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【プレイヤー 編】
仲間
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◇
最強クラスと思われるパーティーに加わった米子は、その後順調に階層を進めてゆく。
既に四〇階層まで攻略している他のメンバー。すぐにでも四〇階層まで転送できたが、まだ三〇階層までしか攻略していない米子がいるため同行した。
とくに寄り道しなければ、一階層の平均攻略時間は一五分で事足りる。少しくらい寄り道したとしても、三〇階層から四〇階層までは三時間とかからず辿り着くと言えよう。
『苟且の塔』とは、七日間限定だからこそ、それほど広いマップではないのだ。
そして既に四〇階層まで転送可能なパーティーが、わざわざ三十階層でメンバーを募集していた理由とは。
ソロプレイヤーが四〇階層にいない、又は少ないから。
四〇階層まで攻略するには、パーティーを組んで行動することが必然であり、現状でソロプレイヤーが四〇階層を攻略したという情報は無し。
そんな意味合いから、三〇階層でメンバーを募集することが、最も有効な手段と言える。既に四〇階層まで攻略したプレイヤーたちが、現在パーティーを組まず単独で行動している可能性も否定できない……だが、そのようなプレイヤーは極力少ないため、三〇階層での募集が”より確実”と言えよう。
一階層を一五分という短時間で攻略出来るのは、米子のいるパーティーの強さたる証。中級プレイヤーではパーティーを組んだとしても困難を極める。
更に三〇階層からは、攻略パーティーも激減するため、モンスターが枯れ果てることもなく、必ず戦闘が付き纏う。最上級に位置するパーティーでなければ、これほど短時間で攻略するのは不可能に近い。
苦労もせず、いとも簡単に四〇階層まで行けた米子にとって、このパーティーに参加できたのは幸運だった。
「やっぱ回復いると、楽だよねー。ここまで来るの、結構大変なんだけどなー」
「うっす! 自分も、いろいろと癒されたっす!」
「……です」
「俺様の人選に、間違いがあるわけねーだろ? 始めっからマイコしかいねーと思ってたし?」
力士山が何に癒されたのかは答える必要もないが、始めから米子に決めていた意図は気になるところ。とりあえず応えるべきは感謝の意。
「え? あ、お役に立てて嬉しいです……皆さん本当に、お強いですね。わたしは弱いので、ここまで来れただけでも凄く感謝してます」
「何いってるのー。マイコちゃん強い、強い! これはもう、最上層まで余裕に行けそうだねー」
「あたりめーじゃんか。始めっからマイコしかいねえと思ってたし?」
青年剣士がいちいち口にする「始めっから……」の件は、米子が覚えているだけでも一〇回は超える。思いっクソしつこいし、きっと聞いておかなければ永遠と言い続けるのであろう。
「あ、あの……剣士さん? え、ゴッドさん? あ、――名前は何と?」
考えてみたら青年剣士の名を知らなかった米子。とはいえ、噴水広場の第一印象から絡みづらいとも思っている。
「あ? 俺様は俺様だろ? 名前なんか――」
「あ、このひとはねー チキンでいいよ。みんな、そう呼んでるからー」
(――呼びづら)
ベニネコの言い回しから、本当の名前ではない気もする。仮に本当だったとしても、あえてチキンと呼ぶのはどうだろうとも。
EXにおいて他人の名前を知り得る手段は、ただひとつ。
フレンド登録すること。
それ以外は、名乗ってもらったり、他のプレイヤーから聞くなど方法はあるが、口頭で伝えることは真の名前ではないことも多々ある。
それはマイケルである、米子も同じ。
青年剣士が『俺様』と言っていることから『俺様さん』と呼ぶことも無くはないが、ちょっとアホっぽい。
「じゃ、じゃあ……チキンさん?」
結果、こう呼ぶしかないのかとベニネコに便乗するも、気分を悪くされるのは出来る限り避けたいと思っているのだが。
「お? なんだ?」
米子の脳裏を余所に顔色一つ変えず、普通に返事をしたチキンの頭の中には、いったい何が詰まっているのだろうかは世の神秘である。
彼の事を傲慢な性格だと思っていた米子は、思いのほかプライドが高くないことに驚く。それと同時に、じつは結構良いひとなのかも、と。
「なぜ、わたしをパーティーに入れてくれたんですか? 参加できたのは嬉しいと思っていますが、わたしは弱いし、とくに条件とか聞かなかったので……」
「あ、それな。女だから」
「はい?」
チキンに恥ずかしさという感情がないのかと疑うべきところだが、素直に直球勝負する彼には頭が下がる。
「そう、そう! チキンは女の子以外を選ばないからねー。素直といえば聞こえはいいけどー。でも、チキンってEXだと変わるよね。あはは、ウケる!」
「うっす。チキンは、素直で分かりやすい性格っす! こう見えてEXでは人気あるっす」
「……です」
「へぇー。チキンさんて、人気者なんですね」
名をチキンと呼ばれて気にもとめない性格や、他三人の表情から受けた印象で、彼が人気者という話はまんざら嘘でもないような気もする。
「まあな。俺様ほど強者で、イケてる男は人気があって当然のことだろ? そりゃもうモテモテよ。――かと言ってマイコ……俺様に惚れるなよ? 火傷すっぜ?」
「は、はあ……」
(火傷するなら、やめておきます)
と、米子は思っても、チキンに親近感を抱いているのは事実。
