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第1話・遠くへ行きたい
【そして、神戸・その2】
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時は、1976年頃であった。
実母と引き裂かれた私は、施設長さんに育てられた。
幼少の私は、施設で暮らしていたけど四六時中施設長さんと一緒にいた。
施設の行事はあるけど、1度も参加しなかった。
おきてから寝る間での間、一日中施設内で過ごすことの繰り返しの暮らしであった。
なので、施設内に親しい友人等はあまりいてへんかった。
晴れた日は施設のテラスに出て、造船所と渡シ場の周辺の風景をながめていた。
一日中施設で過ごしている私の唯一の楽しみは、ラジオである。
毎日正午に南海放送ラジオで放送されていた『想い出のリズム』を聴くことが、私の唯一の楽しみである。
毎日正午に、大広間に置かれている四脚のステレオのスピーカーから、番組のオープニング曲の蓄音機のメロディーが流れていた時、幼い女の子がテラスにいる私を呼んだ。
「よーくん、想い出のリズムが始まったよ~ゆりこと一緒にお歌を聴こうよぅ。」
私を呼んだ女の子は、同じ施設で一緒に暮らしている鳥居ゆりこちゃん(以後、ゆりこと表記)である。
ゆりこに呼ばれた私は、テラスから大広間に置かれている四脚のステレオの前に行った。
ステレオの前には、私と施設長さんとゆりこと同じ施設で暮らしている布師田賢也(ぬのしだけんや)くん(以後、けんちゃんと表記)の4人が集まった。
私は、施設長さんのひざの上に乗ってラジオを聴いた。
ゆりこは、けんちゃんと肩を寄せ合ってラジオを聴いていた。
『草原の輝き』『空に太陽がある限り』『情熱の嵐』『ブルドッグ』『旅の宿』『太陽がくれた季節』『ドリフのズンドコ節』『いい湯だな』『自動車ショー歌』『函館の女(ひと)』『ありがとう』『ひと夏の経験』『私の青い鳥』『せんせい』『さらば涙と言おう』『木綿のハンカチーフ』『狙いうち』『ブルーシャトゥ』『ああ上野駅』『明日があるさ』『黄色いさくらんぼ』『お祭りマンボウ』『嵐を呼ぶ男』『買い物ブギ』『いつでも夢を』『学園広場』『高校三年生』『君だけを』…
楽しい歌が流れている時は、4人で一緒に歌を歌った…
『異国の丘』『長崎の鐘』『フランチェスカの鐘』『ちいさい秋みつけた』『精霊流し』『遠くへ行きたい』『忘れな草をあなたに』『小樽のひとよ』『ドナドナ』『おふくろさん』『終着駅』『折り鶴』『そして、神戸』『恋の街・札幌』『ふれあい』『赤い花白い花』『シクラメンのかほり』『愛の始発』『北の宿から』『時の過ぎゆくままに』『愛の終着駅』『津軽海峡冬景色』『わかってください』…
号泣ソングが流れていた時は、ぐすんぐすんと泣いていた。
「よーくん、よしよし…」
施設長さんは、ぐすんぐすんと泣いている私をふくよかな乳房に抱きしめてなぐさめた…
せやけど、ゆりことけんちゃんは泣かなかった。
私は、5つくらいまで施設の中で一日中施設長さんと一緒に過ごしたけん、外の世界なんぞ全く知らなんだ。
そんな中で、悲しい事件が発生した…
あれは、1977年8月7日頃であった…
この時、私は5つだった。
時は、朝8時50分ごろだった。
場所は、信州穂高(安曇野市)にある『鐘の鳴る丘』の集会所の前にて…
5つの私は、信州在住の某エッセイスト先生が主宰している子供キャンプに3週間の予定で参加をしたけど、この時リタイアした。
全国各地からやって来た子供たちと仲よくできない上に、飯ごう炊飯などのアウトドア全般ができんかった。
この日、参加している子供たち同士でひどい大ゲンカを起こした…
某エッセイスト先生は『お前なんかもうメンドウみれん…クマのエサになってしまえ!!』と私に怒鳴りつけたあと、他の参加者の子供たちを連れて出発した。
これで私は、なんべん置き去りにされたのか?
