81 / 100
第三章 童貞勇者の嫁取り物語
万が一の事態になったら身を挺して私が逃げる時間を稼いでね!
しおりを挟む
ウェーズリーがホール係に案内されるままに狭くて薄暗い廊下を進む。
彼の後ろについてくるナタリアが不気味なくらい大人しい。
ナタリアがまだおしめをしている頃から知っているウェーズリーでさえこんなナタリアは今まで見たことがない。
こんなに怖がっているのだからナタリアだけ先に帰らせようかとも思ったが、これから面会する元締めはなぜかナタリアにも同席を求めた。
ナタリアが同席を拒否してし逃げ出さないように二人の背後には厳つい顔をした用心棒風の男がついてきていた。
「オーナー。二人を連れて来ましました」
「おう、入れ」
重そうな分厚い木材の扉を開けて部屋の中に案内されると、そこには頭部が猫で身体が大猿という姿の魔族がイライラしながら爪を噛んでいた。
『おい、おいおいおい。なんだこりゃ!? なんで娼館なんかに下級悪魔がいるんだよ!?』
悪魔がいたとしてもせいぜい淫魔程度だろうとふんでいたウェーズリーだが完全に読みを外してしまった。
下級悪魔。
下級とついているが悪魔であることには変わりなく、人間の数倍の身体能力を持っている。魔力や魔法抵抗力は人間の上級魔術師並はあるので、冒険者のランクに当てはめるとしたらS級には届かないもののA級の上位に入る実力を持つ。
もしこの悪魔が二人に襲い掛かってきたら、最盛期を過ぎているウェーズリーではとうてい敵わない。決死の覚悟で戦ってもナタリアを逃がす時間すら稼げるかどうかという実力差だ。
『いや、あわてるな俺。べつに戦いに来たわけじゃない。最初の予定通りに仕事の依頼をして折り合いがつかなければ縁がなかったということでお別れすれば良いだけのことだ』
数々の修羅場を潜り抜けてきた経験でウェーズリーはすぐにここでの勝利条件を『交渉成立』から『生還する』に切り替えた。
「わざわざ時間を取ってもらってすまないねぇ元締め。先ほど案内してくれた姉ちゃんには伝えたが、俺はあんたらに仕事を頼みたくて「うるさい、勝手に喋るな糞虫が」」
さっきからずっとイライラした様子を見せていた下級悪魔がずっと齧っていた爪を噛み切って吠えた。
「バカ! この方はこの店のオーナーだ。ここら一帯を仕切る元締めじゃないよ! で、あんたらを連れて来いって仰った元締めはこの奥にいらっしゃる」
ここまで案内してくれた女性の店員がオーナー室の奥にある扉を指した。
チッ! とオーナーが舌打ちをする。
「てめえが持ち込んだ仕事の話を聞いて元締め様の機嫌が一瞬でドン底まで落ちた。横にいた俺の寿命が百年ほど縮んだぞこの野郎」
オーナーはイライラしながら顎をしゃくってウェーズリーたちに奥の扉へ付いてくるようにうながした。
『どういうことだ。下級悪魔がこんなにビビリちらすなんて。まさかこの奥には上位悪魔が!?』
ウェーズリーが恐怖に足を竦ませて一歩も進めないでいると、上着の裾をクイッと引かれるのを感じて振り返った。
ナタリアが眉尻を跳ね上げた表情で見上げていた。
「しっかりして、気持ちで負けちゃダメよ!」
「お嬢……」
「勇気を出して堂々と言いたいことを言えばいいの! そして万が一の事態になったら身を挺して私が逃げる時間を稼いでね! ベリーさんにはちゃんと遺族年金が渡るよう手配しておくわ!」
「……」
ナタリアの励ましで折れかけていた心が復活し、直後の言葉でポッキリ折れた。
ウェーズリーは項垂れて目頭を覆う。
『どうしてこの小娘はいちいち俺のやる気を削いでくるんだろう? バカなのか?(自問) あ、バカだったわ(自答)』
「どっちも逃がすわけないだろ。早く行け」
二人の後ろにいる厳つい顔の用心棒がウェーズリーの背中を拳で小突いた。
奥の部屋の前で二人を待っていたオーナーが緊張感を滲ませながら三回ノックをする。
「姐さん、先ほどの依頼をした野郎とその連れが来ました。通してもよろしいでしょうか」
まるでドアボーイのような恭しさでお伺いをたてると、扉の向こうからは意外にも若い女性の声が返ってきた。
「かまわないわ」
オーナーは静かに扉を開ける。そしてすぐに体を引いて壁際に寄り、ウェーズリーたちに『入れ』と手を振り子のように左右に振って急がせた。その素振りには『俺は絶対おまえらの巻き添えになんかなりたくねぇからな!』という強い意志を感じられた。
『それほど怖いのかよ!?』
完全にビビりが入っているウェーズリーは今からでも逃亡しようかと真剣に考えたが、すでに出口は塞がれている。完全に袋のネズミ状態だ。
『もうここまで来たら逃げられねぇな』
ウェーズリーたちは覚悟を決めて『懺悔室』のプレートが掛かった部屋に入室した。
彼の後ろについてくるナタリアが不気味なくらい大人しい。
ナタリアがまだおしめをしている頃から知っているウェーズリーでさえこんなナタリアは今まで見たことがない。
