勇者置き去りの案内人

雪蟻

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第2章

☆危機感がない子供

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私の名前は、今はミアであり、これから変わる気も戻す気もない。
リリーシャ姉様とこれからも楽しく過ごしていくはずだった。
異界より現れた勇者さえいなければ。
彼の名はサイトウ・ハジメと言うらしい。
仲間は沢山いるそうだが、旅立ちに連れていくのは聖女のユイザキ・カナメのみ。
あてにしている相手がいたそうだが、1人は案内人の称号持ちであるリリーシャ姉様。
まず不可能である、彼のせいでリリーシャ姉様は形だけでも処罰せねばならない立場。
まず来るわけが無い。
そして、剣士としての私という意味のわからない事を言っている。
そもそも、私は精霊術師で演奏士である。
剣は調査員として戦闘が必要な時、剣舞という形で精霊と共に戦うために鍛えてるだけで、剣士とは程遠いにも関わらず、しつこく剣士になるべきだと言いがかりを付けてくる。
謎の鑑定スキルのようなもので私の適性が分かるなどとのたまっているが、精霊術師である私が魔法を捨てる意味がわからない。
何より、リリーシャ姉様と会えなくしてくれたこの男の仲間として旅に出るなど死んだ方がマシである。
そして、その勇者はギルドの冒険者にとことん嫌われている。
理由は挙げればキリがないが、それでも抜粋しようと思う。
まず、弱い。
単独のゴブリンを相手するだけなのに、まず臭いがキツいなどとほざき、吐く。
倒したら倒したで、グロいなどとのたまい吐く。
しまいには、無駄に高威力の勇者様魔法(冒険者内での呼び名)で消し飛ばす始末。
素材としても使うのだからそういう無駄な事はやめてもらいたい。
次に、馴れ馴れしい。
モブ如きがどうのと意味のわからない謎の言語で他の冒険者をバカにし、すぐに喧嘩する。
なまじ、対人戦は鍛えられているので鬱陶しいことこの上ない。
最後に、案内人が二度と戻って来れないような事態にしておきながら、誰にも謝らない。
むしろ、これが一番大きい。
そもそも、私を王族と見抜いたのなら、あんな場面で正体をばらすような真似は普通しない。
ましてや、私は死んだことにしていたのにである。
つまり、国内の情報すらまともに理解していない。
こんなポンコツが魔王退治とは笑わせてくれる。
そんなバカのせいで、誰よりも信頼されていた優秀なリリーシャ姉様が身を隠さねばならなくなったのだ、みんなの怒りは大きい。
それにもかかわらず、謝りもしないのであれば、誰も協力などするはずもなく、ただ無駄に時間が過ぎていく。
とっとと、旅に出てもらいたいものである。

「なあ、ミア。そろそろ剣士として俺たちの旅についてこないか?」
「お断りします。私はギルドの調査員としてその職務をまっとうします。」
さすがに半年もすれば、少しは強くなったが、所詮恵まれたスキルに頼りきった子供でしかない勇者のお守りなんてやりたくもない。
「そうか、これだけは使いたくなかったけど仕方な──」
「その必要は無いわ、さっさと向かうわよ、勇者さん?」
勇者が何かを取り出そうとしていたが、突然現れた女性がそれをさえぎった。
というかリリーシャ姉様である。
「どうして、リリーシャ姉様が」
「……ごめんなさい、残念ながら私は貴女の知るリリーシャという冒険者ではないわ。彼女は私のためにスキルをありえない方向で使ってしまったから」
自在変化をありえない方向?
問いただそうとした私だったが、勇者の方が早かった。
「あれ、初代聖女じゃん、えっ隠しルートの方? 何にせよこれで勝ち確じゃん。よろしく、えーっとエルシアだったよね?」
「……ほう、この私が初代聖女であると見抜いてのその狼藉ですか、名を呼んで良いなど許可した覚えはありませんが、どういうつもりかしら?」
静かな声ではあったが、その殺気は凄まじく、向けられていない私ですら殺されたのではないかと錯覚するほどの恐ろしい冷たさであった。
「え、名前呼ぶのに許可がいるの? なにそれ、笑えるんだけど」
「……なるほど、命のやり取りをしたことがないと見えます。まぁ、構いません。さっさと向かいましょう」
なるほど、死の恐怖を実感した事がないから、殺気を感じ取ることが出来ない。
今まさに、殺されかけていたことなんて気づきもしない。
子供と一緒。
変に強いスキルを手にしてしまって、後出しでも勝てるから結局危機感が芽生えない。
タチが悪い。
こんなのが勇者だなんて。
「いや、さすがに準備ぐらいさせてよ」
「私がいれば戦闘する必要すらないのに、なんの準備が必要だと言うのです」
その辺の猫でも捕まえるかのように勇者を引きずるリリーシャ姉様の姿をした初代聖女様(仮)である。
「それと、リリーシャのことを知りたいのなら着いてくるといいわ」
そんなことを言われたら、私に選択肢などない。
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