10 / 32
第一章
夜薔薇の姫
しおりを挟む
「セラさーん、里に入りたいんですけどー」
会議中とかなんとか受付で言われましたが、無視してきました。
前にお会いした時に、何かあれば頼っていいと聞いてますので、一大事の私としては、協力を得たいわけです。
「おいこら、クソガキ、会議中だっつってんだろうが」
挨拶代わりのフルスイングを魔力の壁で防ぐ。
タンクとして支援する時の魔法である。
マジックメイルとか、マジックシールドとか呼び方は様々ではありますけど、ようは常に薄く循環させている魔力を必要に応じて、ギュッと絞ることで、壁や盾としての役割を持たせるということです。
今回は、セラさんの一撃なので点より面で受ける必要があったので壁にした訳です。
バトルメイジは、いかなる場面にも対応することを目的とした前衛型支援職ですからね。
「もー、危ないじゃないですか。セラさんが言ったんですよ? 何かあったら頼ってくれと。私、人類から追放されましたから、匿ってくださいよー」
脳天気なその声に、前から知ってる者達はその変化に驚き、初対面となった者達は、その豪胆さに驚いた。
「という事で、個体名、夜薔薇の姫、ここに参りました。ハデスは現在、纏としておりますので、紹介はご容赦くださいませ」
纏とは、冥王の契約者の中でも特殊な力の授かり方である。
鎧や武器のように身にまとうという形で、力を振るう。
効果は、特殊な冥王の魔法と、身体能力の向上、あらゆる精神汚染に対する耐性、死の属性を得ることによる、即死耐性と再生能力。
これだけ聞くと、至れり尽くせりのようだが、代償は大きく、寿命がごっそりと減る。
蘇生したとはいえ、アンデッドに寄っているエミリーにはその概念がないため、恐ろしい存在となっているが。
「んー、エミリーちゃんの力にはなりたいけれど、里に入れるわけにはいかないわ」
「確かに、話を聞くに、私がいると森が枯れますね」
聖属性に満たされたような森に、アンデッドがいると、どうしても反発してしまう。
「じゃあ、本部に所属はできないのでしょうか」
「可能だ。しかし、通常の冒険者として扱うことはできん。強過ぎるのでな、願わくば辺境の地にて、活動して欲しい」
この場合の辺境とは、どこにも属さない地ということである。
即ち、どこかそのような場所を拠点としてもらい、有事の際に、力を貸してほしいという扱いになる。
それを満たしている場合に限り、本部所属の冒険者として扱うということである。
「ならそれでお願いします。バトルメイジとして、どこまでやれるのか挑戦したいのです」
やいのやいの言ってた人達は、笑顔を向けたら黙ってくれました。
──────────────────
栄光への道、かつては勢いのある、パーティであり、実績の高さから、将来はSランクパーティと持て囃されていた。
かく言う、彼もまた、その自信と野心を隠すことなく、それでいて真っ当な努力のもと、今日まで駆け抜けてきた。
だが、かつてはあった勢いはそこにない。
Bランクとしてはかなり優秀であろうが、そこで打ち止めなのである。
今まで苦戦などしたことの無い魔物に苦戦し、護衛依頼でも、かつてのように、誰も傷を負うことなく達成したはずの力は見る影もない。
彼らは今、伸び悩んでいた。
原因はもう分かっている。
バトルメイジとは、どういう役割を果たすのか、それを履き違えていた自分たちのミスであり、何より、クビを宣言することの意味を分かっていなかった自分達の落ち度だと。
「なぁ、ギル。俺たちは、なんで気づけなかったんだろうな」
「単純だ、彼女の支援が完璧過ぎた。だから、大した力もない、などと誤解した。そして、全てが自分達の力だと思い込んだ。何もかも、突出した才能をひけらかすことなく、僕達に尽くしてくれた彼女に甘えていたからだよ」
こちらが行動する際に、一切邪魔にならないだけでなく、違和感を覚えさせないようなタイミングでのバフ。
何もかもが絶妙なタイミングとバランスで、自分達が成長したのだと思わせるほどの違和感のなさ。
それについぞ、気づかなかったと言うだけだ。
1度染み付いた戦い方は、そう変わらない。
エミリーほどの腕を持つ支援職など、いるはずがない。
それが、バトルメイジという職が廃れた理由なのだから。
要求される技術があまりにも高く、それでいて今回のように、正当な評価をされないことも多いとなれば、やりたがる人は少ない、ましてや、ソロでも通用するほど極めようとは思わないだろう。
「僕はとんだ、クソ野郎だったというわけだな」
勢いこそないが、堅実な冒険者として、彼らは活動していくことになるのだろう。
夢見た先へと届くことは無いと痛感しながら。