こんなに怖がっているのだからナタリアだけ先に帰らせようかとも思ったが、これから面会する元締めはなぜかナタリアにも同席を求めた。
ナタリアが同席を拒否してし逃げ出さないように二人の背後には厳つい顔をした用心棒風の男がついてきていた。
「オーナー。二人を連れて来ましました」
「おう、入れ」
重そうな分厚い木材の扉を開けて部屋の中に案内されると、そこには頭部が猫で身体が大猿という姿の魔族がイライラしながら爪を噛んでいた。
『おい、おいおいおい。なんだこりゃ!? なんで娼館なんかに下級悪魔がいるんだよ!?』
悪魔がいたとしてもせいぜい淫魔程度だろうとふんでいたウェーズリーだが完全に読みを外してしまった。
下級悪魔。
下級とついているが悪魔であることには変わりなく、人間の数倍の身体能力を持っている。魔力や魔法抵抗力は人間の上級魔術師並はあるので、冒険者のランクに当てはめるとしたらS級には届かないもののA級の上位に入る実力を持つ。
もしこの悪魔が二人に襲い掛かってきたら、最盛期を過ぎているウェーズリーではとうてい敵わない。決死の覚悟で戦ってもナタリアを逃がす時間すら稼げるかどうかという実力差だ。
『いや、あわてるな俺。べつに戦いに来たわけじゃない。最初の予定通りに仕事の依頼をして折り合いがつかなければ縁がなかったということでお別れすれば良いだけのことだ』
数々の修羅場を潜り抜けてきた経験でウェーズリーはすぐにここでの勝利条件を『交渉成立』から『生還する』に切り替えた。
「わざわざ時間を取ってもらってすまないねぇ元締め。先ほど案内してくれた姉ちゃんには伝えたが、俺はあんたらに仕事を頼みたくて「うるさい、勝手に喋るな糞虫が」」
さっきからずっとイライラした様子を見せていた下級悪魔がずっと齧っていた爪を噛み切って吠えた。
「バカ! この方はこの店のオーナーだ。ここら一帯を仕切る元締めじゃないよ! で、あんたらを連れて来いって仰った元締めはこの奥にいらっしゃる」
ここまで案内してくれた女性の店員がオーナー室の奥にある扉を指した。
チッ! とオーナーが舌打ちをする。
「てめえが持ち込んだ仕事の話を聞いて元締め様の機嫌が一瞬でドン底まで落ちた。横にいた俺の寿命が百年ほど縮んだぞこの野郎」
オーナーはイライラしながら顎をしゃくってウェーズリーたちに奥の扉へ付いてくるようにうながした。
『どういうことだ。下級悪魔がこんなにビビリちらすなんて。まさかこの奥には上位悪魔が!?』
ウェーズリーが恐怖に足を竦ませて一歩も進めないでいると、上着の裾をクイッと引かれるのを感じて振り返った。
ナタリアが眉尻を跳ね上げた表情で見上げていた。
「しっかりして、気持ちで負けちゃダメよ!」
「お嬢……」
「勇気を出して堂々と言いたいことを言えばいいの! そして万が一の事態になったら身を挺して私が逃げる時間を稼いでね! ベリーさんにはちゃんと遺族年金が渡るよう手配しておくわ!」
「……」
ナタリアの励ましで折れかけていた心が復活し、直後の言葉でポッキリ折れた。
ウェーズリーは項垂れて目頭を覆う。
『どうしてこの小娘はいちいち俺のやる気を削いでくるんだろう? バカなのか?(自問) あ、バカだったわ(自答)』
「どっちも逃がすわけないだろ。早く行け」
二人の後ろにいる厳つい顔の用心棒がウェーズリーの背中を拳で小突いた。
奥の部屋の前で二人を待っていたオーナーが緊張感を滲ませながら三回ノックをする。
「姐さん、先ほどの依頼をした野郎とその連れが来ました。通してもよろしいでしょうか」
まるでドアボーイのような恭しさでお伺いをたてると、扉の向こうからは意外にも若い女性の声が返ってきた。
「かまわないわ」
オーナーは静かに扉を開ける。そしてすぐに体を引いて壁際に寄り、ウェーズリーたちに『入れ』と手を振り子のように左右に振って急がせた。その素振りには『俺は絶対おまえらの巻き添えになんかなりたくねぇからな!』という強い意志を感じられた。
『それほど怖いのかよ!?』
完全にビビりが入っているウェーズリーは今からでも逃亡しようかと真剣に考えたが、すでに出口は塞がれている。完全に袋のネズミ状態だ。
『もうここまで来たら逃げられねぇな』
ウェーズリーたちは覚悟を決めて『懺悔室』のプレートが掛かった部屋に入室した。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。
クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。
そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。
そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも
深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる