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それは誰のための<普通>なんでっか?

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一人でお風呂に入るのは、本当は怖かった。

頭を洗ってる時とかはそれこそ後ろに何かいそうな気がして、シャンプーハットを使ってしっかりと目を開けて周りの様子を窺ってでないと怖くていられなかったりもしました。

実は、今でもそう。

だけど、ウルとティーさんとガーがいる今は、シャンプーハットを使わなくても平気でした。

ママが一緒に入ってくれてた時も、シャンプーハットは使っていなかったのです。ママが一緒だと怖くなかったから。

ミコナは言います。

「お父さんはすごく優しいけど、お風呂に一緒に入ってくれないのが不満って言ったら不満だったんだ。『お父さんと一緒に入ってるって他の人に知られたら変に思われるかも』って思ってるらしいけど、そんなの、私は気にしないよ。他のお父さんはどうか知らないけど、私のお父さんは平気だよ」

するとウルが応えました。

「そうか。でも、『お父さんと一緒に入ってるって他の人に知られたら変に思われるかも』っていうのは確かにあるみたいだから、ハカセの言ってることも僕は理解できるな」

だけどティーさんは、逆に、

「ワイはどっちか言うたら、『余所の家庭に口出しすんなや!』って思うんやけどな。そら、娘が嫌がってんのに無理に入ろうとするとかはありえへんで? でも、娘が一緒に入りたいって言ってんのに他人の目を気にして入らんいうのは違うんやないでっか?

しかもミコナはんは怖がってるんやで?」

不満そう。

「ティーの言うことも分かるけど、でも、やっぱり世間的にはもう十歳にもなったら父親と入るのはおかしいっていうのが普通じゃないかな」

「いやいや、<普通>言いまっけど、その<普通>ってなんやねん!?ってワイは思うねんや。それは誰のための<普通>なんでっか? 母親亡くして寂しい思いしてる子に無理を強いるためにあるのが<普通>なんでっか? 両親揃ってる子に合わせぇ言うのが<普通>なんでっか?

ワイは、どこの誰や分からん、顔も見えん<普通の人>なんかより、ミコナはんの顔を見て判断するべきやと思うんや」

ティーさんは、体についた泡を飛ばしながら尻尾をぶんぶん振り回しながら、熱弁をふるったのでした。

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