94 / 105
良心
しおりを挟む
「でも、あなたはどうしてそんなことを知ってるの? あなたの言うことが本当だと確かめる手段は私たちにはない。それなのにあなたはどうやってそれを知ったの?」
ライアーネ様だった。止血のための布を頭に巻かれたライアーネ様が、オロオロとした様子の団員たちを制しながら歩み出てきて、カッセルに問い質した。
その問い掛けに、カッセルはまた悲しそうな顔をする。
「教えてもらったからだよ…… 彼女に……」
そう言ってカッセルが指差したのは、魔王。
…はい? それって、どういう……?
訳が分からず戸惑う私たちに、彼は語る。
「正確には、今は魔王の中にいる、ティタニアにね……彼女は、神妖精族の巫女でありながら、悪逆非道なバーディナムの行いに疑問を抱いた、唯一の<良心>とも呼ぶべき存在だった」
<ティタニア>という名前が出た途端、巫女たちに動揺が走ったみたいにざわざわとした空気になる。
「ティタニアって……?」
私に抱きかかえられたアリスリスを心配してそばに立ってたリリナに尋ねる。すると彼女も青い顔をして、
「私たち、神妖精族の巫女の長です。まさか彼女が……?」
って。
その時、それまでは黙って話を聞いていたドゥケが、不意に口を開いた。
「お前の言うことが本当かどうかは、俺にはどうでもいい。正直、あそこにいる<怪物>が神なのか魔王なのかもどうでもいい。ただ俺は、あの子を奪った魔王が許せない。だから俺は、魔王を倒す。バーディナムの力も借りれば、倒すこともできそうだ」
渓谷を破壊しながら互いに殴り合う二匹の巨人の光景を見ながら、彼は言った。
そうだ。そうだよ。どっちが正しいかなんて関係ない。奴は、魔王は、ポメリアとティアンカの命を奪った。それだけでも十分、倒す理由になる…!
私の中にも、カアッとした熱いものが再び噴き上がってくるのが分かった。直接バーディナムを恨む理由は私にはないけど、魔王を倒す理由ならある…!
ギリっと奥歯を噛みしめ、
『私も!!』
と声を上げようとした私の目に、嘲るように笑うカッセルの姿が。
なにがおかしいの……!?
憤る私に、彼はまた信じられないことを告げる。
「<復讐>ってことかい? だったらなおのこと無駄だよ。そんなことする必要もない。だって、魔王に命を吸われたあの巫女達なら、どうせ今頃、神妖精族の里で新しい体を得て生まれ変わってるはずだからね」
え…? ええーっっ!?
「ホントなの、リリナ!?」
思わず問い掛けた私に、リリナが言う。
「はい…それは確かに」
……そうなんだ……?
と呆気に取られる私の耳に、またカッセルの声が。
「そういうことだ。そいつらは、肉体の命が失われてもすぐさま新しく生まれ変わることができる、<不死の化け物>なんだよ。だからそいつらに、人間のことなんて理解できる訳がないんだ……! ティタニア以外にはね!」
ライアーネ様だった。止血のための布を頭に巻かれたライアーネ様が、オロオロとした様子の団員たちを制しながら歩み出てきて、カッセルに問い質した。
その問い掛けに、カッセルはまた悲しそうな顔をする。
「教えてもらったからだよ…… 彼女に……」
そう言ってカッセルが指差したのは、魔王。
…はい? それって、どういう……?
訳が分からず戸惑う私たちに、彼は語る。
「正確には、今は魔王の中にいる、ティタニアにね……彼女は、神妖精族の巫女でありながら、悪逆非道なバーディナムの行いに疑問を抱いた、唯一の<良心>とも呼ぶべき存在だった」
<ティタニア>という名前が出た途端、巫女たちに動揺が走ったみたいにざわざわとした空気になる。
「ティタニアって……?」
私に抱きかかえられたアリスリスを心配してそばに立ってたリリナに尋ねる。すると彼女も青い顔をして、
「私たち、神妖精族の巫女の長です。まさか彼女が……?」
って。
その時、それまでは黙って話を聞いていたドゥケが、不意に口を開いた。
「お前の言うことが本当かどうかは、俺にはどうでもいい。正直、あそこにいる<怪物>が神なのか魔王なのかもどうでもいい。ただ俺は、あの子を奪った魔王が許せない。だから俺は、魔王を倒す。バーディナムの力も借りれば、倒すこともできそうだ」
渓谷を破壊しながら互いに殴り合う二匹の巨人の光景を見ながら、彼は言った。
そうだ。そうだよ。どっちが正しいかなんて関係ない。奴は、魔王は、ポメリアとティアンカの命を奪った。それだけでも十分、倒す理由になる…!
私の中にも、カアッとした熱いものが再び噴き上がってくるのが分かった。直接バーディナムを恨む理由は私にはないけど、魔王を倒す理由ならある…!
ギリっと奥歯を噛みしめ、
『私も!!』
と声を上げようとした私の目に、嘲るように笑うカッセルの姿が。
なにがおかしいの……!?
憤る私に、彼はまた信じられないことを告げる。
「<復讐>ってことかい? だったらなおのこと無駄だよ。そんなことする必要もない。だって、魔王に命を吸われたあの巫女達なら、どうせ今頃、神妖精族の里で新しい体を得て生まれ変わってるはずだからね」
え…? ええーっっ!?
「ホントなの、リリナ!?」
思わず問い掛けた私に、リリナが言う。
「はい…それは確かに」
……そうなんだ……?
と呆気に取られる私の耳に、またカッセルの声が。
「そういうことだ。そいつらは、肉体の命が失われてもすぐさま新しく生まれ変わることができる、<不死の化け物>なんだよ。だからそいつらに、人間のことなんて理解できる訳がないんだ……! ティタニア以外にはね!」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!
青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。
すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。
「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」
「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」
なぜ、お姉様の名前がでてくるの?
なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。
※タグの追加や変更あるかもしれません。
※因果応報的ざまぁのはず。
※作者独自の世界のゆるふわ設定。
※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。
※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる