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【初級者 編】

話題作り(暇つぶし)

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 時刻は午後五時二〇分。

 MMOのような多人数参加型ゲームではよく目にするチャット。

 そのチャットとは『コンピュータネットワーク上で、リアルタイムに複数の人が文字を入力して会話を交わす』ものを指す。

 予備知識として、チャットには『禁止語句』というものがある。
 ここで、その語句について説明するつもりはないが、”使えない文字がある”ということ。その他、一度で送信できる文字数制限なども。

 EXにもチャットがあり、日々プレイヤーたちは情報交換から日常会話まで、幅広く活用している。

 ゲームに限らずチャットは楽しいものだ。
 これは”古いチャットシステム”及び”新しいチャットシステム”と言う話ではない。

 メールのように一度送信してしまえば、撤回すら出来ない窮地に追い込まれることもあるが、逆に言葉を選んでから送信すれば……不思議にも良い人に昇格。


 それゆえに、トラブルも多いのだが――――



 ◆◆◆



 変態紳士:かりそめの四三階層で、オッサンでたわー

 修羅:マジ!? 迷ってたんだけど、行かなくて良かった

 ドラ猫:わたしもいたお。ウケるー

 アリス:ハーイ

 紹興酒:(左挙手)

 アホです:オイラも

 変態紳士:上級者50人以上でフルボッコしたのに、無傷とかないわ……

 修羅:え!? そんなに強いの?

 ドラ猫:強いっていうかチートレベルだおね。なんとか逃げてきたけど

 タケシ:何言ってるの? お前らがよえーだけだろ?

 アリス:オッサンめっちゃ強いですよ

 紹興酒:あれは無理系

 アホです:ツヨカタ

 変態紳士:タケシならあのオッサンに勝てるの?

 タケシ:俺は回復特化だから戦わねーし

 修羅:(ボー然)

 変態紳士:(爆笑)

 アホです:タケシ草はえるわ

 タケシ:俺の好むパーティーがなかっただけだし! チキンってヤツが全て悪い

 アリス:チキンさんって、ごめんなさいってプレイヤー? あそこのパーティーほんと強いですよね

 変態紳士:俺も知ってるぞ。とくにベニネコとレイカが強すぎる件

 修羅:チキンの固有スキルも神じゃん

 ドラ猫:なんか超光るらしいね。ミテミタイ

 タケシ:チキンのパーティーが強いのは知ってる。ただ俺よりよえーマイコとかいうヤツを選ぶとかマジムカつく

 修羅:俺も30階層でみてたけど、なんかアッサリ決めてたね

 変態紳士:あれ? マイコってもしかするとドワーフじゃね? 

 タケシ:ドワっ子だな

 ドラ猫:えっ!? そのコって、かりそめの宝玉持ってたひとだおね? 始め偽物かとおもってたけど、本物って分かってビックリちた

 紹興酒:あの子マイコっていうんだ

 アホです:ちょ、マジ?

 変態紳士:宝玉はチキンのパーティーだったか

 アリス:チキンさんのパーティーなら納得できますよね。宝玉綺麗だったなぁ~

 修羅:チキンのパーティーTUEEEE!

 タケシ:それなら、俺がチキンのパーティーにいたらオッサンなんか余裕だったな

 変態紳士:いあ、いくら強くてもオッサンには……

 ドラ猫:(鳴咽)

 アリス:デスヨネー


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 ◆◆◆


 チャットで文字を送信したプレイヤーは、左に登録名が表示される。
 絵文字や顔文字、又はアルファベットなどを使用しているのは、一度に決められた文字数しか送信できないためで、文章を短縮させたり感情表現として表すことが多い。

 他にもチャットには、様々な会話に使用されるのだが、今回の会話内容はチキンと愉快な仲間たちの話。力士山が全く出てこないとか、そのような詮索は可哀想だからやめておこう。

 苟且の塔四二階層で米子が無事帰還した際、周りに集まっていたプレイヤーたちと、タケシの会話。タケシは未だメンバーへ参加できなかったことに腹を立てている様子だが、他のプレイヤーの会話内容から、チキンのパーティーは大変人気があることが伺える。

 そして宝玉を入手した米子の会話は届かずとも、マイコと言う名前は聞こえてきたようだ。更には、ハザマがどれほどプレイヤーから危険視されているのかも分かる。

 実のところ、ハザマはプレイヤーを攻撃したことはない。
 ただ、プレイヤーは容赦なくハザマへ攻撃を行うため、全力攻撃にも関わらず常に無傷状態である彼の”防御力”を恐れているようだ。

 その防御力から「勝てない」と察し「きっと攻撃力も半端ないだろう」と思い込み、逃亡しているのである。とはいえ、実際に攻撃力も相当なものなのだが。

 しかし、先ほどのチャット内容は”ハザマや米子”のことはどうでも良く、とりあえず誰かと会話したかっただけの話題作りとも言えよう。

 何かあればチャットをし、何もなくてもチャットを……チャットとはそう言うものである。

 ゲーム内の住人(住み人)にはこのチャットを使うことは出来ず、直接会話で意思疎通を図る方法が普通、となる。

 普通と言うのは、他の方法として鳥系モンスターに伝達を頼むなど、原始的ではあるが住人たちもそれなりに工夫し、より早い伝達を図る。もちろんチャットやフレンドのように便利とはいかないのだが、それは仕方のないこと。

 ゲームの進化は遂げど、古い新しいに関わらずチャットのようなコミュニケーションツールに、それほど変わりはない。

 その理由として、もともと完成されているからなどの意味もあるが、プレイヤーの年齢層が幅広くなってきたことにある。

 よりリアルな世界に拘り、そのリアルを求めるがゆえに複雑な操作を出来る限り無くす。複雑な操作が無くなれば、学校に入りたての小学生から歩くこともままならない老人まで、参加可能なゲームとなり得よう。

 とくに御年寄りのプレイヤーは、ここ数年で飛躍的に増加し、プレイヤーの三割は高年齢者とも言われ、年金暮らしであることからプレイ時間が長く、強者も多い。

 そんな高年齢者たちが、古き良き時代に夢中になった『掲示板』や『オンラインゲーム』のチャット。

 今も昔もほとんど変わらないのは誰もが扱い易いものであり、それは万人に受け入れられている証拠なのかもしれない。



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※『チャットにつきまして』絵文字や顔文字などの表記は、作品の世界観を保ちたいと思う著者の考えから”敢えて”使っておりません。あらかじめご了承ください。

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