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第3話・時代

【愚図(ぐず)】

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(ガタン!!ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ…カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ…ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカ…)

時は、朝7時過ぎであった。

私は、シャッターがひらく機械音とアルミケースについているキャスター音でたたき起こされた。

私がめざめた時、倉庫の中に数十人の倉庫内にいる若い衆たちがアルミケースを押しながらはげしく往来していた。

それから10分後…

(ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ…バタン!!)

数十人の若い衆たちが倉庫から出たあと、再びシャッターが閉じた。

私にはよくわからないけれど、彼らは女主人が運営しているしいたけプラントの従業員さんたちか?

そんなことはどうでもいい…

ひとり取りのこされた私は、アルミの流し台の下の棚にあるみどり色の大型プラスティックケースの中からはさみを取り出すなど…仕事に取りかかる準備を始めた。

(チョキンチョキンチョキンチョキンチョキンチョキンチョキンチョキンチョキンチョキンチョキン…)

私は、キンショウブロックについている実(しいたけ)と切れはしをはさみでつみとった。

実(しいたけ)は、黄色の大きめのプラスティックケースに…切れはしは白濁色のバケツに分けて入れる…

実(しいたけ)は、店やで作るオタフクソースやきそばの具材に使う…

切れはしは、バケツに集めたあと市指定のゴミ袋に入れる…

若い衆たちは、朝の早い時間と夕方頃にアルミケースを取りに来る…

それまでにキンショウブロックについている実(しいたけ)と切れはしを取り除いて、ホースの水でセンジョウしておく…

毎日がこの繰り返しである。

私は、ひとことも言わずにもくもくと仕事に取り組んだ。

私は…

ほんとうにこれでいいのだろうか…

一刻もはやく大番頭《おおばんと》はんたちを見つけなきゃいかんのに…

でも…

旅費が底をつきたら話にならない…

1円でも多くかせがなきゃ…

時は、10月10日の昼過ぎであった。

私が倉庫の中で二度切り全とばしをしていた時に、女主人がやって来た。

女主人は私に対して『カフェに行こや。』と言うたので、一休みすることにした。

またところ変わって、JR南岩国駅のすぐ近くにある純喫茶店にて…

女主人と私は、一杯400円のハウスブレンドコーヒーをのみながらお話をしていた。

店内にあるユーセンのスピーカーから1940年代のアメリカのジャズのナンバーが流れていた。

女主人は、私に対してこう言うた。

「イワマツさん!!」
「はい。」
「あんたは、なんで嫁はんがおらんけぇに!?」
「なんで嫁はんがおらんけぇにって?」
「なんでおらんのかと聞いてるけぇ!!」

なんで嫁はんがおらんのかと聞かれても分からない…

私は、ものすごく困った表情でつぶやいた。

女主人が言うたセリフは、陸上自衛隊少年工科学校《りくじのだんしこう》の元教官や壬生川のナイトショップの店の人も言うていた…

私は、好きでひとりモンを選んだわけではない…

なのにどうして、まわりは否定的な考えしかないのか…

私は、女主人にたいして陸上自衛隊少年工科学校《りくじのだんしこう》に在籍していた時の教官の家でトラブルになったことを話した。

私は『元教官が言うた言葉は、大きくズレているから理解できない…』と女主人に言うた。

女主人は、怒った声で私に言うた。

「あんたは何年生まれよ!?」
「何年って…1947年生まれですが…」
「あんたは戦後生まれだから、元教官の気持ちが全く分からないのよ!!」

それはどう言うことでしょうか?