その親近感とは、名前のこと。チキンと比べてみれば、マイケルなどまだマシな方なのだから。
最強クラスと思われるパーティーに加わった米子は、その後順調に階層を進めてゆく。
既に四〇階層まで攻略している他のメンバー。すぐにでも四〇階層まで転送できたが、まだ三〇階層までしか攻略していない米子がいるため同行した。
とくに寄り道しなければ、一階層の平均攻略時間は一五分で事足りる。少しくらい寄り道したとしても、三〇階層から四〇階層までは三時間とかからず辿り着くと言えよう。
『苟且の塔』とは、七日間限定だからこそ、それほど広いマップではないのだ。
そして既に四〇階層まで転送可能なパーティーが、わざわざ三十階層でメンバーを募集していた理由とは。
ソロプレイヤーが四〇階層にいない、又は少ないから。
四〇階層まで攻略するには、パーティーを組んで行動することが必然であり、現状でソロプレイヤーが四〇階層を攻略したという情報は無し。
そんな意味合いから、三〇階層でメンバーを募集することが、最も有効な手段と言える。既に四〇階層まで攻略したプレイヤーたちが、現在パーティーを組まず単独で行動している可能性も否定できない……だが、そのようなプレイヤーは極力少ないため、三〇階層での募集が”より確実”と言えよう。
一階層を一五分という短時間で攻略出来るのは、米子のいるパーティーの強さたる証。中級プレイヤーではパーティーを組んだとしても困難を極める。
更に三〇階層からは、攻略パーティーも激減するため、モンスターが枯れ果てることもなく、必ず戦闘が付き纏う。最上級に位置するパーティーでなければ、これほど短時間で攻略するのは不可能に近い。
苦労もせず、いとも簡単に四〇階層まで行けた米子にとって、このパーティーに参加できたのは幸運だった。
「やっぱ回復いると、楽だよねー。ここまで来るの、結構大変なんだけどなー」
「うっす! 自分も、いろいろと癒されたっす!」
「……です」
「俺様の人選に、間違いがあるわけねーだろ? 始めっからマイコしかいねーと思ってたし?」
力士山が何に癒されたのかは答える必要もないが、始めから米子に決めていた意図は気になるところ。とりあえず応えるべきは感謝の意。
「え? あ、お役に立てて嬉しいです……皆さん本当に、お強いですね。わたしは弱いので、ここまで来れただけでも凄く感謝してます」
「何いってるのー。マイコちゃん強い、強い! これはもう、最上層まで余裕に行けそうだねー」
「あたりめーじゃんか。始めっからマイコしかいねえと思ってたし?」
青年剣士がいちいち口にする「始めっから……」の件は、米子が覚えているだけでも一〇回は超える。思いっクソしつこいし、きっと聞いておかなければ永遠と言い続けるのであろう。
「あ、あの……剣士さん? え、ゴッドさん? あ、――名前は何と?」
考えてみたら青年剣士の名を知らなかった米子。とはいえ、噴水広場の第一印象から絡みづらいとも思っている。
「あ? 俺様は俺様だろ? 名前なんか――」
「あ、このひとはねー チキンでいいよ。みんな、そう呼んでるからー」
(――呼びづら)
ベニネコの言い回しから、本当の名前ではない気もする。仮に本当だったとしても、あえてチキンと呼ぶのはどうだろうとも。
EXにおいて他人の名前を知り得る手段は、ただひとつ。
フレンド登録すること。
それ以外は、名乗ってもらったり、他のプレイヤーから聞くなど方法はあるが、口頭で伝えることは真の名前ではないことも多々ある。
それはマイケルである、米子も同じ。
青年剣士が『俺様』と言っていることから『俺様さん』と呼ぶことも無くはないが、ちょっとアホっぽい。
「じゃ、じゃあ……チキンさん?」
結果、こう呼ぶしかないのかとベニネコに便乗するも、気分を悪くされるのは出来る限り避けたいと思っているのだが。
「お? なんだ?」
米子の脳裏を余所に顔色一つ変えず、普通に返事をしたチキンの頭の中には、いったい何が詰まっているのだろうかは世の神秘である。
彼の事を傲慢な性格だと思っていた米子は、思いのほかプライドが高くないことに驚く。それと同時に、じつは結構良いひとなのかも、と。
「なぜ、わたしをパーティーに入れてくれたんですか? 参加できたのは嬉しいと思っていますが、わたしは弱いし、とくに条件とか聞かなかったので……」
「あ、それな。女だから」
「はい?」
チキンに恥ずかしさという感情がないのかと疑うべきところだが、素直に直球勝負する彼には頭が下がる。
「そう、そう! チキンは女の子以外を選ばないからねー。素直といえば聞こえはいいけどー。でも、チキンってEXだと変わるよね。あはは、ウケる!」
「うっす。チキンは、素直で分かりやすい性格っす! こう見えてEXでは人気あるっす」
「……です」
「へぇー。チキンさんて、人気者なんですね」
名をチキンと呼ばれて気にもとめない性格や、他三人の表情から受けた印象で、彼が人気者という話はまんざら嘘でもないような気もする。
「まあな。俺様ほど強者で、イケてる男は人気があって当然のことだろ? そりゃもうモテモテよ。――かと言ってマイコ……俺様に惚れるなよ? 火傷すっぜ?」
「は、はあ……」
(火傷するなら、やめておきます)
と、米子は思っても、チキンに親近感を抱いているのは事実。
その親近感とは、名前のこと。チキンと比べてみれば、マイケルなどまだマシな方なのだから。
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