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慢性マナ由来細胞繊維化症候群

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「それっ!」

力強くバドミントンのシャトルを打ち返すエンファですけど、実は彼女は、生まれたばかりの頃は、十歳までは生きられないかもしれないと言われていました。

<慢性マナ由来細胞繊維化症候群>

それは、マナに対して体が過剰に反応してしまう病。

この世界の生き物は、大なり小なり、マナを取り入れ消費することで生命活動を行っているのですが、人間の場合、それがほぼ退化してしまって、ほとんどマナを取り入れることも使うこともできないんです。

ただ、ごく稀に、マナを取り入れることができてしまう人もいる。けれど、取り入れたマナを何らかの形に変換し利用する器官が退化して機能していないことで、取り入れたマナが細胞を変化させてしまい、体中の臓器が機能不全を起こすという恐ろしい病でした。

この世界を満たし、その根幹を支えている<マナ>こそが、彼女にとっては、命すら脅かす危険なものだったのです。

<慢性マナ由来細胞繊維化症候群>が進行すると、やがて人間としての機能が失われて、<木>になってしまう。いえ、厳密には<木>とは別のものなんですが、見た目にはそれこそただの木にしか見えないと。

一応、その<木>も生きてはいるんですが、<脳>も繊維化して思考ができなくなってしまうので、それはもう、<人間>とは言えない……

しかも、魂もそこから離れることができないので、<依代>に宿らせて夢の中ででも再会するということさえできなくなってしまうんです。

彼女の両親はそんな娘を救いたくて猛勉強して医師になり、そこに、ハカセが発明した<超小型マナ転換炉>を応用した<マナ排出炉>が発明され、それをエンファの体に埋め込む手術に成功。取り込まれた余分なマナを老廃物の形にして体外に排出することができるようになって、エンファの命は救われたのでした。

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