はじまり

はじまり４３

　～遭遇～


クローディアは、祭りの賑やかな喧騒のなかで途方に暮れていました。
仮面をつけたたくさんの男女が楽しそうに踊っています。
その様子を眺めながら、ため息をつきます。

「やっぱりいないわね」

「やっぱりいないか」

隣で自分と同じことを呟く男性に気づきました。
仮面をかぶっていてわかりませんが、どうやら驚いているようです。

「君も誰か探しているの？」

「あなたも？」

不思議な偶然に驚きながらも、仮面をかぶったまま顔を見合わせて笑いました。

「恋人でも探しているの？」

相手の男性がおどけた様子で聞いてきて、クローディアはうつむいて答えました。

「いえ、恋人ではないの」

もう彼は忘れてしまったのかもしれないけれど、
去年一緒に踊る約束をしていたのだと語りました。

「今年は、踊れないかなって思ったの」

わざと明るい調子で言って、男性をふりあおぎます。
あなたは？と社交辞令のように聞き返すと、相手は急に仮面に手をかけて顔を見せました。

「どうやら、僕は見つけたみたいだ」

君は？ともう一度おどけたように、尋ねます。
黒い髪に黒い瞳がいたずらっぽく光り、穏やかに微笑む男性の顔を見て、
クローディアは何も言わずに抱きつきました。

「会いたかったわ」

「僕も」

二人は、賑やかな祭りの人ごみの真ん中で、何も言わずにしっかりと抱き合っていました。


つづく