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分かっててハカセと

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こうして走り出したバイクに乗るハカセの肩の上で、ウルは風を受けていました。

<かぷせるあにまる>としてとはいえ、再び体を得て、風を感じることができる。

たぶん、普通の人形とかが依代だったら、ここまではっきりと実感することはできなかったでしょう。ハカセの<かぷせるあにまる>ならではのことですね。

そしてしばらく風を感じたウルは、ハカセに話しかけました。

「僕を作ってくれてありがとう。ハカセとミコナにもう一度会わせてくれてありがとう……」

しみじみと、万感の想いを込めて。

そんなウルに、ハカセも、

「お礼を言うのは僕の方だよ……帰ってきてくれてありがとう。僕はルリアを守ってあげられなかった……恨まれても当然なのに……」

ヘルメットの下で、少し悲しげに微笑みながらそう言ったのです。

するとウルは、真っ直ぐ前を見たまま、

「そうだね。まったく恨んでないと言ったら、たぶんそれは嘘になる。ハカセには散々苦労をかけさせられたから、その所為で病気になったんだって考えてしまったことがあるのも事実だ。だから少なからず恨んでしまったのもある……」

「……」

覚悟はしていたけれど、一部とはいえママの魂そのものと記憶を持つウルにそう言われると、やっぱり胸に刺さります。だけど、ママは亡くなって、でも自分は生きていて、それを思えば、もっと厳しいことを言われても仕方ないのでしょう。なのにウルは、

「でもそれは、最初から分かってた。分かっててハカセと一緒になったんだ。自分が死ぬとなったら取り乱してしまったけど、正気じゃいられなかったけど、『きっと苦労するだろうな』って思った上で結婚したのはルリアの方だからね……」

正面を見据えたまま、呟くように言ったのでした。

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