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第一幕 子猫は勝手気ままに散歩に出かける

子猫は勝手気ままに散歩に出かける 3

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「お、殿ではござらぬか!」

 聞き覚えのある声が植え込みの陰から聞こえた。

「百合丸!?」

 いつもと変わらぬ百合丸の姿を見て、余三郎は無礼討ちになっていなかったことに心底ほっとした。
 ……そして、安心したとたんに抑えきれないほどの怒りが沸いてきた。

「百合丸っ! おまえはいったいどこに――……」

 そんな叱責の言葉が口をついて飛び出すが、その言葉を余三郎は途中で飲み込んでしまった。

 百合丸の後ろから霧が現れて、その背後からもう一人見覚えの無い女の子が出てきたからだ。

「丁度良かった。殿、話は後でござる、さぁ早く下城しましょう」

 ―― 誰だこの娘は? ――

 そんな質問をする余裕も与えられないまま、百合丸を先頭に三人の女の子たちが小走りに鍛冶橋門に向かって去ってゆく。

「お、おい!? こら!」

 馬や籠を使える身分でない余三郎は徒歩のまま百合丸たちのあとを追いかけた。

 先頭の百合丸が門を過ぎる折に門番に向かって軽く手を上げると、

「これは片桐かたぎり殿。先日は世話になったでござる。また遊びに行かせてもらうでござるよ!」

 そんなふうに気安く声をかけて足早あしばやに通ってゆく。

「お勤めご苦労だったな百合丸ちゃん。気ぃつけて帰れよ」

「うむ!」

 元気に目の前を通る百合丸をニコニコしながら見送る門番。

「……」

 無言でぺこりと頭を下げながら霧も通過。

 それにもうんうん。と頷きながら見送る門番。

つと大儀たいぎじゃ!」

 その後に続いて、余三郎も知らない女の子も通過。

 一瞬キョトンとする門番。

 その後を追いかける余三郎は門番に袖を掴まれた。

「猫柳殿。また女の子の家臣ですか?」

「う、うむ。そのようだ……」

 自分自身が何もわからない状態なので曖昧な返事をするしかない余三郎。

 立派な奴髭やっこひげを生やした初老の門番は人好きのする苦笑をしながら「大変ですなぁ」と余三郎を元気づけるようと背を軽く二度叩いた。

「おっと、忘れるところだった。これ」

 片桐はそう言いながらそっと懐に手をやると、竹の葉の包みを余三郎に手渡した。

牡丹餅ぼたもちじゃ。先ほど同輩どうはいから頂いた物なんだが、わしもカカァも甘いものは苦手でな。あの子らに食べさせてやってくだされ」

 人の良い笑顔で微笑む。

「これはかたじけない」

 丁寧に頭を下げる余三郎を見て、まるで出来の良い孫を見ているような笑顔で頷く片桐。

 微禄ではあるが旗本である余三郎に対して一介の門番でしかない片桐が気安く声をかけるなど普通はない事だが、片桐と余三郎は家を貸している貸主と借り手という関係があって、そのほかにも百合丸や霧が度々片桐家に遊びに行ってはお菓子を貰って帰ってきたりするので、片桐夫妻と猫柳の者たちとは日常的に浅くない関係がある。

「おやおや、主君を置いてもうあんなところまで。ははは、子供は元気だの」

 ちょっと立ち止まっている間に百合丸たちの姿があっという間に小さくなっている。

「あ、あやつら……すまぬ。片桐殿。礼はまた改めて」

 余三郎は片桐にぺこりと頭を下げると慌てて三人の女の子たちの後を追った。

「まったく! これでは、どちらが供なのかわからぬ!」

 主人のお共として来たはずの少女たちを、逆に追い駆けている自分の立場がとても情けなく思えてきた。
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