はじまり

第二部 はじまりは美しい２２

～少し昔～


今から十数年前のことです。 
この港町を大きな嵐が襲いました。 
荒れ狂う海の中を一隻の船が漂着しました。 

波に大きく煽られながら、座礁した船は商船でした。 
とても大きな船でしたので、海辺の町の被害も甚大なものでした。 

乗組員の多くは海に流され、命からがら生き残った船員は、 
町で手厚い保護を受けました。 
けが人も病人もいましたが、町の人々は彼らを 
あたたかく迎えました。 

その生き残った船員の中に、ルエラの両親がいました。 
母親のお腹には、赤ん坊がいました。 
嵐の中を通り過ぎ、町に着いて助け出された時、 
二人の子供を産みました。 

それはそれは、とても元気な赤ん坊でした。 
夫婦は大層喜びましたが、母親は体調が回復しないまま、 
命を落としてしまいました。 

残された父親に、二人の子供を育てる余裕はありませんでした。 
その時、子供を引き取ろうという二組の夫婦が現れました。 

一組は、この町一番のお金持ちであるルエラの両親です。 
子のない夫婦は、これからも子供ができないことを寂しく思っていました。 
自分の子どもとして育てたいという夫婦に、女の子を託しました。 

もう一組の夫婦は、さほど裕福ではない小さな商家でした。 
小さいけれでも、とても気持ちの良い人柄に好感を持ったので、 
男の子を預けました。 
その家にはもうひとり子供がいましたが、１人も２人も同じことだと 
豪快に笑って引き受けてくれました。 
やはり、自分の子どもとして育てると請け負ってくれました。 

父親は、この町で治療を受けながら、港町の復興に力を注ぎました。 
妻が亡くなり、子供が生まれ、これから育つこの土地です。 
父親は、汗水流して働きました。 

小さなアパートの一室に部屋を借り、ひとりで暮らしていました。 


つづく