上 下
58 / 105

敗走

しおりを挟む
「シェリスタ! 逃げるぞ!!」
 アリスリスは躊躇がなかった。状況が不利と見るや私の腕を取り、すごい力で引っ張った。まったく抵抗できない。踏み止まることもできない。
『これが、<勇者>…!?』
 剣を私に持たせ、その私を両腕に抱えて、アリスリスは走った。
「ポメリアが…!」
 私がそう言ってもアリスリスは止まらない。でも彼女の唇は血が出るくらいに噛み締められていた。彼女がどれほどの悔しさの中、逃げることを選択したのかが分かる気がした。
 同じ<勇者>であるカッセルが追って来てたら逃げ切れなかったかもしれない。だけど、カッセルの目的は最初からポメリアだったんだろうな……
 もしかしたらポメリアも何か感じ取ってたのかもしれないな。だから彼のことを避けてたのかも。でもきっと確信がなかったから逃げたりはしなかったんだろうな。
 私がもっと慎重だったら……
 でも…でも……それ以上に胸が痛いよ……どうして、カッセル……
 私を抱えたまま一時間以上走って、アリスリスはようやく立ち止まった。地面に下ろされた私も、アリスリスも、ボロボロに泣いていた。悔しくて、悲しくて、やるせなくて。
 そこは、整備された街道の上だった。その街道を、私もアリスリスも一言もなく歩いた。西へ、西へ。
 そして、日が暮れて辛うじて空に赤みが残ってるだけの中、
「止まれ! 何者だ!?」
 馬に乗った何人かの兵士が私達を呼び止めた。王国軍の兵士だった。たぶん偵察の斥候だろう。
「私は、青菫あおすみれ騎士団のシェリスタ。こっちは青銅騎士団に同道していた勇者のアリスリス。魔王軍との戦闘で仲間とはぐれて、部隊復帰の為に転移魔法を使える魔法使いを探していました……」
 私が身に着けていた鎧は青菫騎士団のものだし、アリスリスのことも軍の上の方に紹介したらすぐ分かると思う。だけどとにかく身分が確認できるまでは念の為にと私もアリスリスも捕縛されて連行された。でも私達はそれには逆らわなかった。
 正直、逆らう気力もなかったって言った方がいいかな。
 その斥候の兵士達が所属してた部隊に戻って念話を使える魔法使いを通じて青菫騎士団に連絡がつくと、すぐに身元が確認されて、

「失礼いたしました!」
 と恐縮されながら私達は解放された。
「ああ、シェリスタ。無事だったのね。本当に良かった」
 と、ライアーネ団長の言葉が、念話術者を介して伝えられると、私はまた涙が止まらなかった。
「申し訳ありません…! ポメリアを守り切れませんでした……!」
 青菫騎士団の方は、全員、無事だったらしい。強力なヒーラーのポメリアは欠いたけど、ある程度ヒールを使える者がいたからそちらで何とかして、戦いを続けてたそうだった。
 そして私とアリスリスは、すぐさま転移魔法が使える魔法使いにより青菫騎士団のキャンプへと送られ、私は原隊復帰を、青銅騎士団を失ったアリスリスは青菫騎士団への合流を果たしたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!

青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。 すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。 「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」 「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」 なぜ、お姉様の名前がでてくるの? なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。 ※タグの追加や変更あるかもしれません。 ※因果応報的ざまぁのはず。 ※作者独自の世界のゆるふわ設定。 ※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。 ※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

処理中です...