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第一章

第10話 聖女博物館

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「いやはや、ヴァルクリス様、この度は本当にありがとうございました」
「いえいえ、そんな、大層な事ではございません」

 とある食事の席。
 一人の大人の女性がその場で立ち上がり、俺に深々と頭を下げた。こちらも慌てて立ち上がり、その上座の大人に向かって、胸の前で両手をふるふると振った。

「実は私としても、大事な娘たちのうちの一人を、親友の息子に任せられるのはとても安心でして。実はこの婚約を望んでいたのです。しかし、うちは男爵家。こちらからそれを進言するのは、例え親友であっても、礼儀に反するというもの。辺境伯家からの後押しは、とても有難かった。本当に感謝する」

 そう、ここはパリアペート男爵邸である。つまり、目の前に居るのはヒューリアのご両親。初めに頭を下げられたのが、パリアペート男爵夫人、そして今お話になっていらっしゃったのが、パリアペート男爵である。

 ロヴェルとヒューリアの婚約の立会人になった後、三領地はしばらくゴタゴタした。

 あ、ゴタゴタと言っても、別に反対する者がいたわけでは無い。むしろそれは全員が賛成したと言っても良い。

 単純に、万に一つでも、子供のいたずらだったとか、すれ違いや欠如と言ったディスコミュニケーションがあったとか、そういったことが無いように、既成事実として固めてしまおう、という事であった。
 本家が正式に、それぞれ手紙や使者のやり取りなどを交わさなくてはいけなかったので、それをゴタゴタと呼んだまでだ。

 で、ひと月程で、ようやくそれらが落ち着いたので、改めて、ヒューリアのパパから、晩餐のご招待を頂いたのだ。もちろん、快諾した。
 そんな訳で、エフィリアとミューを引き連れて、パリアペート男爵領に遊びに来た、と言う訳だ。

 ちなみに、今この場にいるのは、俺たち三人と、男爵夫妻以外には、ロヴェルとヒューリアだけである。

「それは良かったです。しかし、私はただ立会人を請け負っただけ、寧ろ二人を後押ししたのは、この二人です」

 俺は、エフィリアとミューの二人に視線を送った。
 俺の視線を受けて、ニコニコ笑っている天使エフィリエル。そして、張り付けたような笑顔で硬直しているミュー。
 そりゃあそうだ。
 本来、上位貴族の使用人とはいえ、他貴族家の晩餐につくなど、もってのほかである。ミューが、置物のようになっているのも頷ける。

 しかし、面識がなかったとはいえ、ロヴェルもヒューリアも、ご両親にミューの名前はイヤという程聞かせている。そしてその中のほとんどは、彼女への賞賛や好意であった。つまり男爵からすれば、「一方的に知っている娘の良きお友達」であったのだ。
 しかも、使用人とはいえ、その子が二人の婚約の後押しをしてくれた、と言うのだから、身分分けへだてなくもてなさないわけにはいかなかった。

「エフィリア様もありがとうございます。そして君がミューだね。ヒューリアから良く君の話は聞いているよ。なに、今日は爵位や立場など気にせず、楽しんでいってくれたまえ」
「は、はい、ありがたく存じます」

 ちなみに、二人の婚約をめっちゃ後押ししたのはエフィリアであり、ミューはむしろ、おのれの手と目をぶっ壊していただけだったが、あの場にいた全員が揃わない晩餐はイヤだったので、エフィリアと口裏を合わせてそういう事にした。
 まあ、直前にテーブルマナーを執事長のボルディンスに叩き込まれていたのは少し可哀そうではあったが。知っていて損は無いだろう。


 食事も終わり、ひとしきり話も尽きたところで、なんとなく魔王復活についての話になった。

 魔王復活まで後5年。

 各領地では、領主軍が編成され、それぞれの領地の町や村でも、領主の指示のもと、武器の調達や訓練が行われるようになっていた。

「しかし、それらがどれだけ役に立つのか……。確かに文献によれば、魔物は剣や槍で倒すことが出来る。しかし、非常に狂暴であり、人を見つけると襲い掛かってくる上に、個体によっては非常に大きいものもいると聞く。そう言った個体は十数人がかりでも、倒せるかどうか、という事らしい」

