上 下
35 / 59
第二章

変なのが増えたひととき

しおりを挟む
「私は、剣は持ちません。刺突剣ならまだしも、あなたは重すぎます」
「むー!」
むーでは、ありませんよ。
まったく、そもそも、勇者と契約しているでしょう。
私は、勇者ではありません。

「待ってくれ、俺を選んでくれたんじゃないのか」
「あぁ?」
態度悪いですね、この精霊。

「そこな獣人のメス。集中力が切れております。番う気なら、そんな致命的な隙に繋がるような行動は慎みなさい。そんなだからCランクなのです。自分の父親を超えるぐらいの意気込みを見せなさい。未熟者」
「つ、番うとか、そんなつもりじゃ」
何を恥ずかしがっているのですか、することは済ませているでしょうに、戦士として名高い獣人のメスを正面から挑戦して、力を認めさせた人間のオスが、父親のくせに、覇気が足りませんね。

「大体、弱すぎて話にならないからと、ハイエルフである私に、修行させられていることを恥じなさい。私は魔法による徹底した殲滅がメインなのです。もののついでのような近接戦を突破できないとは、盾役が聞いて呆れる」
決闘の後、精霊王から頼まれたのは、期限付きの指導。
弱すぎて、また勇者を変えるなどになれば、世界のバランスが崩れるとのことでしたので、仕方なく、足りないものを容赦なく突き付けるというやり方ですが。

「リジェ様、覚悟!」
「どこの世界に、自分を押し売りしてくる聖剣がいますか、殺気を込めてまで、契約の魔法を使うだなんてバカバカしいことはやめなさい」
それもこれも、人間のオスが弱過ぎるからです。
試しに使ってやれば諦めるだろうと、軽く振っていたのですが、扱いが格段に違うと、かえって本気にさせてしまい、もはや、無理矢理にでもという勢いで、契約のための印を私に刻もうと、毎日のように襲いかかってくるのです。
主を決めたはずの、聖剣の精霊がです。

それこれも、人間のオスの扱い方がなっていないせいです。
剣の手入れが雑、扱い方も雑、力任せに素振りすることを鍛錬とのたまう始末。
剣に宿る精霊としては、不満があることでしょう。
あげくに、私から指摘しても、治る気配がない。
よくよく観察してみれば、手入れは、獣人のメスがやっておりましたね。
どうやら、このオスは、世話されるのが当たり前過ぎて、自身の使う物すら、誰かに管理を任せていたようです。
それ故に、獣人のメスが甲斐甲斐しく手入れしていたようですが、まだまだ、スカウトとしても未熟な腕では、手入れは完璧とは程遠い。
本来なら、短剣がメインなのですから仕方ないことでしょう。

「人間のオス。手入れの仕方も覚えられないのなら、専門の者を雇いなさい。オススメはギルドで聞くといいでしょう。奴隷は、勇者が持つには相応しくありませんので、正式なポーターや、鍛冶師などを募集なさい。それと、剣技に関しては、適任をこちらで用意しました。実力は人間としては、申し分ないことでしょう。そろそろ、私もこの国にいる理由がなくなりますので、もう当てにしないでくださいね」
剣聖なら、変な癖のついた人間でも矯正できるでしょう。

「そして、獣人のメス。技術は教えた通りです。道具に頼りすぎていた部分は矯正できました。しかし、まだ弱いので過信せぬよう、人間のオスを支えなさい。それが一番強くなれる道でしょう」
「はい、お姉様!」
私は、あなたより年下です。
妙に懐かれたとは、思っておりましたが、なんですかお姉様とは。
自称妹などいりませんよ。
「やかましい、自称妹。不甲斐ない情報が流れてくるようなら、覚悟しておきなさい」
「もちろんです、お姉様! お姉様の妹として恥じぬよう、日々精進致します!」
いえ、ほんと、なんで懐かれましたかね?