置き去りにされた私は、白馬方面へ向かって泣きながら走った…
子供キャンプなんかイヤじゃ!!
なにが規則正しい合宿生活だ!!
ふざけるな!!
ここには、ぼくの居場所なんかない!!
(某エッセイスト)先生のところなんぞ戻らへん!!
絶対戻らへん!!
波止浜の施設に、帰りたくない!!
先生にも会いたくない!!
施設で暮らしている子供たちにも会いたくない!!
私は、ビービービービー泣きながら国鉄大糸線の線路沿いの道を走った…
先生が結婚して、施設を退職することが決まった…
新しい施設長さんに変わるので、居場所がなくなる…
先生は、3週間の間にどうにかしてあげるからと言うたけど、後回しにした…
だから…
先生なんかだいきらいだ!!
新しい施設長さんは、自分さえよければいい人だから…
波止浜の施設には、絶対に帰らへん!!
時は、正午頃のことであった。
ビービー泣きながら走った私は、となりの松川村にある大糸線の無人駅に着いた。
その後、私は待合室のベンチに座ってのんびりと考え事をした…
そんな時であった。
無人駅の近くにある雑貨屋さんの店頭に置かれているラジオのスピーカーから、信越放送ラジオで放送されているリクエスト番組が流れた。
スピーカーから、内山田洋とクールファイブの歌で『そして、神戸』が聞こえた。
私は、歌が流れている間ぐすんぐすんと泣いた。
『ちいさい秋みつけた』『遠くへ行きたい』『ドナドナ』『おふくろさん』『終着駅』『折鶴』『恋の街札幌』『そして、神戸』『かあさんの歌』『シクラメンのかほり』『愛の始発』『北の宿から』『時の過ぎ行くままに』『酒と泪と男と女』『精霊流し』『愛の終着駅』『津軽海峡冬景色』『ヘッドライト』『夕焼け雲』『この空を飛べたら』『かもめはかもめ』…
このあとも、ラジオから悲しい歌ばかりが流れていたので、私は泣いてばかりいた。
そんな時であった。
無人駅の待合室に、クリーム色のワンピ姿の施設長さんがあわてた表情でやって来た。
「よーくん!!よーくん、大丈夫!?」
施設長さんは、5つの私を抱き抱えて保護したあと、駅前に停まっているタクシーに乗り込んだ。
タクシーは、国鉄塩尻駅へ向かって走った。
ところ変わって、タクシーの中にて…
5つの私は、施設長さんに抱きついてワーワーワーワーと泣き叫んでいる。
施設長さんは、泣いている私を抱きしめてなぐさめている。
「よーくんよしよし…よしよし…よーくんつらかったのね…よしよし…」
昼3時半頃に、タクシーは国鉄塩尻駅に着いた。
5つの私は施設長さんと一緒に大阪行きの特急しなのに乗って、信州から逃げだした。
夜7時半頃、列車は終点大阪駅に到着した…
その後、阪神電車の急行列車に乗り換えて青木(おおぎ)駅まで行った…
青木駅に着いたあと、フェリー連絡バスに乗り継いで神戸フェリーセンターへ向かった…
(ボーッ、ボーッ、ボーッ、ボーッ…)
日付が変わって、8月8日の深夜0時過ぎであった…
2人は、高松行きのジャンボフェリーに乗って旅を続けた…
5つの私は、施設長さんと一緒に一等客室にいた…
施設長さんは、ベッドの上でスヤスヤと眠っている私をもうしわけない表情でみつめながらつぶやいた。
よーくん…
つらい思いをさせてしまって、ごめんね…
先生…
おとつい…
結婚式場から逃げ出したの…
先生…
結婚…
やめたわ…
よーくんのそばにいる…
よーくん…
四国に着いたら…
身体(からだ)を休めようね…
実母と引き裂かれた私は、施設長さんに育てられた。
