乳房星(たらちねぼし)

佐伯達男

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第26話・永遠

【恋し浜】

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2011年…

今年こそは、おだやかな1年であってほしいと願っていた…

しかし、その想いは無残に砕かれた。

2月22日、ニュージーランド・カンタベリーで大地震が発生した。

マグニチュード7・5~7・9で、最大震度96ガル(震度6強)に相当する揺れがクライストチャーチの中心部を襲った。

クライストチャーチ近辺にある住まい・オフィスビル・店舗・工場・リゾートは無事であった。

A班のメンバーたちは、現地のスタッフさんたちと連絡を取りながら情報収集にあたる。

2月24日朝10時過ぎにA班のメンバーたちがクライストチャーチ中心部に到着した。

この時、取引先の会社4軒に大被害が出た知らせを聞いた。

そのうちの1軒がダイヤモンド鉱山のリース料を3年間滞納していた上に、ケイヤクヤッカン(契約上の決まり事)を守らずに勝手なことをしていたことを聞いた。

それ聞いたA班のメンバーたちは怒り狂った。

許さない…

ゼッタイにこらえへん…

A班のメンバーたちは、例の取引先会社(ダイヤモンド研磨工場)へ取り立てに行った。

こななひどいことしたくなかったけど、経営者が決まり事を破った以上やむを得ない!!

問題の取引先会社にて…

経営者は、泣きそうな声でドゲザしながら私たちに許し乞いをした。

しかし、A班のメンバーたちはソートー怒り狂っている。

大番頭はんは、ものすごい血相でおらび回った。

「アカン!!あきまへんねん!!ケイヤクヤッカンを破った以上、こらえることはできまへん!!」
「こらえてください…この通りです…」
「こらえてほしいのであれば、滞納してはる3年分のリース料と2倍の違約金をはろてください!!」
「わかってまんねん…せやけど…たったひとりのせがれがぺちゃんこになって死んだけん、困っているんだよぅ…」

経営者は、女々しい声で泣きながら許し乞いをした。

大番頭はんは、より強烈な声でおらび回った。

「どないにメソメソ泣いても、アカンもんはあきまへん!!」
「ほな、どないしたらええねん…」

大番頭はんの横にいる事務長はんは、きつい声で言うた。

「ほんなら、セガレの生保金で払え!!」
「生保金で払えって…できん…できん…」
「アカンもんはあきまへん!!うちらになんべん言わすつもりですか!?またこちらにうかがうけど、それまでに3年分のリース料と2倍の違約金を準備してください!!」

経営者は開き直った声で『分かったよ…用意すりゃいいんだろ!!』と言うて、奥へ逃げて行った。

それ聞いたミンジュンさんは、怒り声で言うた。

「態度悪いジジイねぇ!!契約違反したジジイが悪いのになんやねん一体!!」

なんとも言えん…

けど、経営者が契約違反したので法廷措置をとるしかないと思う…

A班のメンバーたちは、オフィスビルに戻って法的措置に踏み切る手続きをとる作業に入った。

この時、私は心身ともにボロボロになっていた。

ときおり目まいに襲われる…

睡眠時間が極力少ない…

お見合いしたいのにできん…

声あげて泣きたいのに、泣けない…

3月1日頃、問題の経営者が車ごと海にドボーンで亡くなった。

問題の会社は他にも大口のローンを作っていて、負債総額が10兆ドルを大きく超えたようだ…

この時、イワマツグループと複数の債権者たちが激怒した。

債権が回収できんなったら、なにもかも終わりだ…

3月1日から10日にかけて、問題の会社の債務を調べてみた。

その中で、問題の会社と取り引きをしていた気仙沼の会社が3年前にトーサンしていたことが分かった。

それを知った私たちは、3月11日に法的措置を取るためにカリフォルニアへ行くことにした。

3月11日朝8時頃、A班のメンバーたちは専用機に乗って旅に出た。

専用機は、シドニー国際空港を出発したあとオーストラリア東岸を通って太平洋に出たあとカリフォルニアへ向かう予定である。

その時にまた非常事態が発生した。

午後2時45分頃であった。

専用機のスピーカーからチャイムが鳴った。

気象庁から緊急地震速報が入った。

「緊急地震速報!!緊急地震速報!!東北地方で最大震度112ガル!!」

それを聞いた私の心に、より激しい動揺が走った。

この時、専用機は南鳥島の西の海上を飛行していた。

フライトスケジュールは、カリフォルニアへ向かう前に北日本から西日本の太平洋側の地域の空港で時間調整のために夕方4時頃に着陸することになっていた。

けど、気象庁から大津波警報・津波警報を発令したから着陸するなと言う知らせが入ったけん、専用機が着陸できなくなった。

私は、大急ぎでバイオ(ノートパソコン)を開いてブックマークから気象庁のホムペに入った。

そして、大津波警報・津波警報・津波注意報の欄にクリックして開いた。

北海道から千葉県外房沿岸に大津波警報…

東京湾から西日本の太平洋沿岸と沖縄にも津波警報が発令された。

3時過ぎに、北海道から西日本・沖縄の太平洋一帯に大津波警報が発令された。

たいへんだ!!

着陸できない!!

この時、徳島阿波おどり空港・高知龍馬空港に着陸する予定でいたが、四国の太平洋沿岸に大津波警報が発令されたので着陸できなくなった。

青森三沢・仙台・羽田・セントレア・関西・神戸・宮崎の沿岸沿いにある空港も着陸できない…

東日本と北日本の内陸の空港も大パニックを起こしているので着陸できない…

どうしよう…

どうしよう…

それから何分か後だったが、巨大津波が東北から関東の沿岸に押し寄せた。

その間、A班のメンバーたちは缶詰め状態になっていた。

またフライトスケジュールが変更になった…

このままカリフォルニアへ向かう場合、燃料は持つのか…

どないせえ言うねん…

夕方4時頃、専用機がどの辺りを飛行していたのかよくおぼえていなかったが、専用機の窓に恐ろしい光景が写った。

浪江・石巻・女川・志津川(南三陸町)・気仙沼・陸前高田・大船渡・釜石・大槌・陸中山田・宮古…

無残な姿になった北日本の港町を見た私は、ガックリと肩を落とした…

どす黒い海水に浸かった市街地…

粉々に砕けた建物…

恐ろしい黒煙をあげながら、街を燃やす炎…

私たちは、何やってるんだ…

空の上で何やってるんだ…

機内に重苦しい空気がただよった。

「くすんくすんくすん…」

すみれさんは、両手で顔を隠して泣いた。

このあと、専用機の燃料がカリフォルニア到着まで持つと言う知らせが入った。

専用機は、予定のルートを一部変更してカリフォルニアへ向かう。

3月12日の早朝(現地時間)に専用機はカリフォルニア州の内陸の空港に到着した。

到着後、A班のメンバーたちは震災対応に取り組む。

津波が日付変更線をこえてアメリカ西海岸に到達するおそれが出たので、情報収集と事後処理に取り組んだ。

その間、私は過労でダウンした。

けど、休むことができない…

ボロボロに傷ついた私は、フラつきながらも必死になって応対をした。

3月16日頃、大津波警報・津波警報・津波注意報は解除された。

しかし、つらい日々はまだつづく…
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