた。

それを聞いた女性スタッフさんふたりが、また事務長《じむちょう》はんに対して異議《いぎ》を唱えた。

「なんやねん一体もう!!」
「そうよ!!撤回してよ!!」
「やめなさい!!」

ヨリイさんは、必死になって女性スタッフさんふたりをなだめた。

事務長《じむちょう》はんは、その間に書面に記載されている項目をすべて読み上げた。

約6枚に渡ってつづられた書面を事務長《じむちょう》はんが読み上げたあと、イワマツの全財産《すべて》を私に生前贈与をするために必要な手続きを取る作業に入った。

それから30分後に、法的な手続きを取る作業が完了した。

これをもって、セヴァスチャンじいさんが書いた遺言書は完全に破棄された。

それと同時に、私の人生設計《ライフプラン》を変更することができなくなった。

人生設計《ライフプラン》を変更する場合は、大番頭《おおばんと》はんたちのグループ全員の承認をもらうこと…

…で完全に固定された。

そして…

1971年11月30日…

「オギャー、オギャー、オギャー、オギャー、オギャー、オギャー、オギャー…」

私・コリントイワマツヨシタカグラマシーは、プリンスエドワード島のフレンチリバーの広大な土地の中にある切妻屋根の家で多民族多国籍の男性としてこの世に生まれた。

日本人の名前であるけど、日本国籍がない…

それと同時に、私はセヴァスチャンじいさんと大番頭《おおばんと》はんたちが訣《き》めた人生を歩むことになった。

それから23年後…

私は、路頭に迷っていた。

(ピーッ、ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…)

再び、夜行快速ムーンライトの車内にて…

私は、ウォークマンで歌を聴きながら考え事をしていた。

イヤホンから、鮎川いずみさんの歌で『冬の花』が流れていた。

私は…

もしかしたら…

だまされた…と思う。

大番頭《おおばんと》はんたちは…

どこにいるのだろうか?

仕事に必要な資格9999億9999万9999種類と合計9999億9999万9999号の修士号・博士号とアメリカ合衆国の小学校・中学校・高等学校とマサチューセッツ工科大学の卒業証書は、イワマツの財産書《もくろく》と一緒に大番頭《おおばんと》はんたちのもとで管理されている…

あれがないと、イワマツを作るお仕事ができなくなる…

一刻も早くなんとかしないと…
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