会議中とかなんとか受付で言われましたが、無視してきました。
前にお会いした時に、何かあれば頼っていいと聞いてますので、一大事の私としては、協力を得たいわけです。
「おいこら、クソガキ、会議中だっつってんだろうが」
挨拶代わりのフルスイングを魔力の壁で防ぐ。
タンクとして支援する時の魔法である。
マジックメイルとか、マジックシールドとか呼び方は様々ではありますけど、ようは常に薄く循環させている魔力を必要に応じて、ギュッと絞ることで、壁や盾としての役割を持たせるということです。
今回は、セラさんの一撃なので点より面で受ける必要があったので壁にした訳です。
バトルメイジは、いかなる場面にも対応することを目的とした前衛型支援職ですからね。
「もー、危ないじゃないですか。セラさんが言ったんですよ? 何かあったら頼ってくれと。私、人類から追放されましたから、匿ってくださいよー」
脳天気なその声に、前から知ってる者達はその変化に驚き、初対面となった者達は、その豪胆さに驚いた。
「という事で、個体名、夜薔薇の姫、ここに参りました。ハデスは現在、纏としておりますので、紹介はご容赦くださいませ」
纏とは、冥王の契約者の中でも特殊な力の授かり方である。
鎧や武器のように身にまとうという形で、力を振るう。
効果は、特殊な冥王の魔法と、身体能力の向上、あらゆる精神汚染に対する耐性、死の属性を得ることによる、即死耐性と再生能力。
これだけ聞くと、至れり尽くせりのようだが、代償は大きく、寿命がごっそりと減る。
蘇生したとはいえ、アンデッドに寄っているエミリーにはその概念がないため、恐ろしい存在となっているが。
「んー、エミリーちゃんの力にはなりたいけれど、里に入れるわけにはいかないわ」
「確かに、話を聞くに、私がいると森が枯れますね」
聖属性に満たされたような森に、アンデッドがいると、どうしても反発してしまう。
「じゃあ、本部に所属はできないのでしょうか」
「可能だ。しかし、通常の冒険者として扱うことはできん。強過ぎるのでな、願わくば辺境の地にて、活動して欲しい」
この場合の辺境とは、どこにも属さない地ということである。
即ち、どこかそのような場所を拠点としてもらい、有事の際に、力を貸してほしいという扱いになる。
それを満たしている場合に限り、本部所属の冒険者として扱うということである。
「ならそれでお願いします。バトルメイジとして、どこまでやれるのか挑戦したいのです」
やいのやいの言ってた人達は、笑顔を向けたら黙ってくれました。
──────────────────
栄光への道、かつては勢いのある、パーティであり、実績の高さから、将来はSランクパーティと持て囃されていた。
かく言う、彼もまた、その自信と野心を隠すことなく、それでいて真っ当な努力のもと、今日まで駆け抜けてきた。
だが、かつてはあった勢いはそこにない。
Bランクとしてはかなり優秀であろうが、そこで打ち止めなのである。
今まで苦戦などしたことの無い魔物に苦戦し、護衛依頼でも、かつてのように、誰も傷を負うことなく達成したはずの力は見る影もない。
彼らは今、伸び悩んでいた。
原因はもう分かっている。
バトルメイジとは、どういう役割を果たすのか、それを履き違えていた自分たちのミスであり、何より、クビを宣言することの意味を分かっていなかった自分達の落ち度だと。
「なぁ、ギル。俺たちは、なんで気づけなかったんだろうな」
「単純だ、彼女の支援が完璧過ぎた。だから、大した力もない、などと誤解した。そして、全てが自分達の力だと思い込んだ。何もかも、突出した才能をひけらかすことなく、僕達に尽くしてくれた彼女に甘えていたからだよ」
こちらが行動する際に、一切邪魔にならないだけでなく、違和感を覚えさせないようなタイミングでのバフ。
何もかもが絶妙なタイミングとバランスで、自分達が成長したのだと思わせるほどの違和感のなさ。
それについぞ、気づかなかったと言うだけだ。
1度染み付いた戦い方は、そう変わらない。
エミリーほどの腕を持つ支援職など、いるはずがない。
それが、バトルメイジという職が廃れた理由なのだから。
要求される技術があまりにも高く、それでいて今回のように、正当な評価をされないことも多いとなれば、やりたがる人は少ない、ましてや、ソロでも通用するほど極めようとは思わないだろう。
「僕はとんだ、クソ野郎だったというわけだな」
勢いこそないが、堅実な冒険者として、彼らは活動していくことになるのだろう。
夢見た先へと届くことは無いと痛感しながら。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる