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第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㊻『点けたり消したり』
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四十六
(なんじゃこりゃぁぁ!!)
これが、沢崎直が初めて使った魔法の感想である。
だが、それも止む無しと言えるほど、沢崎直の魔法は奇天烈であった。
「どうなってんだ?そりゃ……。」
師匠でさえ、言葉を失っている。この世界で魔法を使い慣れている師匠でさえだ。
だったら魔法も異世界も初心者の沢崎直が、あんな感想を持つのは仕方がないと言えよう。
「……おい、熱くないのか?それ。」
恐る恐る師匠が沢崎直に尋ねる。
沢崎直は突き出した自身の拳に炎を纏わりつかせたまま、引っ込めることも出来ずに答えた。
「あ、熱くはないんですけど……。これ、どうやって消したらいいんですか?」
何ぶん魔法は初めての事なので、勝手が全く分からない。
師匠のアドバイスのおかげで、炎らしき魔法が出たのだが、拳にくっついているだけだ。
知らない人が見たら、手が燃えているようにしか見えない。
「とりあえず深呼吸して、消えろって念じてみろ。出ろって思った時みたいにだ。」
分かりやすい師匠の説明に頷いて、沢崎直は深呼吸を始める。
(消えろぉ。消えろぉ。)
だが、拳にまとわりついた炎に変化はない。
(うそっ!?何でっ!?このままじゃ、私、手が燃えたまま生きてかなきゃならない。すっごく困るんだけど、それっ!?)
消えない魔法に、少しずつ沢崎直の精神が恐慌を来し始める。
師匠はそんな沢崎直にゆっくりと近づき、落ち着かせるように声を掛けた。
「大丈夫だぞ、ナオ。ゆっくりでいい。火が消えるところをイメージしろ。」
「わっ、分かりません、師匠。」
泣きべそをかき始めそうな沢崎直に、師匠は更に語りかける。
「火を消すって言ったら、お前にとってはどんなことだ?」
「火?火?……水とか?」
きょろきょろと辺りを見回してみるが火が消えそうなくらいの水は近くにない。井戸までは少し距離がある。
「水もいいが、他にはないか?小さな火を消すイメージでもいい。」
(……そんな、小さな火って言われても……。)
現在進行形で手が燃えているような人は、冷静になどなれない。
沢崎直は困り果てていた。
そして、困り果てた挙句、突き出した拳にふーふーと息を吹きかけはじめた。
(何でもいいから、消えてよ、早く!)
やけくそでロウソクの火を吹き消すように息を吹き続ける。
そんなことではどうにもならないと思われたが、沢崎直が吹き消そうとすればするほど拳に纏わりついていた炎の勢いが弱まり始めた。
それを見て、師匠が大きく頷く。
「そうだ、ナオ。そのまま息を吹きかけろ!」
「は、はい!」
ふー、ふー、と何度も息を吹きかけて、ようやく拳の炎は鎮火した。
「手は大丈夫か?」
尋ねながら師匠は、少し強引なくらいの勢いで弟子の手を掴み確認する。
沢崎直は大人しく師匠にされるがままになっていた。
火傷どころか、かすり傷一つ沢崎直の手に付いていないのを確認して、師匠はようやく手を離す。
「……ったく、驚かせんなよ、ナオ。」
「わ、私もびっくりしました……。」
師匠と弟子の二人でようやく胸を撫で下ろす。
火が消えたことでようやく冷静さを取り戻した沢崎直は、改めて師匠に質問をすることにした。
「師匠。魔法って、前に飛んだりするもんじゃないんですか?」
師匠は弟子の質問に分かりやすく答える。
「飛ぶぞ、普通はな。小さな子供が初めて使って見せる時だって、威力はいまいちだが基本的に前に向かって飛んでいくもんだ。勢いがなくて途中で霧散することはあるし、いつまでも飛び続けるもんでもないが、前に放たれるもんだ。」
「そうですか……。」
弟子は納得して頷いた。
(私だって、そう思う。)
だが、沢崎直の魔法は前に飛ぶどころか、拳に纏わりついて離れなかったのだ。
師匠は更に魔法のレクチャーを続けてくれる。
「もちろん高度に操作すれば色々なことが出来るのが魔法だが、初心者が最初に唱えるのは前に飛ぶタイプの基本的なものだ。それが一番簡単だからだ。」
「……簡単。」
その一言に少しだけ傷つく沢崎直。
あまり出来がいいとは思っていなかったが、自分が引き起こした珍事を思い、少し落ち込む。
しかし、師匠は沢崎直の引き起こした珍事に興味を持ったようで、少し考え始めた。
「何でああなったんだろうな……。そりゃ、付与系の魔法ってのはあるが、それは肉体を強化したり弱体化させるもんだろ?纏って維持し続けるとなると……。いや?強化の一環なのか?あれは。」
考え込む師匠の様子を見て、どうやら出来ないことに落胆されているわけではなく、引き起こされた珍事の理由が難解そうなだけなのではないかと沢崎直は、少しだけ落ち込むのを止めた。
師匠はまだ考えながらも、顔を上げる。
「よし、消し方は分かったからな。もう一回やってみろ。だが、今度は的に放つイメージを持ってみろ。」
師匠に言われ、沢崎直は素直に従う。
手のひらを掲げて的に向かおうとするが、師匠が更に指示を加えた。
「もっと的に近づいてみろ。その方が上手くいくかもしれん。」
「はい!」
沢崎直は的から一メートルの所まで近づくと、もう一度構えた。
(なんじゃこりゃぁぁ!!)