私が第二次世界大戦後に生まれた世代だから全く分からないって…

私は、小首をかしげながらつぶやいた。

女主人は、私に怒った声で言うた。

「あんたが世話になった元教官さんは、ごきょうだいが正しい方向へ向かせるために必死になっていたのよ!!」

私は、コーヒーをひとくちのんでから女主人に言うた。

「それでもまだわかりません…自分が取り組んでいたケンキューが世に認められて表彰された…好きなカノジョにプロポーズして結婚を決めた…元教官が一方的に否定したからよけ悪くなった…大学でケンキューに取り組むことがいかんというのが理解できませんよ!!」

女主人は、怒った声で私に言うた。

「いかんもんはいかんけぇ!!」
「はあ?」
「元教官の弟は、どこのどこまで甘えているのかしらね!!」
「弟さんは、真剣に…」
「そう言える証拠なんかどこにもないのよ!!」
「はて、それはどう言うことでしょうか?」
「イワマツさんは、陸上自衛隊少年工科学校《りくじのだんしこう》~防衛大学校にいたから分かるでしょ!!」
「はい。」
「元教官の弟さんは、ケンキューが世に認められたので表彰したと言うたけど、あれは大ウソよ!!」

女主人は、よりし烈な怒りをこめながら言うた。

「元教官の弟さんは、ケンキューしたいから京都の大学に行ったと言うけど、そんなのは大ウソよ!!元教官の弟さんは、テレビ出演が目当てで京都の大学に行ったのよ!!」
「本当ですか?」
「ケンキューすると言うのはタテマエで、ホンネはテレビで目立つためよ!!…昔も今も、大学生たちはなにを考えているのか分からないわ!!」

女主人は、全身でブルブルと震わせながら怒り狂った。

元教官の弟さんが京都の大学でケンキューに取り組んでいたのはウソだった…

それは本当のことか…

私は、ますます分からなくなった。

話を変えるけど、クイズ番組に出演するために東京大学ヘ行った学生さんたちがいたのはご存じでしょうか?

大むかしは東京大学ヘ進学することは一流の証と言うてたが、今はテレビに出演する目的で進学するから話にならない…

彼らは、一体なにを考えているのかとケンシキをうたがいたくなる…

昭和50年代に朝日放送で放送されていた横山ノックさんと上岡龍太郎さんと和田アキ子さんなどの女性司会者のコイカツバラエティ番組『ラブアタック』があったのを思い出した。

私は、北九州の国道沿いにあるラーメン屋でめしを食っている時にあの番組を見ていたけど、どこが腹立たしい部分があった。

アホみたいにフルコースディナーを早食いしたり、女の子にピーアールするためにいいかげんなカラオケなどをしていた…

女子大生《かぐやひめ》に対して交際を申し込んだ男子学生《アタッカー》が落ちるところがみたいので『落ちろ!!』…と観客たちがはやし立てた…

男子学生《アタッカー》が奈落のそこにおちたらアホみたいによろこぶ…

彼らは、どこのどこまで人をいじくっているのか…

そう思うだけでも腹立たしくなった。

やっぱりそうだよ…

私は、陸上自衛隊少年工科学校《りくじのだんしこう》~防衛大学校にいた時は、寮長から外出厳禁と言われたから外に行けなかった…

それなのに、元教官の弟さんはふざけてる…

私は、そうつぶやいた。

女主人は、私に対して怒った声で言うた。

「うちは、26で終戦を迎えたのよ…あの時、うちはホーテンにいたのよ!!…その時…つらい引揚げを経験したのよ…生まれた家は十日市町《トーカイチ》(広島市中区)にあったけど…ピカ(原爆投下)でワヤになった…うちの親類たちも…ピカ(原爆投下)で全員亡くなったのよ…うちも、ホーテンにいた時にソ連兵たちからゴーカンの被害を受けたのよ!!…うちらはそんな極悪な状態で生きてきたのよ…本土に帰還したあとは、一人ぼっちで生きてきたのよ…一人ぼっちになっても必死になって働いたのよ…戦後生まれのあんたにうちらのつらい気持ちなんか分かるわけないわよ!!」

女主人は、ものすごく怒った声で言うたあとのみかけのおひやをゴクゴクとのみほした。

私は、ボーゼンとした表情であたりをみわたした。
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