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ミコナ

微笑ましそうな表情で見守って

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タムテルの演技はとても拙くて何度もセリフを噛んだりして、決して上手いわけでも見る者を惹きつけるものでもありませんでした。ホントにただただ小学生の学芸会のそれというだけです。

だけど、普通の小学生の学芸会に表現者としてのスキルを求める人がそんなにいますか? そういうものを求めてるのなら、見るものを間違っていると言えるでしょう。もっとちゃんとした演劇の稽古を積んだ人達のそれを見るべきでしょうね。

実際、拙いお芝居でも、保護者のほとんどは微笑ましそうな表情で見守っていました。そう、『見守って』いたんです。

ただ同時に、大統領役のセイラが、宇宙人や科学者が示すデータを見ても、

「このような嘘に我々は惑わされない。我々は人類の幸福のためになお一層、今の道を邁進しなければならない!」

と、観客席に向かって胸を張って高らかに宣言した時には、その迫力に、

「おお……!」

という感じでどよめきが湧き起こったりしましたけど。本当に小学四年生とは思えない迫力でした。それは<演技>と言うよりも本当にそういう人がいる感じの。

さらに話は進んで、民衆の後ろの方でひっそりと立っていただけの男の子と女の子が前に出てきました。すると当然、それまでは民衆の一人として声を上げていただけのエティトとルプス、ミコナとソリティも前に出てきます。そして男の子と女の子に向かって、

「詐欺師の言うことに騙されるな!」

「あなたはこんな風になっちゃいけませんよ」

エティトとルプスが言い、

「こんな人になってお父さんとお母さんを悲しませないで」

「お父さんはお前がそんな愚かだとは思わないぞ」

ミコナとソリティが言ったのでした。

堂々とした感じの三人に比べ、ソリティは少しやる気なさそうでしたけど。

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