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【初級者 編】

NPCK

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 ここ、始まりの街は円形状の形をした街で、周囲を囲むように石で建てられた塀が立ち並ぶ。
 塀は身長より三倍ほどの高さで、街の出入り口は東西南北一箇所づつあり、計四箇所。ふたりが目指す中央広場は、この出入り口を直線で結んだ街の中心に位置する。

 街の北と南には商店街があり、東と西は居住区が建ち並ぶ。ふたりは北商店街を通り抜けるようにして、街の中心部へ。

「――あ、そろそろアップデートとか、ありそうだねー!」
「……です」コクリ

 現実世界と仮想世界、ふたりの共通する話題は多く会話が途切れることはないに等しい。会話は特に話題性を呼ぶ内容ではないが、しがない会話でも盛り上がれるのは仲の良い証拠なのであろう。

 会話が弾めば疲れも忘れ、進む歩みが重くなるはずもなく、目的の中央広場へ難なく到着することができた。

「えーっと。どんなひとだったっけ? 確か……」
「…………」
「んー……ありゃりゃ? 忘れちった」
「名前はバリュート。旅の商人でハーフエルフの男性。大きな荷物を抱えている……自称イケメン」

 ベニネコが周囲を見回しながら考えていると、レイカが自身の記憶力を発揮してさらりと答える。普段は無口のレイカがこのように口数が多くなる際は、決まって誰かに会話のモタつきが伴う時。

 これは単にレイカの性格から来るもので、会話相手にもよるが見た目に寄らずせっかちな面もあるようだ。

「いやあ……さすがレイちゃんだねー。とりあえず手分けして探してみよか? ハーフエルフだし、すぐ見つかるんじゃないかな?」
「……です」コクリ

 ベニネコ「すぐ見つかる」というのも、ハーフエルフとは通常のエルフより小柄であり、ハーフ系キャラクターは数が少ないからである。すぐに見つかるかは別として、小柄のエルフで大きな荷物を抱えた男性を探せば見つけやすいとも言える。

 二人は協力し合い、手分けして待ち合わせの人物であるバリュートを探す。

 約一〇分ほど探して元の位置に戻ると、先に口を開いたのはベニネコであった。

「ぜーんぜん、見つからないや。レイちゃんは見つけられた? って、ここほんと人多すぎるよねー。まいった、まいった」

 そのベニネコに続いて、レイカが首を横に振りながら答える。

「ダメ……です」

 目的のバリュートなる人物を、すぐに探し出せるであろうと思っていた二人だが、なかなか見つからずこれからどうしようかと待ち惚け状態となってしまう。

 ただ立ちすくむまま周囲の人々に目を向けていると、聞き耳を立てずして二人に聞こえてきたのは、プレイヤーたちの会話であった――――

「オイ。また出たらしいな、NPCキラー。最近多いみたいだぞ」
「……らしいね。この辺りでも何人か被害に遭っているみたいだし……そんなNPCだけ狙って経験値ウマいのかな……?」
「だろ? NPCに手を出したら、公共施設やNPC経営の店が全部使えなくなるだろ? まあ……オッサンぐれーに経験値稼げるならNPCでもいいが」
「ははっ、だね! けど、オッサンと遭遇したら速攻で逃げるべきだよね? オッサンは言い過ぎかもしれないけど、レアならNPCも有りだと思うよ。……とはいえ、レアでもないNPCに何の価値があるんだろうね? 楽に倒せるくらいじゃないの?」
「それもあるが、ただ悪役ぶりたいだけなんじゃねーかな? リアルでストレス溜まってるやつとか? どちらにせよ楽して稼げるって思えば、NPCキラーとして身を置くのも有りなんだろうよ」

 ゲーム世界で良く耳にする『PK』は『プレイヤーキラー』又は『プレイヤーキル』の略称で、プレイヤーのみを対象とした戦闘行為を行う者たちを指す。先に伝えておくが、PKとは”どこぞのエリア内でボールをゴールへ蹴り入れるペナルティーなんちゃら”、とは違う。

 この世界にもPKを行うプレイヤーは数多く存在し、それに加えてNPCのみを対象とした『NPCキラー』と呼ばれるプレイヤーもいる。

 NPCを襲う理由は経験値が欲しいから。だが、もともと戦闘行為そのものを頻繁に行わない通常のNPCから得られる経験値は、モンスターと比べ少なめ。

 そしてプレイヤーがNPCを倒した場合、NPCが経営する施設の全てが一時的に使用できなくなり、買い物やクエストを制限される。

 買い物ではNPCが営む店の使用不可制限、施設はストレージやギルド会館などが同じく使用不可能となってしまい、NPCを襲うのは得策でなくそのリスクは大きい。

 モンスターとNPCには決定的な違いがある。
 モンスターの場合、他の者へ敵意を向けることは本能であり、生き抜くための手段として戦闘を行う。プレイヤー側が何もせずとも襲い掛かってくるのが普通の行動。しかし、NPCは友好的なものが多く、むやみにプレイヤーを襲うことは少ないようだ。

 例外としてNPCを傷つけても良い場合もある。それは敵意を持つNPCをプレイヤーが矢も得ず倒してしまったり、又は敵意のあるNPCを狙って倒す状況下ならば問題はない。

 つまり敵意を持つNPCとの戦闘行為は、施設の使用不可などの制限が行われないのである。そしてモンスターにも友好的な者がいるのだが、むやみに襲っても全く制限されることはない。この点がモンスターとNPCの違い。

 では、なぜリスクを背負ってまで友好的なNPCを襲うプレイヤーが後を絶たないのだろうか。

 その理由の一つと挙げるとすれば、簡単に倒せるからである。
 相手は攻撃してこないのだから殲滅することも容易であり、更には弱いNPCでも経験値を一度の戦闘で荒稼ぎする方法もあるのだが……。

 
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