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第四幕 みんなが子猫を探して上や下への大騒ぎ
そして、飼い主が子猫たちのところに落ちてきた
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これより少し前。
一両の後を追って出口を探していた余三郎は途方に暮れていた。
「おい、どうすんだこれ」
「どうするって……どうしよう?」
一両の後をついて行けば出口へと至ると思っていたのだが、着いた先は行き止まりだった。
行き止まりの岩盤の裂け目からは地下水が流れ出ていて真っ暗な穴の中へと落ちている。穴の中は直角に近い急斜面になっていて足場になりそうなところは一つも見当たらず、ここから落ちれば命はなさそうな雰囲気がひしひしと伝わってきた。
「まさかこの猫が当てずっぽうに歩いていただなんて、普通思わないだろ」
余三郎は一両を抱き上げて左右に振ってみた。歩き疲れてしまった一両はどんなに揺さぶられてもぐんにゃりとしてされるがままになっている。もう一歩も歩きたくないようだ。
「こんな小僧と猫を信じたばかりに……くそっ! このまま引き返すしかないのか」
悪態をつき続ける甘蔵を無視して、余三郎は水が流れ落ちている穴の中に足場になりそうな場所はないものかと頭を突っ込んで調べていたら――、
「ん? ずうっと奥の方が何やら明るいような……」
松明の光が届かないほどの遠くに仄かな明かりが動いているのが見えた。
「何っ!? 本当か!」
「あ、バカ! 押すな!」
甘蔵に背中を押されて手を滑らせた余三郎は一両を抱いたまま穴の中を滑り落ちた。
甘蔵の『しまった!』と言っているような顔があっという間に遠くなった。
『あ……わしはこれで死ぬのか』
穴の中に落ちたのと同時に余三郎は早々と死を覚悟した。濡れた岩肌の上を滑っている感覚があるものの、ほとんど落下に近い速度が出ている。
落ちた拍子に松明を手放してしまったため何も見えない真っ暗な中を落下していく。だからなのか不思議なくらいに恐怖がない。むしろ夢でも見ているような感じで現実感が乏しい。
『わしの最期は貧乏生活の末の餓死だろうと思うておったが、よもや事故死とはな……』
そんな事を考える余裕すらあった。
『さて、どこまで落ちるのやら』
抱いていたせいで不憫にも道連れにしてしまった一両を両腕で包みながら下を見てみると、決して見間違いではない提灯の明かりがものすごい勢いで迫って来ていた。
――いや、逆だ。提灯の明かりに向かって余三郎が滑落していた。
『あ、まずい。下に誰ぞおる! このままじゃ――』
避けろ! と注意をする間も無かった。
岩壁を滑り落ちてきた余三郎は小猿を突き飛ばしてその場でぴたりと制止。
余三郎にかかっていた落下エネルギーの全ては小猿に移り、小猿は飛刀を振りかぶった姿勢のままスポーンと崖下に滑り落ちて行った。
もしこの状況を遠くから見ている者がいたとしたら人間でオハジキ遊びをしているように見えたかもしれない。
一瞬で二人が入れ替わったので至近で見ていた百合丸たちには突然小猿が余三郎に変化したように見えた。
「え? え? なんで刺客が殿に? これはどういう奇術でござるか!?」
それから余三郎と百合丸たちがお互いの状況を理解し合うまでに暫しの時間が必要だった。
一両の後を追って出口を探していた余三郎は途方に暮れていた。
「おい、どうすんだこれ」
「どうするって……どうしよう?」
一両の後をついて行けば出口へと至ると思っていたのだが、着いた先は行き止まりだった。
行き止まりの岩盤の裂け目からは地下水が流れ出ていて真っ暗な穴の中へと落ちている。穴の中は直角に近い急斜面になっていて足場になりそうなところは一つも見当たらず、ここから落ちれば命はなさそうな雰囲気がひしひしと伝わってきた。
「まさかこの猫が当てずっぽうに歩いていただなんて、普通思わないだろ」
余三郎は一両を抱き上げて左右に振ってみた。歩き疲れてしまった一両はどんなに揺さぶられてもぐんにゃりとしてされるがままになっている。もう一歩も歩きたくないようだ。
「こんな小僧と猫を信じたばかりに……くそっ! このまま引き返すしかないのか」
悪態をつき続ける甘蔵を無視して、余三郎は水が流れ落ちている穴の中に足場になりそうな場所はないものかと頭を突っ込んで調べていたら――、
「ん? ずうっと奥の方が何やら明るいような……」
松明の光が届かないほどの遠くに仄かな明かりが動いているのが見えた。
「何っ!? 本当か!」
「あ、バカ! 押すな!」
甘蔵に背中を押されて手を滑らせた余三郎は一両を抱いたまま穴の中を滑り落ちた。
甘蔵の『しまった!』と言っているような顔があっという間に遠くなった。
『あ……わしはこれで死ぬのか』
穴の中に落ちたのと同時に余三郎は早々と死を覚悟した。濡れた岩肌の上を滑っている感覚があるものの、ほとんど落下に近い速度が出ている。
落ちた拍子に松明を手放してしまったため何も見えない真っ暗な中を落下していく。だからなのか不思議なくらいに恐怖がない。むしろ夢でも見ているような感じで現実感が乏しい。
『わしの最期は貧乏生活の末の餓死だろうと思うておったが、よもや事故死とはな……』
そんな事を考える余裕すらあった。
『さて、どこまで落ちるのやら』
抱いていたせいで不憫にも道連れにしてしまった一両を両腕で包みながら下を見てみると、決して見間違いではない提灯の明かりがものすごい勢いで迫って来ていた。
――いや、逆だ。提灯の明かりに向かって余三郎が滑落していた。
『あ、まずい。下に誰ぞおる! このままじゃ――』
避けろ! と注意をする間も無かった。
岩壁を滑り落ちてきた余三郎は小猿を突き飛ばしてその場でぴたりと制止。
余三郎にかかっていた落下エネルギーの全ては小猿に移り、小猿は飛刀を振りかぶった姿勢のままスポーンと崖下に滑り落ちて行った。
もしこの状況を遠くから見ている者がいたとしたら人間でオハジキ遊びをしているように見えたかもしれない。
一瞬で二人が入れ替わったので至近で見ていた百合丸たちには突然小猿が余三郎に変化したように見えた。
「え? え? なんで刺客が殿に? これはどういう奇術でござるか!?」
それから余三郎と百合丸たちがお互いの状況を理解し合うまでに暫しの時間が必要だった。
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