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ミコナ

まるで僕みたいだ……

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さらに劇は進み、

「発展を! 発展を! 科学と技術と産業の発展こそが人類を幸せに導いてくれる!! 我々は歩みを止めてはいけない! 停滞は緩慢なる死である!! 人類は歩み続けるべきなのだ!!」

セイラ演じる大統領が、本当に堂々と高らかに世界に向けて演説するように声を発します。圧倒的な迫力です。

なのに、タムテル演じる宇宙人はそれを責めようとはしません。「どうして?」と問い掛ける男の子と女の子に、宇宙人は、

「大統領は、自分達が正しいと自分が思うことを力強く行うのが役目なんだ。その大統領に考えを改めてもらうには、大統領が正しいと認められるだけの情報を提示する必要があるんだ。それをしないで『お前は間違っている』とどんなに声高に叫んでも、相手にはしてもらえないよ」

と答えます。だけどその流れについて、タムテルは、練習中にずっと思っていたんです。

『ママもそうなのかな……』

と。タムテルにとってセイラが演じる大統領は、自分の母親のようにも見えたんです。自分の言うことなんて聞こうともしなくて自分の言うことなんて最初から信じてくれなくて一方的に『こうしろ!』って言ってくるだけ。

そんな相手にどうすればいいのか分からないから、宇宙人もきっとなにもできないんだと思っていました。色々言い訳して自分が何もできないのを誤魔化してるだけなんだってホントは思ってたんです。

だから余計にやる気なんて出なかった。

男の子と女の子が毒の所為で病気になり苦しむ様子も、

『まるで僕みたいだ……』

と思います。この男の子や女の子みたいに大きな声を上げて騒げないから、アリをイジメてたんです。

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