これが、沢崎直が初めて使った魔法の感想である。
だが、それも止む無しと言えるほど、沢崎直の魔法は奇天烈であった。
「どうなってんだ?そりゃ……。」
師匠でさえ、言葉を失っている。この世界で魔法を使い慣れている師匠でさえだ。
だったら魔法も異世界も初心者の沢崎直が、あんな感想を持つのは仕方がないと言えよう。
「……おい、熱くないのか?それ。」
恐る恐る師匠が沢崎直に尋ねる。
沢崎直は突き出した自身の拳に炎を纏わりつかせたまま、引っ込めることも出来ずに答えた。
「あ、熱くはないんですけど……。これ、どうやって消したらいいんですか?」
何ぶん魔法は初めての事なので、勝手が全く分からない。
師匠のアドバイスのおかげで、炎らしき魔法が出たのだが、拳にくっついているだけだ。
知らない人が見たら、手が燃えているようにしか見えない。
「とりあえず深呼吸して、消えろって念じてみろ。出ろって思った時みたいにだ。」
分かりやすい師匠の説明に頷いて、沢崎直は深呼吸を始める。
(消えろぉ。消えろぉ。)
だが、拳にまとわりついた炎に変化はない。
(うそっ!?何でっ!?このままじゃ、私、手が燃えたまま生きてかなきゃならない。すっごく困るんだけど、それっ!?)
消えない魔法に、少しずつ沢崎直の精神が恐慌を来し始める。
師匠はそんな沢崎直にゆっくりと近づき、落ち着かせるように声を掛けた。
「大丈夫だぞ、ナオ。ゆっくりでいい。火が消えるところをイメージしろ。」
「わっ、分かりません、師匠。」
泣きべそをかき始めそうな沢崎直に、師匠は更に語りかける。
「火を消すって言ったら、お前にとってはどんなことだ?」
「火?火?……水とか?」
きょろきょろと辺りを見回してみるが火が消えそうなくらいの水は近くにない。井戸までは少し距離がある。
「水もいいが、他にはないか?小さな火を消すイメージでもいい。」
(……そんな、小さな火って言われても……。)
現在進行形で手が燃えているような人は、冷静になどなれない。
沢崎直は困り果てていた。
そして、困り果てた挙句、突き出した拳にふーふーと息を吹きかけはじめた。
(何でもいいから、消えてよ、早く!)
やけくそでロウソクの火を吹き消すように息を吹き続ける。
そんなことではどうにもならないと思われたが、沢崎直が吹き消そうとすればするほど拳に纏わりついていた炎の勢いが弱まり始めた。
それを見て、師匠が大きく頷く。
「そうだ、ナオ。そのまま息を吹きかけろ!」
「は、はい!」
ふー、ふー、と何度も息を吹きかけて、ようやく拳の炎は鎮火した。
「手は大丈夫か?」
尋ねながら師匠は、少し強引なくらいの勢いで弟子の手を掴み確認する。
沢崎直は大人しく師匠にされるがままになっていた。
火傷どころか、かすり傷一つ沢崎直の手に付いていないのを確認して、師匠はようやく手を離す。
「……ったく、驚かせんなよ、ナオ。」
「わ、私もびっくりしました……。」
師匠と弟子の二人でようやく胸を撫で下ろす。
火が消えたことでようやく冷静さを取り戻した沢崎直は、改めて師匠に質問をすることにした。
「師匠。魔法って、前に飛んだりするもんじゃないんですか?」
師匠は弟子の質問に分かりやすく答える。
「飛ぶぞ、普通はな。小さな子供が初めて使って見せる時だって、威力はいまいちだが基本的に前に向かって飛んでいくもんだ。勢いがなくて途中で霧散することはあるし、いつまでも飛び続けるもんでもないが、前に放たれるもんだ。」
「そうですか……。」
弟子は納得して頷いた。
(私だって、そう思う。)
だが、沢崎直の魔法は前に飛ぶどころか、拳に纏わりついて離れなかったのだ。
師匠は更に魔法のレクチャーを続けてくれる。
「もちろん高度に操作すれば色々なことが出来るのが魔法だが、初心者が最初に唱えるのは前に飛ぶタイプの基本的なものだ。それが一番簡単だからだ。」
「……簡単。」
その一言に少しだけ傷つく沢崎直。
あまり出来がいいとは思っていなかったが、自分が引き起こした珍事を思い、少し落ち込む。
しかし、師匠は沢崎直の引き起こした珍事に興味を持ったようで、少し考え始めた。
「何でああなったんだろうな……。そりゃ、付与系の魔法ってのはあるが、それは肉体を強化したり弱体化させるもんだろ?纏って維持し続けるとなると……。いや?強化の一環なのか?あれは。」
考え込む師匠の様子を見て、どうやら出来ないことに落胆されているわけではなく、引き起こされた珍事の理由が難解そうなだけなのではないかと沢崎直は、少しだけ落ち込むのを止めた。
師匠はまだ考えながらも、顔を上げる。
「よし、消し方は分かったからな。もう一回やってみろ。だが、今度は的に放つイメージを持ってみろ。」
師匠に言われ、沢崎直は素直に従う。
手のひらを掲げて的に向かおうとするが、師匠が更に指示を加えた。
「もっと的に近づいてみろ。その方が上手くいくかもしれん。」
「はい!」
沢崎直は的から一メートルの所まで近づくと、もう一度構えた。
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