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第二幕 みんなが子猫を探してる

狐屋の裏家業 3

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「そういえば青太郎殿。紙問屋の増山屋の話はご存じですかな?」

 何を思ったのか、武士は暇そうにしている青太郎に話を振った。

「増山屋……あぁ、あの顔に大きな火傷やけどの痕がある枯れ木みたいな爺さんだね。知っているよ。私が遊びに行くと必ず飴を呉れますよ」

 話の内に入れて貰えてご満悦な青太郎。

「だけど独楽こまの腕は私のほうが上ですね。あの爺さんは大したことない」

 むふんと胸を張る。

『こ、この馬鹿、床に伏している爺さんに独楽遊びの相手をさせたのか!?』

 元気が有り余っている子供たちは知らないだろうが、独楽が回るほどの勢いで紐を引くのは老人にはかなりの重労働、しかも増山屋は床払いも出来ぬほど衰弱している身だ。

『なんて迷惑な子供だ!』

 雷蔵はそう思わずにいられなかった。

「そうですか、そうですか。ですがその増山屋さん、最近は随分とお身体の具合が宜しくないようで」

 武士は青太郎にそう話しかけながら、目を一度だけ雷蔵に流した。

『……あ、なるほど』

 雷蔵はこの武士が言わんとしていることを察した。

 狐屋に紙問屋の株を取得する気があるのなら上杉家が後押しをする。ということだ。

 越後の竜とうたわれた上杉謙信の頃から考えればずっと身代が小さくなっているが、それでも所領石高十五万石を誇る城持ちの大大名だ。

 その上杉家が株取得の争いで狐屋を後押しするとなるとかなり優位な位置に立てる。

『これは……美味しい』

 いつまた鞍替くらがえされるか分からない送金窓口の約束よりも、株の取得は確実な金の種になる。

 一度手にしてしまえば余程のことでもない限り株のお取り上げは無いからだ。

 雷蔵がそんな思案を巡らせていると言葉の裏を全く読み取れない青太郎が得意気な顔で話を返した。

「そうなんですよねぇ。いえね、私も心配だったんですよ。いくら年寄りだからといってずっと寝てばかりだと気が滅入めいって体に悪いから元気づけてやろうと工夫したんですけどね」

「ほぉ、どのように?」

 武士は雷蔵の表情を見て伝えるべきことは伝わったと確信したらしく、気軽に青太郎の話に付き合った。

「去年の年の暮れに江戸にしてはめずらしく雪がたんと積もった日があったので、私はさんたくさん雪兎ゆきうさぎを作って爺さんの家へ持って行ってやったんですよ。けれど爺さんは寝ていたから布団を囲むようにして置いてきたんです。あれを見て元気になってくれれば良かったのに……。そうですか、まだ元気になってないのかあの爺さん。まったく、長生きしようって気合いが足りないよ」

 青太郎の話を聞いた二人は心の中で絶句した。

 江戸の町に雪が積もるほど寒い日。

 そんな日に病人の寝ている布団を雪の塊で囲む……。

 きっと部屋の中は外に居るよりも寒かったに違いない。

『増山屋が風邪をこじらせたのはこの阿呆が原因だったのか?』

 雷蔵と話し始めてからはお面をつけたように始終薄い笑い顔を保っていた武士だが、この話にはさすがに顔を強ばらせた。

 雷蔵は何とか笑顔を保ったままだったが顔色は真っ青だった。
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