 パリアペート男爵は、深刻にそう言った。当然その話は俺も知っていた。

 いや、普通に無理ゲーだろ。
 そう思う。
 モノによっては、ヒグマなんか目じゃないデカさらしい。
 リアルワールドで、轟竜や狂暴竜相手に、紙装甲で「ひと狩り行こうぜ!」って言ってるようなもんだ。「行こうぜ!」じゃない。撫でられただけで死ぬるわ。

 やはり、魔王復活後の『フェリエラ期』に数人生まれると言われている『魔法使い』。そして一人生まれると言われている『聖女』とやらが圧倒的に必要不可欠な戦力であるようだ。

「だからまあ、私達は主に、魔物の各個撃破と、領地の防衛に徹する形になるわね。聖女と魔法使いが現れてくれるまではね」

 そう、普通はどこの領地も、どこの貴族も、いや、むしろこのラルアゼート王国に住む全員が「防衛」を是として準備をし、戦う訳だ。それが当然、当たり前である。

 しかし、俺は……俺だけはそうはいかない。

 魔王を二度と復活させないためにも、俺が直接この手でらねばならない。それが女神ベル様に頼まれた、俺の使命ルールブレイクである。

(うーん、フェリエラ期に産まれていたら、楽だったんだけどなあ……。まあ、それでも魔法使いになる可能性は、文字通り、万に一つ以下なんだろうけど)

 こればかりは、ベル様に文句の一つでも言いたかった。

「うーん……聖女か。依然としてナゾが多いなあ」
「あら、じゃあ、博物館にでも行ってみれば?」

 俺のつぶやきが聞こえたらしい。ヒューリアがパンと手を叩いてそう言った。

「博物館?」
「そ、聖女博物館。数百年前から、聖女様がお生まれになった土地に、その聖女様のご活躍を残すために建てられるようになった施設よ。知らないの?」

 初めて聞いた。そんなものがあったなんてマジでエアポケットである。

 正直「聖女」という言葉は、仕事柄、前世から耳にタコが出来るほど聞き飽きていたが、「聖女博物館」という言葉になると、なかなかどうして聞いた事の無い不思議な響きである。聞き飽きた単語の組み合わせ次第では新鮮な響きになるものなのだな。例えるなら、「マジカル専務」みたいなもんか。

 ともあれ、その博物館には是が非でも行かねばなるまい。どれだけの情報を仕入れられるかは分からないが、魔王復活の前にその存在を知れて良かった。しかし、父上たちにはパリアペート男爵領に行くと伝えてある以上、他領地に向かうならば、一度カートライアに戻り、日を改めなくてはなるまい。

「興味あるな。是非とも行ってみたいのだけど、ここから一番近い博物館はどこの領地なんだ?」
「え? パリアペート男爵領にあるわよ」
「……え?」

 そうなの? らっきー。


 こうして、俺は翌日、いつもの面々を伴って、パリアペート聖女博物館、とやらに向かうことにしたのだった。

 翌朝、ミューが何故かもの凄い多幸感を滲ませた表情を浮かべていたので、「何かあったの?」と訊いたら、エフィリアがミューに同じベッドで寝ようと提案してきたらしい。さすがに断れないので承諾したら、エフィリアはミューに抱きついたまま眠ってしまったらしく、一晩中、彼女は天使を抱きしめて眠ったらしかった。
 なに、その尊い構図!
 こちとらロヴェルと相部屋だってのに。

「とっても幸せでした……」

 そう言ったミューの緩んだ口元が、完全にそれを物語っていた。
 想像して、俺も若干口元が緩んでしまった。
 こういうのを、アレだ。幸せのおすそ分け、って言うんだろう。違うか。

 パリアペート男爵領の聖女博物館は、男爵領南部に位置する、山岳地帯のふもと、ズーカの街にあった。
 博物館、と聞けば、大英博物館や国立美術館クラスのサイズを思い浮かべてしまうが、そんなに大きいものではなく、木造で建てられた小奇麗なそれは、前世の世界で例えるなら、せいぜい記念館、という感じのたたずまいだった。
 入口に立つと、受付嬢が駆け寄って来た。

「ヒューリアお嬢様、この度はご婚約おめでとうございます。ようこそいらっしゃいました」

 さすがに、領地のご令嬢は有名人である。

「ありがとう。リングブリム子爵家のロヴェル様と、カートライア辺境伯家のヴァルクリス様、エフィリア様を案内したいのだけど、大丈夫かしら?」

 ヒューリアが受付にてそう告げると、受付嬢は警備兵を護衛につけることを条件に、快諾してくれた。さすがに身分上、自由に見学と言う訳には行かないらしい。何かあっては責任を取らされちゃうからね。

(折角来たのだ、何かしらの情報を掴んで帰りたい)

 俺はそう思い、博物館の入口をくぐった。

(おお……これはなかなか)

 始めに目に飛び込んできたのは、等身大の、聖女の全身の肖像画だった。どうやらこれが、パリアペート出身の聖女らしい。

「聖女様、素敵ですね」

 横にいたミューがそう感想を漏らした。
 確かに、それは聖女、と呼ぶのにふさわしいいで立ちだった。
 鮮やかな銀髪に均整の取れた顔立ち。白地に青のラインの入った、ロングワンピースにロッドを構えている15歳くらいの凛々しい少女がそこには描かれていた。

「奥には別時代、別領地の聖女様の肖像もございますよ」

 案内について来た受付嬢さんがそう言った。なるほど、つまりは、各博物館では、情報の共有がなされているって訳か。
 確かに良く見ると、自領地の聖女には量は劣るものの、別時代の聖女の最低限の情報は展示してあるようだった。まあ、どこの領地も、「うちの聖女様が一番なんだからね!」って言いたい気持ちは分かるので、そこの情報量の差は仕方無いか。

(情報別にみてみるか)

 そう思い、俺はひとまず全聖女の肖像画から拝見することにした。

 さすがに初代や、二代目あたりの大昔の聖女様の情報は残っていないらしく、直近六人の情報くらいしかなかったが、まあ、これでも四百年以上にわたるデータである。十分だろう。
 こうして並べてみてみると、どの聖女様も確かに「聖女様らしさ」はあれど、衣装も雰囲気はまちまちだった。

 
『紫色のアオザイのような衣装に軽装甲ライトアーマーの聖女様』
『姫騎士のような、青いドレスアーマーの聖女様』
『王宮の女騎士のまんまの、軍服とミニスカートの聖女様』
『幼い魔女のようなゴシックロリータっぽい衣装の聖女様』
『前世で言うところの、教会のシスターのような聖女様』

 ……何と言うか、バリエーション豊かだな。
 
 そして、絵師の忖度によるものか、実際にそうなのかは知らないが、どの聖女様もとても美しく描かれていた。

「どの聖女様も素敵ですね」
「はい、救国の大英雄なのに、皆様とても綺麗です」

 エフィリアとミューがうっとりしている。

 うん。分かる。実際にこんな女の子が、魔法や奇跡の力を持って、救国の英雄として目の前に現れたら、神の使いと勘違いしても仕方ない。俺だって惚れてしまう可能性はある。
 しかし、今重要なのはそこではない。

「坊ちゃま、何か気になる事でも?」

 そう言いながらミューが覗き込んできた。表情に出さずに考え込んでいたつもりだったが、ずっと俺の事を見て来た彼女には、俺の内心も分かってしまうようであった。
 気になった事は二つあった。折角なので、ミューに答えを求めてみるのも良いかもしれない。

「ミュー、聖女様はみんな、何歳くらいに見える?」
「そうですね、15、6歳と言ったところでしょうか」
「うん。聖女様はフェリエラ期に入ってから生まれると聞いた。聖女の力は一般的に何歳くらいに発現はつげんするもんなんだろうか?」
「うーん……あ、足元のプレートに書いてありますよ。えっと、この聖女様は8歳で力に目覚めたみたいですね。こちらは11歳。こちらは6歳。こちらは10歳とありますね」
「なるほど、聖女様によってまちまちって事になるのか」

 これでは、正直参考にならないな。

「坊ちゃん、それが何か?」
「聖女様が力を目覚めさせるまでの時間が分かれば、俺たちが魔物の侵攻から耐えなくてはならない時間の目安になると思ったんだけどな」

 今から5年後に魔王が復活したとして、そしてそこから魔王が侵攻を開始した場合、同年にどこかに聖女が生まれたとしても、何年魔物の侵攻を防がなくてはならないのか。それを把握できれば、兵站へいたんや食料の備蓄や、生産拠点の防衛に役立つ情報になる。そう思ったのだが。
 それに、俺は、ルールブレイカーとしての使命の為にも、聖女様のパーティーに何としても合流しなくてはならない。
 聖女様が本格的に魔王の根城に乗り込むのが17、8歳くらいだとすれば、俺の年齢は30を超えてくる。それまで第一線で戦えるように準備も必要だ。

「恐らくですが、いずれにせよ12、3年は守る必要があるかと思います」

 俺の話を聞いて考えていたミューが口を開く。

「どうしてだい?」
「聖女様は我々の国の生命線です。もしも幼い段階で聖女様の力が目覚めてしまって、それが魔王側に知れ渡ってしまったら、魔王は全軍を投じて聖女様を亡き者にしようと画策するかもしれません。ですので、王宮かそこの領主かは分かりませんが、きっと聖女様が生まれたことを隠すのではないでしょうか」
「なるほど……」

 うーん、確かにその通りだ。
 いくら特別な力を持っているとはいえ、さすがに能力が目覚めたばかりの5歳の女の子を、どう猛な魔物の前に放り出すわけにもいくまい。
 今のところ聖女を信仰する宗教は無いようだが、逆に言えばむしろ、王宮を筆頭に、この大陸全てが聖女教と言っても過言では無いのだ。聖女様に対してのコンプライアンス無視な扱いは、国の存亡に関わるわけだし、ミューの意見もごもっともであった。

「さすがだね、ミュー、確かにその通りだと思う。折角なんでもう一つ良いかな」
「は、はい、何なりとどうぞ」

 俺が手放しに褒めたので、ミューはパッと顔を明るくした。
 うーん、頭も良いし、可愛いし、素直だし。この子が聖女の力を手に入れればいいのに。きっといい聖女になると思う。まあしかし、そんな身内贔屓びいきはさておこう。

「なんで『聖女』なんだろう?」

 俺は、改めて一つの疑問を口にした。するとミューは口元に手を当て、数秒考え、そして口を開いた。

「それは『性別』という意味ですか?」

 ほら、やっぱり頭が良いわ。こんな一言ですぐに正解に辿り着いてくれる、だから彼女と話をするのが俺は好きなのだ。

「そう。例えば『勇者』とか、『神の使徒』とかでも良いわけじゃない? それなら、性別はどちらでも成立する。でも『聖女』という呼び名は、特別な力を持って生まれてくるのが『女性であることが確定している』という事になる」
「確かに……そうですね」
「ミューはどう思う?」
「私が考えつくのは二つです、兄上様」

 うおお、びっくりした!
 考え込んだミューに代わって、いつの間にか背後に立って話を聞いていたらしいエフィリアがそう答えた。

「そのエファの意見を聞かせてもらえる?」

 驚きを隠して俺がそう言うと、エフィリアは楽しそうに俺とミューの斜め前に立った。

「まず今までが、本当にたまたま女性で、毎回「聖女様」と呼んでいるうちに慣習になり、過去の例から考えても、恐らく次回も女性だろうと決めつけて『聖女』と呼んだということです。
 その場合もしかしたら今後特別な力を持った男性が生まれるかもしれません。その時になって、『聖女』という呼び名の男性版が作られる、という事になりますね」
聖男せいだんさま、とか?」

