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第二幕 みんなが子猫を探してる
夜伽話 余三郎
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な、なにをしておるのじゃ?
余三郎は自分の部屋にいる三人の少女たちの様子を見て愕然とした。
別に覗き見なんてしようとは思っていなかった。
厠から帰ってきて再び打掛を羽織って丸くなっていたら板張りの床を伝って三人の話す声が嫌でも聞こえてきたのだ。
厠に行くまではそんなにはっきりとは聞こえなかったのに急に聞こえるようになってきたのは、おそらく三人が布団から出て喋り始めたからなのだろう。
話が興にのってきたのはかまわないにしても、もしこのまま夜中まで喋り続けて愛姫が風邪でもひこうものなら、首尾良く姫を大奥に帰したとしても後で責任問題になりかねない。
そう思った余三郎は百合丸と霧を呼び出して愛姫に早く休んでもらうように注意をしようと考えた。
ただ、注意をするにしても夜話を楽しんでいる最中に突然声を掛けて驚かせてしまうのは悪しかろうと、声掛けの潮時を計るために余三郎は襖の間からそっと中の様子を窺っていたのだが――、
「ここと……ここ、なの。見て」
霧が着物の裾を捲って、二人に自分の股ぐらを披露していた。
な、なにをしておるのじゃ?
余三郎は我が目を疑った。
余三郎側から見ると霧の小さな背中しか見えないが、愛姫と百合丸の二人は霧の真っ正面に頭を寄せて、至近距離から彼女の股ぐらを真剣な目で観察している。
「ううむ……ツルツルじゃな」
「見事なまでにツルツルでござるな」
霧はまだ八歳児だぞ、当たり前だろうが!
余三郎は心の中で叫ぶように突っ込んだ。
「父様は霧のこれを見て……殺すしかないと仰った。なの」
二人は目を見開いて息を呑んでいた。聞き耳を立てていた余三郎の顔は驚愕で歪んだ。
な、なにぃー!? 自分の娘の股ぐらがツルツルだから殺すとな!? 立花家はあれか? みな生まれた時からボーボーじゃなきゃダメなのか?
「母様はこの子の責任ではないと庇ってくれた。なの」
「当然でござる。こんなのは本人がどうこうできることではござらぬ」
「その通りじゃ。馬鹿馬鹿しい」
本当にその通りだ。バカげている!
余三郎は物音を立てないようにしながら蜘蛛のように手足を這わせてソソクサと炊事場に向かうと、戸棚から小さな茶筒を取り出した。中には良質の乾燥ワカメが入っている。
わしが将来への予防薬として溜めていたものだが……仕方がない。明日からは霧にも分けてやろう。髪に良いとされるワカメだが、おそらく下のほうにも効果はあるだろう。
余三郎は茶筒を胸に抱えながら思った。
それにしても恐ろしい。何度か立花殿に会ったことはあるが、人の良さそうな顔をしたあの男が鬼畜同然の変態だったとは……。
三人の会話が余三郎にひどい誤解を与えたまま、夜は静かに更けていった……。
余三郎は自分の部屋にいる三人の少女たちの様子を見て愕然とした。
別に覗き見なんてしようとは思っていなかった。
厠から帰ってきて再び打掛を羽織って丸くなっていたら板張りの床を伝って三人の話す声が嫌でも聞こえてきたのだ。
厠に行くまではそんなにはっきりとは聞こえなかったのに急に聞こえるようになってきたのは、おそらく三人が布団から出て喋り始めたからなのだろう。
話が興にのってきたのはかまわないにしても、もしこのまま夜中まで喋り続けて愛姫が風邪でもひこうものなら、首尾良く姫を大奥に帰したとしても後で責任問題になりかねない。
そう思った余三郎は百合丸と霧を呼び出して愛姫に早く休んでもらうように注意をしようと考えた。
ただ、注意をするにしても夜話を楽しんでいる最中に突然声を掛けて驚かせてしまうのは悪しかろうと、声掛けの潮時を計るために余三郎は襖の間からそっと中の様子を窺っていたのだが――、
「ここと……ここ、なの。見て」
霧が着物の裾を捲って、二人に自分の股ぐらを披露していた。
な、なにをしておるのじゃ?
余三郎は我が目を疑った。
余三郎側から見ると霧の小さな背中しか見えないが、愛姫と百合丸の二人は霧の真っ正面に頭を寄せて、至近距離から彼女の股ぐらを真剣な目で観察している。
「ううむ……ツルツルじゃな」
「見事なまでにツルツルでござるな」
霧はまだ八歳児だぞ、当たり前だろうが!
余三郎は心の中で叫ぶように突っ込んだ。
「父様は霧のこれを見て……殺すしかないと仰った。なの」
二人は目を見開いて息を呑んでいた。聞き耳を立てていた余三郎の顔は驚愕で歪んだ。
な、なにぃー!? 自分の娘の股ぐらがツルツルだから殺すとな!? 立花家はあれか? みな生まれた時からボーボーじゃなきゃダメなのか?
「母様はこの子の責任ではないと庇ってくれた。なの」
「当然でござる。こんなのは本人がどうこうできることではござらぬ」
「その通りじゃ。馬鹿馬鹿しい」
本当にその通りだ。バカげている!
余三郎は物音を立てないようにしながら蜘蛛のように手足を這わせてソソクサと炊事場に向かうと、戸棚から小さな茶筒を取り出した。中には良質の乾燥ワカメが入っている。
わしが将来への予防薬として溜めていたものだが……仕方がない。明日からは霧にも分けてやろう。髪に良いとされるワカメだが、おそらく下のほうにも効果はあるだろう。
余三郎は茶筒を胸に抱えながら思った。
それにしても恐ろしい。何度か立花殿に会ったことはあるが、人の良さそうな顔をしたあの男が鬼畜同然の変態だったとは……。
三人の会話が余三郎にひどい誤解を与えたまま、夜は静かに更けていった……。
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