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【初級者 編】

来たる! NPCK

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 ◇

 
 米子がタッタ村で熱々の粗茶を飲みながら、婆さんとのんびり会話をしている頃。

 チキンと愉快な仲間たちは……失礼、愉快なチキンと仲間たちは森の出口付近まで来ていた。

「あーあ、結局マイコちゃんと会えなかったねー」
「もしかしたら、森には来てねーかもだな。人の気配を感じたのは、あの子供たちの姿を見たときだけじゃね? 狩りしてるってんなら、物音くらい聞こえてもいいんじゃねーかな?」
「チキン君の言う通りかもね。確かに誰か近くにいるなら物音が聞こえるはずだよ」
「……です」コクリ

 森の中心部付近での出来事以降、これといって大きな騒ぎもなく出口付近まで辿り着いた一行。

 とくに人の気配を感じなかったことから、森ではなく他のフィールドへ赴いたのではないかと予想。勿論、中心部での出来事は米子と子供たちによるものだが、それに気付かなかった故の予想となる。

「あ、もしかしてモシカシテ。お兄さんとか人の気配を感じ易いのかな?」
「ん……ヒューマンなんかよりは耳や目が良いと思う。けど、レイカちゃんみたいな純血のエルフには敵わないかな。僕はハーフエルフだからね」
「……です」

 エルフは視覚及び聴覚が、他の種族とは一線を画す。ベニネコは、それを知ってバリュートへ聞いたが、バリュートはハーフエルフなので純血なエルフであるレイカよりは劣ってしまう。

「わたしもエルフにすれば良かったかなー。なんか、いろいろと便利だよねー エルフ」
「エルフ、すぐ疲れる……です」

 エルフの能力は高く使い勝手も良いと言える。
 しかし、体力が著しく低いことから極めて疲れ易い。

 これは普通に行動するだけなら支障をきたす事は無いが、窮地に陥った際には逃げ切れないなどのリスクがあるのだ。

 だからこそ、遠距離攻撃を目的としなければ戦闘が難しいと言えよう。それは近距離戦闘が『難しい』のであって『出来ない』のではない。

 プレイヤーが選べる種族は、ヒューマン、エルフ、ドワーフの三種族のみである。

 会話をしながら歩む先には、森の出口を目視できるほど近づいてきた。
 木々の間からさす光が段々と明るくなるのを視覚に感じ、何もなく一安心というところか。
 射し込む陽の光から、夕刻までにはほど遠い時間と気づかせる。

 出来る限り早めの目的地を目指すバリュートも、安心感から笑みも溢れご機嫌な様子だ。

「いやー 良かった! 森さえ抜ければ、危険は無さそうだね」

 しかし――――

「……来る」

 レイカは足音を瞬時に聞き取り、此方へ向かっていることを告げる。それを聞いたバリュートも耳を澄まし真剣な表情を浮かべ言う。

「……多いぞ。こりゃ一〇人以上はいるな。真っ直ぐ此方へ向かって来ていることから察するに、間違い無さそうだ」
「一五……一八。です」
「ありゃりゃ。噂のNPCキラーかな?」
「森の何処かで兄貴を見かけたのか? わざわざ人集めて待ち伏せしていやがったか。俺様に逆らうとは、全くいい度胸してるじゃねえか」

 エルフの聴覚は良いが、音のみで人数を言い当てることは難しい。それでもレイカが予想できたのは、彼女の高い洞察力の問題であり、冷静さを保てる性格なども含まれよう。

 そして森の何処かでバリュートに目を付け、チキンが有名なことから人を集めていたのだと考えられる。

 足音は次第にチキンやベニネコにも、それと分かるほど近づいてくる。一行が森を抜けたと同時に、足音の主たちが待ち望んでいたかのように、立ちはだかってきた。

 男性プレイヤーが一六人、その中に紛れて女性プレイヤーの姿も……二名。
 そんな中、先ず最初に口を洩らしたのはチキンであった。

「なんなん、オメーら? 見たところ、仲良くお話をしにきたツラじゃねえな。噂のNPCキラーってヤツか?」

 チキンの言葉を聞き、集団から一歩前に出てきたのはヒューマンの女性プレイヤー。長々とした槍を持っていることから、ランス使いかと思われる。

 妙に色濃く塗った口紅やアイシャドウ。
 髪はロングで強気なホステスといった印象。

 女性プレイヤーは腰に手を当て、見下すように口を開く。

「だったら何だってんだい? アタシたちはプレイヤーキラーとは違うんだ。おとなしく、そのハーフエルフを引き渡すっていうなら……逃してやってもいいよ?」

 女性プレイヤーは、こう言って右手を軽く挙げ合図を送ると、プレイヤーたちは一行を囲うようにして周囲に群がってきた。

「あん? 俺様がこの程度の人数で、恐れ戦くとでも思ってるの? 逃げるのなら、それはオメーらのほうな」
「ふんっ! あんた、あのチキンだろ? まあまあ名も知れた男だから、その名に免じてお姉さんが優しくしてあげたつもりなんだけどね? ”あとで”後悔しても知らないよっ!」
「あとで後悔? あとの、後とか、それ何年後の後悔だよ。それに俺様は若い女子オナゴしか興味ねーんだが? そもそも先に後悔するとかねえし、を付けるだけ無駄なんだよババア」

 女性プレイヤーの眉間にシワがより、額には青筋が浮き出る。

「ババ……ふ、ふふっ。あんたアタシの美しさを前にして、なかなか面白い冗談をいってくれるじゃないかい?」
「はい? 俺様が冗談いったように聞こえたのか? ってかババアなんだから、あんま眉間にシワ寄せっと刻まれちまうぜ?」
「――なっ!?」

 女性プレイヤーの身体は小刻みに震え、怒りを露わに拳へと力を込めた。
 そのふたりの会話に入り込み、群がるプレイヤーのひとりが口を洩らす。

「あ、アネさん! チキンはオレのパーティーに任せてくれ! こいつにはマジムカついているんだ」

 これを聞き入れた素振りを見せる女性プレイヤー。
 自身の怒りをジワリジワリと鎮め、握りしめた拳の力を緩める。

「ふんっ! タケシかい。アンタのパーティーなら問題なさそうだね。アタシが直接殺りたいところだけど……譲ってやるよ」
「あ、ありがてえ! 任せてくれアネさん!」
「ん? 俺様がなんで、オメーに恨まれなきゃならないんだ? タケシ、タケちゃん、タケスィー……? んー どっかで会ったっけ?」

 チキンは既に忘れている様子だが、彼はネカマのタケシ。タケシがチキンを恨む理由は、苟且の塔でパーティーを断られたから。

 そう、このタケシとは心のちっさい男である。

「あれだけオレをバカにしといて忘れてる、だと!? フザケやがって――だが、フッフッフッ。あの時オレを選ばなかったことを、あとで、アトアト、のちに、そのうち後悔させてやるZEEE!」

 ――どんだけ未来の話!? それ後悔する前に寿命きてっからッ!

 と、この場にいる全員の脳裏に戦慄が走った。
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