 いやミュー、止めてくれその造語。なんかキモい。普通に『聖人』で良いだろ。

 うーん、でもまあ、そのパターンも無きにしもあらずだよな。
 しかし、俺の中では正直この可能性は薄かった。初回から換算して、全て、救世主が二分の一でたまたま女性である確率は、0.1%も無い。これはもう偶然で片付けられない、必然的確率である。

「そして、もう一つ。私はこちらだと思いますが、何らかの理由で、女性のみが『力を目覚めさせる対象』になる、という場合です」
「何らかの理由?」
「それは分かりません。聖女の力と性別に相性があるのかもしれません。あるいは魔王が関係しているとか」
「魔王?」
「はい、魔王フェリエラは、どの文献にも女性のような姿で描かれています。聖女様や魔法使い様達は、その魔王が生まれる事によって世界に満ちる魔素が原因で、それに反発する力を持って生まれてくる、と教わりました。特に、『フェリエラに対抗する力としての聖女』である訳ですから、何らかの関係はあるかもしれません」
「……なるほど」

 うーん。エフィリアの言う事も一理あるが、やはりどれも可能性の域を出ないな。
 それに、後者の仮定の場合、「聖女」と同様に、魔王の力の影響で生まれる「魔法使い」も全員女性でなければおかしい。しかし、そんな話は聞いたことは無い。
 しかし、これ以上は考えても仕方ない。ひとまず、この話は保留にしておくしかなかった。

 その後、他のブースも見て回った。主な内容は、聖女の生まれた場所や旅の行程、残っている当時の所持品の展示などが主であった。
 その資料にあったのだが、聖女様は、各地に点在する魔法使いを仲間にして、集めきったところでラスボスに挑む、みたいな流れが普通らしい。

(なんでわざわざ、こんなRPGみたいな回りくどい行程を踏むんだろう)

 始めはそう思った。
 別にレベルや経験値がある訳じゃないんだ。聖女も魔法使いも、能力を発現させたものを片っ端から王宮に集めて、装備や金などの準備を盤石にし、騎士団を引き連れて、総力をもって魔王の本陣に攻め入ればいいのに、って。
 しかし、そうもいかないらしかった。魔素に満ちた「フェリエラ期」に入る時、魔物は様々なところで生まれるらしい。つまり、魔王の根城から離れていたとしても、全ての地域が前線となる。
 魔法使いとして能力を発現させたものは、まずは自領とその周辺の防衛にその力を使うだろう。
 各地に点在しているその魔法使いが中心となって魔物の侵攻を抑えていたとしたら、おいそれとそれらを王宮に呼び出せば、防衛能力を失ったその地域はあっさりと滅ぶ可能性もある。
 逆に、魔物の侵攻をしっかりと食い止められている地域に魔法使いが居るのは確定するわけだから、聖女様の方から、その地域の援軍に向かい、一掃した後パーティーに加える、と言うのは確かに合理的な作戦であった。

(であれば、カートライア辺境伯領を、無理くり俺の力で守り抜けば、例え魔法使いでは無かったとしても、その力の噂を聞いて聖女様がやってくるだろう。上手くやれば、そこで聖女様のパーティーに入れる可能性もある)

 ひとまず、魔王復活に際しての当面の課題は見えたと言っていいだろう。それだけでも、今日の収穫は十分だった。
 まあ、カートライア辺境伯領に聖女や魔法使いが生まれてくれると、とても楽なのだけど。ついでに言えば、自分の子供が聖女なのが一番楽。

 こうして俺たちは、パリアペート男爵家の馬車に送られて、無事屋敷に帰還したのであった。


 ……なにか大切なものを見落としているような気もした。

 しかし、帰り際、どれだけ考えても思いつかなかったので、数日後にはその俺の引っかかりも、忘却の彼方へ置き去られてしまった。



(第11話 『彼女のバースデー大作戦 その1』へ続く)
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