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苦渋の決断

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 アリスリスの強さだって尋常じゃない。初めて会った時に私が彼女の攻撃をしのぎ切れたのは、彼女が本当に倒れそうなほど弱り切ってたからだ。それなのに、同じ<勇者>が相手だと、その体格差がそのまま力の差になってしまうんだっていうのがよく分かる光景だった。
 だけどアリスリスは諦めない。一撃一撃が必殺の気魄を込めたものだというのが分かる攻撃を、躊躇うことなく容赦なく繰り出す。
 涼しい顔してそれを受け留めながらも、さすがにカッセルの方も私達にまでは意識を向ける余裕はなかったようだった。
『ごめんアリスリス! そのまま彼を釘付けにしておいて…!』
 私達は心の中でそう思いながら、撤退に移った。私達の目的はポメリアとリリナの奪還。しかも予定外の神妖精しんようせい族の巫女達まで連れてるとなれば、今はとにかく撤退を選ぶしかない。アリスリスもそれは分かってくれてるからこそこうして戦ってくれてるんだ。
 ポメリア達が捕らえられてた牢に辿り着くまでに傷を負った仲間も、カッセルに倒されたライアーネ様達も、助け出されたポメリアとリリナが回復させてくれたから問題なく動ける。立ちはだかる魔族を打ち倒しながら私達は撤退した。
 なのに、ポメリアを連れた団員が城壁を越えようとした時、まるで何か突風でも吹き付けたかのように弾けとんだ。しかも、その体に深々と突き刺さる剣。
「カッセル!!」
 カッセルだった。アリスリスの攻撃の僅かな隙を突いてこちらに奔り、容赦ない一撃を加えたんだ。
「ああっ!」
 それを見たポメリアがすぐにその団員を回復させる。だけどそんなポメリアを彼は脇に抱きかかえ、凄まじいスピードで離れた。私が援護に向かう暇さえ与えずに。
「貴様あっ!!」
 アリスリスが再び切りかかるけど、それを弾いて彼女を地面に転がせる。
「くっ!!」
 すぐさま立ち上がって再びカッセルに向かおうとするアリスリスの体が、ひょいッとばかりに何者かに抱き上げられた。
「ドゥケ!?」
 ドゥケだった。ドゥケはアリスリスの体を抱きかかえて叫ぶ、
「撤退だ! 急げ!!」
「でも…!?」
「神妖精の巫女がいれば魔王を倒すチャンスはある! 今はとにかく助け出した彼女らを連れて逃げろ! 早く!!」
「……っ!!」
 ドゥケの指示は冷酷なものだけど、私達は従うしかなかった。ここで躊躇って留まってしまったら、せっかく助け出した他の巫女達まで奪い返されてしまうかもしれない。それじゃ意味がないんだ。
「撤退! 総員撤退!!」
 ライアーネ様の命令が飛ぶ。
 それに従い、私達は城砦の外へと走った。アリスリスを抱えたドゥケも続く。
『ポメリア、ごめん…っ!!』
 私は心の中で叫ぶしかなかったのだった。

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