幼少の私は、施設で暮らしていたけど四六時中施設長さんと一緒にいた。
施設の行事はあるけど、1度も参加しなかった。
おきてから寝る間での間、一日中施設内で過ごすことの繰り返しの暮らしであった。
なので、施設内に親しい友人等はあまりいてへんかった。
晴れた日は施設のテラスに出て、造船所と渡シ場の周辺の風景をながめていた。
一日中施設で過ごしている私の唯一の楽しみは、ラジオである。
毎日正午に南海放送ラジオで放送されていた『想い出のリズム』を聴くことが、私の唯一の楽しみである。
毎日正午に、大広間に置かれている四脚のステレオのスピーカーから、番組のオープニング曲の蓄音機のメロディーが流れていた時、幼い女の子がテラスにいる私を呼んだ。
「よーくん、想い出のリズムが始まったよ~ゆりこと一緒にお歌を聴こうよぅ。」
私を呼んだ女の子は、同じ施設で一緒に暮らしている鳥居ゆりこちゃん(以後、ゆりこと表記)である。
ゆりこに呼ばれた私は、テラスから大広間に置かれている四脚のステレオの前に行った。
ステレオの前には、私と施設長さんとゆりこと同じ施設で暮らしている布師田賢也(ぬのしだけんや)くん(以後、けんちゃんと表記)の4人が集まった。
私は、施設長さんのひざの上に乗ってラジオを聴いた。
ゆりこは、けんちゃんと肩を寄せ合ってラジオを聴いていた。
『草原の輝き』『空に太陽がある限り』『情熱の嵐』『ブルドッグ』『旅の宿』『太陽がくれた季節』『ドリフのズンドコ節』『いい湯だな』『自動車ショー歌』『函館の女(ひと)』『ありがとう』『ひと夏の経験』『私の青い鳥』『せんせい』『さらば涙と言おう』『木綿のハンカチーフ』『狙いうち』『ブルーシャトゥ』『ああ上野駅』『明日があるさ』『黄色いさくらんぼ』『お祭りマンボウ』『嵐を呼ぶ男』『買い物ブギ』『いつでも夢を』『学園広場』『高校三年生』『君だけを』…
楽しい歌が流れている時は、4人で一緒に歌を歌った…
『異国の丘』『長崎の鐘』『フランチェスカの鐘』『ちいさい秋みつけた』『精霊流し』『遠くへ行きたい』『忘れな草をあなたに』『小樽のひとよ』『ドナドナ』『おふくろさん』『終着駅』『折り鶴』『そして、神戸』『恋の街・札幌』『ふれあい』『赤い花白い花』『シクラメンのかほり』『愛の始発』『北の宿から』『時の過ぎゆくままに』『愛の終着駅』『津軽海峡冬景色』『わかってください』…
号泣ソングが流れていた時は、ぐすんぐすんと泣いていた。
「よーくん、よしよし…」
施設長さんは、ぐすんぐすんと泣いている私をふくよかな乳房に抱きしめてなぐさめた…
せやけど、ゆりことけんちゃんは泣かなかった。
私は、5つくらいまで施設の中で一日中施設長さんと一緒に過ごしたけん、外の世界なんぞ全く知らなんだ。
そんな中で、悲しい事件が発生した…
あれは、1977年8月7日頃であった…
この時、私は5つだった。
時は、朝8時50分ごろだった。
場所は、信州穂高(安曇野市)にある『鐘の鳴る丘』の集会所の前にて…
5つの私は、信州在住の某エッセイスト先生が主宰している子供キャンプに3週間の予定で参加をしたけど、この時リタイアした。
全国各地からやって来た子供たちと仲よくできない上に、飯ごう炊飯などのアウトドア全般ができんかった。
この日、参加している子供たち同士でひどい大ゲンカを起こした…
某エッセイスト先生は『お前なんかもうメンドウみれん…クマのエサになってしまえ!!』と私に怒鳴りつけたあと、他の参加者の子供たちを連れて出発した。
これで私は、なんべん置き去りにされたのか?
置き去りにされた私は、白馬方面へ向かって泣きながら走った…
子供キャンプなんかイヤじゃ!!
なにが規則正しい合宿生活だ!!
ふざけるな!!
ここには、ぼくの居場所なんかない!!
(某エッセイスト)先生のところなんぞ戻らへん!!
絶対戻らへん!!
波止浜の施設に、帰りたくない!!
先生にも会いたくない!!
施設で暮らしている子供たちにも会いたくない!!
私は、ビービービービー泣きながら国鉄大糸線の線路沿いの道を走った…
先生が結婚して、施設を退職することが決まった…
新しい施設長さんに変わるので、居場所がなくなる…
先生は、3週間の間にどうにかしてあげるからと言うたけど、後回しにした…
だから…
先生なんかだいきらいだ!!
新しい施設長さんは、自分さえよければいい人だから…
波止浜の施設には、絶対に帰らへん!!
時は、正午頃のことであった。
ビービー泣きながら走った私は、となりの松川村にある大糸線の無人駅に着いた。
その後、私は待合室のベンチに座ってのんびりと考え事をした…
そんな時であった。
無人駅の近くにある雑貨屋さんの店頭に置かれているラジオのスピーカーから、信越放送ラジオで放送されているリクエスト番組が流れた。
スピーカーから、内山田洋とクールファイブの歌で『そして、神戸』が聞こえた。
私は、歌が流れている間ぐすんぐすんと泣いた。
『ちいさい秋みつけた』『遠くへ行きたい』『ドナドナ』『おふくろさん』『終着駅』『折鶴』『恋の街札幌』『そして、神戸』『かあさんの歌』『シクラメンのかほり』『愛の始発』『北の宿から』『時の過ぎ行くままに』『酒と泪と男と女』『精霊流し』『愛の終着駅』『津軽海峡冬景色』『ヘッドライト』『夕焼け雲』『この空を飛べたら』『かもめはかもめ』…
このあとも、ラジオから悲しい歌ばかりが流れていたので、私は泣いてばかりいた。
そんな時であった。
無人駅の待合室に、クリーム色のワンピ姿の施設長さんがあわてた表情でやって来た。
「よーくん!!よーくん、大丈夫!?」
施設長さんは、5つの私を抱き抱えて保護したあと、駅前に停まっているタクシーに乗り込んだ。
タクシーは、国鉄塩尻駅へ向かって走った。
ところ変わって、タクシーの中にて…
5つの私は、施設長さんに抱きついてワーワーワーワーと泣き叫んでいる。
施設長さんは、泣いている私を抱きしめてなぐさめている。
「よーくんよしよし…よしよし…よーくんつらかったのね…よしよし…」
昼3時半頃に、タクシーは国鉄塩尻駅に着いた。
5つの私は施設長さんと一緒に大阪行きの特急しなのに乗って、信州から逃げだした。
夜7時半頃、列車は終点大阪駅に到着した…
その後、阪神電車の急行列車に乗り換えて青木(おおぎ)駅まで行った…
青木駅に着いたあと、フェリー連絡バスに乗り継いで神戸フェリーセンターへ向かった…
(ボーッ、ボーッ、ボーッ、ボーッ…)
日付が変わって、8月8日の深夜0時過ぎであった…
2人は、高松行きのジャンボフェリーに乗って旅を続けた…
5つの私は、施設長さんと一緒に一等客室にいた…
施設長さんは、ベッドの上でスヤスヤと眠っている私をもうしわけない表情でみつめながらつぶやいた。
よーくん…
つらい思いをさせてしまって、ごめんね…
先生…
おとつい…
結婚式場から逃げ出したの…
先生…
結婚…
やめたわ…
よーくんのそばにいる…
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身体(からだ)を休めようね…
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