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第二章

ままならないものですわね

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なんとか奇跡的に、ギルドに辿り着いたので、早速登録をと思ったのですが……

「申し訳ございません、商業ギルドは厄介事を抱え込むわけにはいかないのです。まともな仕事は紹介できません」
「……いえ、わたくしが迂闊でしたわ。商人の皆様は信用が命。わたくしのような爆弾を抱えるリスクに見合うリターンがありませんわね」
こうなると、わたくしに残された道は、あれしかありませんわね。

「夜分に申し訳ないのですけれど、こちらは、常駐のヒーラーは募集してないかしら?」

無事に私の仕事が決まりましたわ。
王太子妃として、隣に立つためにも何か一つぐらい功績を持たねばと、鍛えておりましたことがこのような形で役立つ時が来るとは、思っておりませんでしたが。
はい? なんの仕事かですか?
冒険者ギルド所属の常駐ヒーラーですわ。


数ヶ月後。

「アナちゃーん、回復してくれー」
「その程度でしたら、ヒールは使えませんわね。ポーションか自然回復です。体が傷を治す事を忘れてしまいますわ。手当はしますけれど」
ヒールに頼り過ぎて、止血で済むはずの怪我で死ぬ人も多いのです。
わたくしが、そんな人を量産する訳にはいきませんものね。
ポーションは、根本的な治療にはならないという欠点があり、この場合はこれが役に立ちます。
具体的には、体の持つ治癒力を補助することで、自身のちからで回復させるので、本人の治癒力に依存し、及ばない範囲では回復出来ない。
病気や欠損は治せない。
何より高いので小さな怪我で使う人はいません。
まぁ、あくまで売っているポーションの事ですけどね。
錬金術によって作られた、特級と言われるポーションは欠損であっても治すらしいので、この限りではないということです。

「アナさん、今度新しいヒーラーの子を雇うのだけど、交代でやってもらう事って出来るかしら?」
新しい子ですか、本当ならわたくし1人で独占した方が給与という面で良いのですが。
とは言え、雇うのはギルドの判断であって、わたくしの意思は関係ありませんわね。
「構いません、1日毎の交代で良いでしょうか?」
この時は休み無しだった時より、楽ができる分いいかもしれないわ。
なんて、思っておりました。

1週間後。

「……移籍します」
「あら? アナちゃん、なんで?」
本気で問うておるのでしたら、節穴ですわね?
まず、新しくヒーラーとして入ってきた子は、痛いのは嫌でしょうと、小さな切り傷すらヒールを掛けて回ります。
何度か指摘しましたが、考え方が違うのは仕方ありません。
などと、見当違いな返答でしたので、諦めました。
それでも、冒険者の皆様には注意をしていたのですが、戦闘に出ないやつには分からないなどと言われる始末。
それならそれで良いと、仕事として接していれば、わたくしにまで、同じような対応を求め始めたので、もう限界というものです。
幸い、おかしいと思ってくださる方が移籍の話をしてくれているそうで、いつでも向かえますから。

「お世話になりました」
誰も見送りになんて来てくれませんでしたが、大丈夫です、これから新たな場所でわたくしの楽しいヒーラー職が──
出来るはずだったんですよね。

「あぁん? 移籍? んな話聞いてねぇぞ」 
追い出されました。
文句でも言ってやろうと思えば、優しくしてくれた人達はクスクスと嘲笑っておりますし、これは、わたくしを陥れることが出来て満足と言った所でしょうか。
ふふふ、残念でしたわね、これでも高位貴族の令嬢でしたのよ?
あの程度の謀りなど、読んでいたに決まっているではありませんか、今から容易くひねり潰して差し上げますわ。
ぐすん。
泣いてないですわ……

───────────────────
「なぁ、本当に良かったのか?」
「何がだよ」
そりゃあ、今までの功績無駄にしてまで、1人のヒーラー潰すなんて選択をする事だよ。
何度もやめとけと言ったんだが、こいつらは聞きやしねぇ。
一応、こっち側で、ヒーラーへのフォローはしてあるが、もう冒険者を信用しないなんて言われても仕方ないからな。
どう転ぶかは分からんな。
「大体、そんなに悪辣な子には見えなかったぞ?」
「……それで、俺たちに内緒で助けようとしたってことか」
……やべぇ、ポンコツになりさがったなと思ってたが、実力はそのままかよ。
ミスったな。
「だったらなんだよ? 実力はあるんだ、別の場所で──」

その日、1つのギルドが壊滅した。
消え去ったとかではない、たった1人のヒーラーが掌握してしまったのだ。
まだ、その事実に、誰も気づくことなく。
歪みは少しずつ大きくなる。
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