はじまり

天鳥そら

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第二部 はじまりは美しい13

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~夕暮れ~ 


「ルエラ?」 

下を向いたまま、何も話さなくなったルエラに声をかけます。 

「そういう風に言われるの、あまり好きじゃないの」 

ぽつりと呟くと、帽子のつばを両手で掴んで、顔を隠してしまいました。 
体が弱いわけではないものの、幼い頃からよく体調を崩していました。 
ルエラは、そんな自分をとても恥ずかしく思っていました。 

まわりのみんなは自分を気遣ってくれますが、『寂しいな』と 
いつも思っていました。 

情けないな、と思いながら自分の足元を眺めます。 
靴についた泥と草の葉をぼんやりとみていると、足元に影ができました。 

ルエラは、驚いて顔をあげます。 

「ごめんね。もう、言わない」 

眉尻をほんの少し下げて、リクが微笑んでいました。 

「うん」 

「もう、屋敷に帰ろう」 

もうじき日が暮れるからと、リクは手をさし出しました。 
少し迷うようにしてから、ルエラはそっと手を取ります。 

リクはルエラのほんの少し先をゆっくり歩きます。 
ルエラはリクの手を握って、ほんの少し後をゆっくり歩きます。 
少し大きな手があたたかくて、薄い青の瞳をうるませました。 

頬に冷たい風があたります。 
明るい金の木漏れ日が、いつのまにか橙色のあたたかな光になっていました。 
やわらかな夕暮れの陽の中で、少しずれた二つの足音が響きます。 

木々の向こうの空の上に、小さな一番星がぼんやりと現れ始めました。 


つづく 
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