はじまり

天鳥そら

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はじまり33

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~本物~


店に入ってから、二人に座って待つよう伝えて、
シキはまっすぐに時計の置いてある机に向かいます。 

ソウとクローディアは、古い革張りのソファに並んで座ります。 
あたりをきょろきょろと見渡している内に、 
シキが時計を持って戻ってきました。 
二人の向かいに座って、時計をさしだします。 

「君たちが帰ってから、動いたことに気づいたんだ」 

「失礼します」 

断りをいれてから時計を持ち上げます。 
なるほど、時計はこちこちと音をたてて針が動いているようです。 
まるで、ずっと最初から動いていたかのようでした。 

「今まで、動いているのをみたことがないの?本当に?」 

クローディアは身をのりだして、シキに尋ねます。 
シキは、首を振って祖父も動いているのをみたことが 
なかったようだよと言いました。 

時計をもらった経緯をもう一度話してもらいます。 
王様の靴を直し、預かっていてほしいと言われて 
預かりました。 
持ち主が来るのを待つうちに、月日は経って、 
いつの間にか動かない時計だけが残ったのです。 

「返しに行こうとは考えなかったんですか?」 

ソウの言葉にシキは、にっこり笑います。 

「預かって欲しいと言われただけだからね」 

取りに来ないのなら、このまま置いておこうというのが、 
靴屋の主人に伝わる話でした。 
それは、一介の靴屋が口出ししていい話ではなく、 
恐らく王家のなんらかの事情でここに置かれているのだから。 

『詮索はするな』 

変に首を突っ込めば、自分の身が、もしかしたら、 
この国自体に関わることかもしれません。 

「君たちが初めてだよ」 

シキの黒い瞳が強く光りました。 
手を組んで、ソウの瞳をじっと見ます。 
探るような目つきの青年に、ソウも負けじと見返します。 

「好きなんです」 

古書から、古い道具、歴史にまつわるものを調べるのが 
好きなのだと話しました。 

「紛失した王家の秘宝かと思ったんですよ」 

ふわりと微笑んで、時計をシキに返しました。 

「物好きだね」 

「性分なので」 

しばらくお互いを探るように見て、シキが視線をそらしました。 

「それで?本物かい?」 

「こういったものは、まがい物の方が多いんです」 

またにっこり微笑むソウに、シキが笑いました。 

「とても年下と話しているとは思えないよ」 

「よく言われます」 

さらりと返したソウに、シキはお腹を抱えて笑いました。 


つづく 
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