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はじまり71
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~控え室~
王宮の控え室の一室で、真っ白なウェディングドレスを着た
あかがねいろの巻き毛の女性がぽつんと座っていました。
他国からこの国に嫁ぎ、王妃としてこの国の国王となる
キールのもとに嫁ぎます。
夜会で出会った時はただの友達として見ていましたが、
ある日唐突に求婚されました。
驚きのあまり、キールの申し出を断ってしまいましたが、
ただ、彼のことを自分の伴侶として見たことがなかっただけだという
ことに気がつきました。
もう一度、自分の胸に問いかけて、やはり申し出を受けようと
思った折に、彼の婚約が発表されました。
幼い頃から仲がよく、まわりも公認であり、何よりも
その時の王が乗り気でありました。
とても、連絡を入れる勇気はでません。
自分の早まった選択にため息をつきながら、また夜会に繰り出します。
一度自分の気持ちに気づくと、もう彼以上にいいひとがいるとは
思えませんでした。
両親からくる縁談にため息をつきながら、鬱々している時に、
キールから手紙が届きました。
まわりは、良い顔をしませんでしたが、キールと
良い友人関係を築いていこうと手紙のやり取りをはじめました。
その直後に婚約者が失踪してしまいました。
いてもたってもいられず、国の使節団として、キール王子にお見舞いと称して
会いに行きました。
その日を境にして、急速に二人は接近していきました。
まわりも失踪した姫をいつまでも追うよりはと、二人の結婚を勧めます。
王の了解が得られぬまま、時が過ぎて、今度は姫の訃報が飛び込んできました。
前後して、体調を崩された王妃を連れて王は王位をキールに
譲り渡すことを決意しました。
アカネは、キールとやり取りをしていくうちに、
姫の失踪の手伝いをしたのはキールだということを打ち明けられました。
『お互い、想い人がいたのですよ』
しんみりと笑うキールを見ていて、今度こそはと結婚の
申し出を受けました。
自分で決めて、この国に来たもののいざ結婚するとなると
緊張が体を走ります。
何より自分は王妃として、キールの隣に立たなければなりません。
刻限が迫るつれて、逃げ出したい気持ちに駆られた時、
明るい声が聞こえました。
「そんなに緊張なさることないですわ」
オレンジの色をした不思議な香りがただようティーカップを、
一人の侍女がアカネ姫の前に置きました。
「ありがとう」
微笑んで一口飲むと、とても心が落ち着きました。
キールの元婚約者だというクローディア姫と自分を比べてしまっていたのです。
幼い頃から仲が良く、その上、王にもまわりにも認められていたという
姫君が羨ましくてなりませんでした。
「少し落ち着いたわ」
侍女は微笑んで、お直しをしますとアカネ姫の背後に
まわりました。
首飾りを調えて、ドレスをチェックします。
「キールとは、とっても、お似合いの夫婦だと思うわよ?アカネ王妃」
ふわりとした声音に、アカネは目を見開きます。
どうしてそう思ったのかわかりません。
わからぬままに叫んで、後ろを振り返りました。
「クローディア姫?」
背後には誰もいませんでした。ただ。小さな桃色の花が、
アカネの目の前にひらひらと舞っています。
呆然としていると、扉が叩く音がしました。
「アカネ様、お時間でございます」
「今、行くわ」
姿勢を正し、きりりとした表情でアカネは立ち上がりました。
ふと振り返り、ありがとうと呟きます。
がんばってね
初夏の風に乗って、そんな声が聞こえたように思えました。
つづく
王宮の控え室の一室で、真っ白なウェディングドレスを着た
あかがねいろの巻き毛の女性がぽつんと座っていました。
他国からこの国に嫁ぎ、王妃としてこの国の国王となる
キールのもとに嫁ぎます。
夜会で出会った時はただの友達として見ていましたが、
ある日唐突に求婚されました。
驚きのあまり、キールの申し出を断ってしまいましたが、
ただ、彼のことを自分の伴侶として見たことがなかっただけだという
ことに気がつきました。
もう一度、自分の胸に問いかけて、やはり申し出を受けようと
思った折に、彼の婚約が発表されました。
幼い頃から仲がよく、まわりも公認であり、何よりも
その時の王が乗り気でありました。
とても、連絡を入れる勇気はでません。
自分の早まった選択にため息をつきながら、また夜会に繰り出します。
一度自分の気持ちに気づくと、もう彼以上にいいひとがいるとは
思えませんでした。
両親からくる縁談にため息をつきながら、鬱々している時に、
キールから手紙が届きました。
まわりは、良い顔をしませんでしたが、キールと
良い友人関係を築いていこうと手紙のやり取りをはじめました。
その直後に婚約者が失踪してしまいました。
いてもたってもいられず、国の使節団として、キール王子にお見舞いと称して
会いに行きました。
その日を境にして、急速に二人は接近していきました。
まわりも失踪した姫をいつまでも追うよりはと、二人の結婚を勧めます。
王の了解が得られぬまま、時が過ぎて、今度は姫の訃報が飛び込んできました。
前後して、体調を崩された王妃を連れて王は王位をキールに
譲り渡すことを決意しました。
アカネは、キールとやり取りをしていくうちに、
姫の失踪の手伝いをしたのはキールだということを打ち明けられました。
『お互い、想い人がいたのですよ』
しんみりと笑うキールを見ていて、今度こそはと結婚の
申し出を受けました。
自分で決めて、この国に来たもののいざ結婚するとなると
緊張が体を走ります。
何より自分は王妃として、キールの隣に立たなければなりません。
刻限が迫るつれて、逃げ出したい気持ちに駆られた時、
明るい声が聞こえました。
「そんなに緊張なさることないですわ」
オレンジの色をした不思議な香りがただようティーカップを、
一人の侍女がアカネ姫の前に置きました。
「ありがとう」
微笑んで一口飲むと、とても心が落ち着きました。
キールの元婚約者だというクローディア姫と自分を比べてしまっていたのです。
幼い頃から仲が良く、その上、王にもまわりにも認められていたという
姫君が羨ましくてなりませんでした。
「少し落ち着いたわ」
侍女は微笑んで、お直しをしますとアカネ姫の背後に
まわりました。
首飾りを調えて、ドレスをチェックします。
「キールとは、とっても、お似合いの夫婦だと思うわよ?アカネ王妃」
ふわりとした声音に、アカネは目を見開きます。
どうしてそう思ったのかわかりません。
わからぬままに叫んで、後ろを振り返りました。
「クローディア姫?」
背後には誰もいませんでした。ただ。小さな桃色の花が、
アカネの目の前にひらひらと舞っています。
呆然としていると、扉が叩く音がしました。
「アカネ様、お時間でございます」
「今、行くわ」
姿勢を正し、きりりとした表情でアカネは立ち上がりました。
ふと振り返り、ありがとうと呟きます。
がんばってね
初夏の風に乗って、そんな声が聞こえたように思えました。
つづく
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