はじまり

天鳥そら

文字の大きさ
上 下
68 / 159

はじまり69

しおりを挟む
~吉日~



緑の葉が生い茂る初夏のような日に、キール王子の戴冠式及び、
アカネ姫との結婚式が執り行なわれました。 

戴冠式のすぐ後に、そのまま結婚式でしたので、朝から王宮は 
大忙しでした。 
キールは、重たいマントを羽織り、頭には立派な王冠が 
のせられています。 

格式ばったことが好きではない王子でしたが、こればかりは 
避けることができません。 
王子、いえ、国王となるキールの伴侶は、紅い鳥をシンボルに 
持つあかがね色の巻き毛が美しい女性でした。 

以前に、キールはこの姫に結婚を申し込んだことがありました。 
王族や貴族が集まるパーティーは、ていのいいお見合いのようなものです。 
キールはあまり乗り気ではありませんでしたが、 
参加せざるを得ませんでした。 

話しかけられてもあまり気の利いた返事はできません。 
しかも、表情の乏しいキール王子に近寄る女性は、あまりいませんでした。 
そのなかでただ一人、アカネ姫だけは違いました。 

にぎやかな夜会で、彼女は注目の的でした。 
明るく話し好きで、夜会を盛り上げる花形でしたが、 
こっそりテラスに出ては、疲れたようにため息をついているのを 
見ていました。 

一度気になって、彼女のあとを追ってテラスに出たことがあります。 
肌寒い夜風にあたる彼女に、ショールを渡して、不器用ながら 
話しかけました。 
最初は、ほんの少しの間しか話しませんでしたが、 
何度か顔をあわせて話すうちに、彼女はまわりがみているほど 
派手なひとではないということがわかりました。 

素朴で誠実で、キールの朴訥な物言いにも嫌がらずに 
笑顔を向けるのでした。 
次第に彼女に惹かれ、時期国王となる折に、求婚しましたが、 
こっぴどく振られてしまいました。 

断られた以上、無理強いすることはできません。 
意気消沈して帰ってみれば、クローディアとの結婚が進められていました。 
半ばヤケになって、一度はクローディアを伴侶にと考えたものの、 
一緒に過ごすうちに、自分がひどい悪者のような気がしてしまいました。 

一か八かで彼女の本音を聞けば、自分と同じように想い人がいるのだと 
訴えます。 
それならば、彼女に協力してすべて白紙にすることにしました。 
同時に、まだ結婚の決まっていなかったアカネ姫に、 
友人として接触を試みました。 

アカネ姫も突然のキールの求婚に驚いたものの、 
嫌だったわけではありません。 
友人としてやり取りを交わすうちに、二人の距離は縮まっていきました。 

そして、クローディアが国をでた後は、しばらく間をおいて、 
もう一度ぜひ王妃にと求婚しました。 
少しづつアカネ姫の心も解け、次第にクローディア失踪の 
事実をキールから聞くことになったのでした。 

クローディアの訃報を聞いたのと前後して、王妃が病で倒れました。 
王は即座に、王妃を離宮に移し、キールの戴冠式と結婚式を 
決めると自分は引退してしまいました。 

それから、アカネ姫がこの国に移り、この国の王妃としての 
準備に費やしやっと今日という日が訪れたのでした。 

つづく 

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

処理中です...