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序章

御守り

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「はぁ、私も落ちたわね」
5年、5年も経てば、人間、衰えてくるものだ。
相方があまりに、いつも通りだったから、ついつい私も引きずられて、若いつもりでいた。
でも、確実に、私は衰えていた。
と言っても、まだまだ現役を引退するには早すぎる。
だけど、もう、無理だろう。

「へっへっ、まさか、こんな上玉を手に入れられるなんてな。しかも、いい感じに弱ってくれてて好都合」
「死体になりかけの女を抱きたがるなんて、とんだ変態ね。初めてがそんな変態なんて泣きたくなるわ」
ほんと、泣きたくなるわ。
せっかく強くなれたのに、ヘマして、動けなくなって、致命傷。
死にかけ、ただただ、こいつが私を犯したいという、それだけの理由で延命だけされてる。
自害もできやしない。
できるのは、文句を言うぐらい。
それさえも、喜ばせるだけ。
もう、そいつの体液で汚されてないのは、それこそ──

ほんと、最悪の死に方だわ。
女としてこの世界にいる以上、覚悟はしてたけど、ほんと、泣きたくなるわ。
あー、御守りも効かないし、ほんと、最後に文句ぐらい言ってもいいわよね?
変態に、犯されるだけ犯されて、ぐちゃぐちゃにされたんだもの。
許してくれるでしょ。

「何が危機回避できるかもしれません。よ、最悪の死に様じゃないの」
「何、勝手に死んでるんですか、許しませんよ」
なんか、幻聴が聴こえたわね。
もう、意識も朦朧としてきたし、お迎えかしらね。


「起きましたか? まったく、別れてからまだ1年程度なのに、死にかけないでくださいよ。まさか、そんなに早く発動すると思ってなかったので、来るのが遅れたじゃないですか」
「あら、リジェみたいなのがいるわ。死後の世界にしては、優しいのね」
叩かれたわ。
痛いわね。 これ、私、生きてるのかしら?

「随分と、穢れてましたが、そういうことですか。人間のメスは染まりやすくて困ります」
「他の女も同じことされたら、こうなるんじゃないの」
そんな事ないですよ、なんて、リジェは言いながら、バッサリと説明してくる。
本人だわこれ。
どうせ、夢かなにかと思って、文句言ってやるつもりで、洗いざらい話したんだけど、これ、まずいかしら。

「いいえ、他の種族のメスは、ここまで染まりません。人間のメスの特性です。悪であれ、善であれ、人間のメスだけは、オスの欲を受け入れてしまうんですよ。だから、本来なら変質しない魔力が穢れるんです。その代わりに、人間のメスは他種族のオスとの間にも子を成すことができますので、悪いことだけでは無いですけど。ルルを犯したクズの欲に魔力が穢されたので、嫌な特性という認識ですね」

へぇ、そんな特性があるのね。
まぁ、どっちにしろ、リジェが癒されると言ってくれた魔力じゃ、なくなったということね。
なんか、そっちのが残念だわ。

「ルル、1つ、謝る方が良いのか悩んでいることがあるのですが」
「それ、私に対して?」
リジェって、ハイエルフのせいか、謝られた方がいいですか?
って本人に聴くのよね。
斬新よね。

「ルルが死にかけてたので、治したんですけど、ルルが人間のメスだと言うことを失念しておりまして」
「え、ちょっと待って、私に何したの」
明らかに、人間にやっちゃいけないことしたって事よね?
えっ、待って怖い。

「大したことじゃないと思うんですけど、込めすぎた魔力が、ルルの成長を阻害しちゃった代わりに、常時、回復魔法が発動している様な形になったので、数十年、容姿が変わりませんけど、些細な事ですから、謝罪すべきか悩みまして」
「へ?」
ルルでも、そんな呆けた声出すんですね。
なんて聞こえたけど、それどころじゃないわ。
それって、私の寿命がとんでもない事になったって事よね?

「あ、それと。回復魔法のおかげで、ちょっと若返りましたよ。人間のメスは若返りを喜ぶと聞いておりますから、問題ないですよね。明日あたりには、落ち着くので、大体、私より少し年上程度の見た目になると思います」
リジェの見た目は、精々10歳ぐらいなんだけど?
そりゃ実年齢は21ぐらいでしょうけど。
待って、私、リジェより10年ほど年上なのに、見た目があんまり変わらなくなるの?
リジェにとってはちょっとというか、下手したら誤差みたいなもんでしょうけど。
私からしたら、若返りましたなんてレベルじゃないんだけど。
しかも、数十年、見た目が変わらないのよね?
えっ、どうしてくれるのよ。

「それじゃ、屋敷に戻れないじゃないの!」
「戻るつもりだったんですか? たぶん、若返りが起きてなくても、戻ったら死にますよ?」
懇切丁寧に、私が死ぬであろう理由を説明されたわ。
まず、どう考えても、死んでいたはずの私が生きていると分かれば、あの変態だけでなく、最初の襲撃者に私は狙われる。
次に、私は急に幼い体になるから、間違いなく思うように動けないので、今度はそれこそ最悪な死に方をすることだろう。
最後に、私は旦那様を含め、色んな事情を知っている。
リジェみたいに、契約の範囲内であれば、公言しないのであればまだしも、私はそういう縛りもなく、自白の魔法や、薬を使われれば、間違いなく喋る。
となれば、リスクは排除する。
つまり、私に戻るところはない。

「ということで、私と一緒に冒険者をしませんか? 領地の外で活動してますから、バレませんよ。それに、私が幻惑を掛けてあげますので、二重にバレません」
選択肢がないわね。
むしろ、リジェに見捨てられたら、せっかく拾った命も、捨てることになってしまうわ。

「お願いするわ」
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