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ミコナ

残念ですけどあるんです

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サンギータが朝から部屋でガタガタと物音させていたかと思うと、大荷物を運び込んだ上に何かを招き入れ、さらにガタガタと物音をさせてたことに、サンギータの母親は何事かと怯えていました。

彼女の名前はヴァドヤ。幼い頃から引っ込み思案で相手に強く出られると逆らえずに言いなりになってしまうタイプでした。サンギータの父親でもある夫と結婚したのも結局はそれ。強引に押し切られ仕方なく結婚したというのは本当のところ。

それでも知り合ったばかりの頃はすごく優しかったんです。引っ込み思案で他人とうまく話せない自分の言葉に耳を傾けてくれて、話を聞いてくれて。ようやく自分を理解してくれる人と出会えたと思ったんです。なのに付き合い始めたらなんだか急に態度が横柄になってきて、命令とかするようになってきて。

だけど『自分にはもうこの人しかいない』と思うようになっていた彼女は、嫌われたくなかったから、捨てられたくなかったから、言いなりになるしかなくて、それで結婚してサンギータを生んで、でも実家とは縁を切らされて、一人で家の事と育児をやらされて、誰とも顔を合わせることもなくなって、その上、娘のサンギータは自分に対してどんどんと反抗的になっていって、もう誰も味方がいなくなって、どうしていいのかまったく分からなくなってしまいました。

それを考えると彼女もとても可哀想なのは事実なのですが、世の中にはいかにも可愛い格好や仕草をする人のことを<ブリッコ>と呼んで嫌う人が結構いますよね。過剰に自分を演出する行為を不快だと感じる人は、残念ですけど一定数いるんです。

<可哀想な自分>というものを演じようとしている風に見えてしまうと反感を買ってしまうというのは、残念ですけどあるんです。

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