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第二部

第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!⑯『二人のイケメンと伯爵令嬢』

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      十六

 主人の傍に控えるべく自分の存在を消していたヴィル。
 沢崎直が自分への注意を逸らすべく隣に並んだことで、ようやくハンプシャー伯爵令嬢の視界にもヴィルが捉えられる。
 二人の若いイケメンが突然目の前に並んだことで、ハンプシャー伯爵令嬢は分かりやすく反応した。まずはもう一人イケメンが視界に入ったことに驚き、目を瞠る。次に、頬を染めて恥じらいを見せ少し俯きながら上目遣いに二人を眺め、交互に見比べる。
(……品定めされてるな、これ。)
 モブ女として女性の中で生きてきた沢崎直には理解できる。女性というのは、どんな時でも脳内の一定の領域で冷静に品定めしがちであると。そして、品定めをしながらも万が一の場合を考えて相手にいい印象を残しておくことを忘れない。相手にあまりいい印象を持っていなかったとしても、何かの場合の保険を考えて、そんなことはおくびにも出さず笑顔で応対する強者も少なくはない。
 一瞬の逡巡の後、笑顔のままの伯爵令嬢はヴィルの顔面偏差値の高さに後ろ髪を曳かれながらも、辺境伯家の三男坊という肩書きの持つ魅力に軍配を上げたようで、沢崎直に話の矛先を向けた。
「あの、アルバート様でしたよね?」
「は、はい。」
 脳内の算盤ではじき出された答えは、表面的に一切見せることなく見事に社交的に振舞う伯爵令嬢はさすがだ。だが、一瞬冷静になったことで、先程までの勢いは薄れていたし、何ならヴィルの美貌には抗いがたく、まだ後ろ髪曳かれ続けているようで、突撃の力のベクトルが一方向に傾くことはなかったため、沢崎直にも伯爵令嬢と相対する余裕が生まれた。
「先日は、お気持ちのこもったお手紙をありがとうございました。」
 楚々とした態度で頭を下げてくる伯爵令嬢。
 沢崎直はその言葉に首を傾げたかったが、表面的には愛想笑いをしてごまかした。
「いえいえ、そんな。」
(……何かスゴイ当たり障りのない手紙しか送ってないはずだけど……。)
 そのままのペースで会話を続けると伯爵令嬢のペースに呑まれてしまいそうだったので、沢崎直は愛想笑いを浮かべたまま急いで口を挟んだ。
「あっ、あの!ハンプシャー伯爵令嬢様は、どうしてこちらに?えっと、冒険者なのですか?」
 話題を強引に逸らして、少しでも会話のイニシアティブを握ろうと試みる沢崎直。
 幸いにも伯爵令嬢は、沢崎直が持ち出した話題に素直に答えてくれた。
「はい。見聞を広げようと思いまして。両親には反対されたんですけど、嫁入り前の娘のすることではないと。ですけど、昔から自分の目で見て、自分の足で立って生きていきたい性分ですので。」
 それはきっと、何とも先進的で進歩的なものの考え方なのだろう、この異世界では。
 だが、この異世界出身ではない沢崎直には感銘を受けるポイントが分からなかったので、何となく頷いただけだった。
「そうなんですか。はぁ。」
 思ったよりも手応えのない沢崎直の返事に、伯爵令嬢は肩透かしを食らっていた。多分、彼女の予定では、彼女独自の意見は感銘を受けたと言われたり、新しいと称賛されたり、人によっては眉を顰められたり、極端な反応を引き出せるものだと思って発言したに違いない。もしかしたら、その状況を利用することで自分という存在を強く印象付けたかったのかもしれない。
 沢崎直の代わりに、背後に控えた壮年の従者の男性が、またまたお嬢様はそのようなことをと言わんばかりの表情でやれやれと肩を竦めている。
 沢崎直はその全てを何となく見つめた後、先程の依頼の紙に話題を変えることにした。
「えっと……、ハンプシャー伯爵令嬢様も、依頼を受けたりするってことですよね?」
「はい。初めてアルバート様にお会いした時も、冒険者としての依頼の最中でしたの。」
 肩透かしを食らったものの、伯爵令嬢はめげずに話題を続けた。
 沢崎直はあの日のことを思い出して、確かにこのお嬢さんは薬草を採りに来たと言っていたなぁとか考えていた。
 そして、じっと依頼の紙を見つめる。
 紙には薬草採取と書かれていた。
(……変に取り合うより、別のにした方がいいかな?)
 そう心の中で結論を出して、沢崎直はその紙の隣の紙に手を伸ばすことにした。
(まあ、こっちも薬草採取って書いてあるし、隣のヤツと同じような感じだし、こっちでいいか……。)
「じゃあ、あの私はこっちにするので。失礼します。」
 依頼の紙を掲示板から剥がし、沢崎直はぺこりと頭を下げた。
 こうして、沢崎直は初めての依頼を受けるために、受付のお姉さんの待つカウンターへと向かうのだった。
 

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