「待つんだ、ラディア、その方は君の姉では──」
「あぁ?」
よく手入れしてあげてるからか、聖剣とも仲良くなった影響で、口が悪くなってますよ、自称妹。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたに愛や恋は求めません

灰銀猫
恋愛
婚約者と姉が自分に隠れて逢瀬を繰り返していると気付いたイルーゼ。 婚約者を諫めるも聞く耳を持たず、父に訴えても聞き流されるばかり。 このままでは不実な婚約者と結婚させられ、最悪姉に操を捧げると言い出しかねない。 婚約者を見限った彼女は、二人の逢瀬を両親に突きつける。 貴族なら愛や恋よりも義務を優先すべきと考える主人公が、自分の場所を求めて奮闘する話です。 R15は保険、タグは追加する可能性があります。 ふんわり設定のご都合主義の話なので、広いお心でお読みください。 24.3.1 女性向けHOTランキングで1位になりました。ありがとうございます。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

離婚の勧め

岡暁舟
恋愛
思いがけない展開に?

絶倫なオネェさんは好きですか?

饕餮
恋愛
オネェな美容師のコウと、スボラでめんどくさがりで色々枯れてる、ある意味女を捨ててる翻訳の仕事をしている薫との話。

妹の方が綺麗なので婚約者たちは逃げていきました

岡暁舟
恋愛
復讐もめんどくさいし……。

下剋上を始めます。これは私の復讐のお話

ハルイロ
恋愛
「ごめんね。きみとこのままではいられない。」そう言われて私は大好きな婚約者に捨てられた。  アルト子爵家の一人娘のリルメリアはその天才的な魔法の才能で幼少期から魔道具の開発に携わってきた。 彼女は優しい両親の下、様々な出会いを経て幸せな学生時代を過ごす。 しかし、行方不明だった元王女の子が見つかり、今までの生活は一変。 愛する婚約者は彼女から離れ、お姫様を選んだ。 「それなら私も貴方はいらない。」 リルメリアは圧倒的な才能と財力を駆使してこの世界の頂点「聖女」になることを決意する。 「待っていなさい。私が復讐を完遂するその日まで。」 頑張り屋の天才少女が濃いキャラ達に囲まれながら、ただひたすら上を目指すお話。   *他視点あり 二部構成です。 一部は幼少期編でほのぼのと進みます 二部は復讐編、本編です。

愛人の子を寵愛する旦那様へ、多分その子貴方の子どもじゃありません。

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵家の令嬢だったシアには結婚して七年目になる夫がいる。 夫との間には娘が一人おり、傍から見れば幸せな家庭のように思えた。 が、しかし。 実際には彼女の夫である公爵は元メイドである愛人宅から帰らずシアを蔑ろにしていた。 彼女が頼れるのは実家と公爵邸にいる優しい使用人たちだけ。 ずっと耐えてきたシアだったが、ある日夫に娘の悪口を言われたことでとうとう堪忍袋の緒が切れて……! ついに虐げられたお飾りの妻による復讐が始まる―― 夫に報復をするために動く最中、愛人のまさかの事実が次々と判明して…!?

夫が離縁に応じてくれません

cyaru
恋愛
玉突き式で婚約をすることになったアーシャ(妻)とオランド(夫) 玉突き式と言うのは1人の令嬢に多くの子息が傾倒した挙句、婚約破棄となる組が続出。貴族の結婚なんて恋愛感情は後からついてくるものだからいいだろうと瑕疵のない側の子息や令嬢に家格の見合うものを当てがった結果である。 アーシャとオランドの結婚もその中の1組に過ぎなかった。 結婚式の時からずっと仏頂面でにこりともしないオランド。 誓いのキスすらヴェールをあげてキスをした風でアーシャに触れようともしない。 15年以上婚約をしていた元婚約者を愛してるんだろうな~と慮るアーシャ。 初夜オランドは言った。「君を妻とすることに気持ちが全然整理できていない」 気持ちが落ち着くのは何時になるか判らないが、それまで書面上の夫婦として振舞って欲しいと図々しいお願いをするオランドにアーシャは切り出した。 この結婚は不可避だったが離縁してはいけないとは言われていない。 「オランド様、離縁してください」 「無理だ。今日は初夜なんだ。出来るはずがない」 アーシャはあの手この手でオランドに離縁をしてもらおうとするのだが何故かオランドは離縁に応じてくれない。 離縁したいアーシャ。応じないオランドの攻防戦が始まった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してますがコメディのようなものです。 ★読んでいる方は解っているけれど、キャラは知らない事実があります。 ★9月21日投稿開始、完結は9月23日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

処理中です...