上 下
131 / 187
第二部

第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㊻『点けたり消したり』

しおりを挟む
      四十六

(なんじゃこりゃぁぁ!!)
 これが、沢崎直が初めて使った魔法の感想である。
 だが、それも止む無しと言えるほど、沢崎直の魔法は奇天烈であった。
「どうなってんだ?そりゃ……。」
 師匠でさえ、言葉を失っている。この世界で魔法を使い慣れている師匠でさえだ。
 だったら魔法も異世界も初心者の沢崎直が、あんな感想を持つのは仕方がないと言えよう。
「……おい、熱くないのか?それ。」
 恐る恐る師匠が沢崎直に尋ねる。
 沢崎直は突き出した自身の拳に炎を纏わりつかせたまま、引っ込めることも出来ずに答えた。
「あ、熱くはないんですけど……。これ、どうやって消したらいいんですか?」
 何ぶん魔法は初めての事なので、勝手が全く分からない。
 師匠のアドバイスのおかげで、炎らしき魔法が出たのだが、拳にくっついているだけだ。
 知らない人が見たら、手が燃えているようにしか見えない。
「とりあえず深呼吸して、消えろって念じてみろ。出ろって思った時みたいにだ。」
 分かりやすい師匠の説明に頷いて、沢崎直は深呼吸を始める。
(消えろぉ。消えろぉ。)
 だが、拳にまとわりついた炎に変化はない。
(うそっ!?何でっ!?このままじゃ、私、手が燃えたまま生きてかなきゃならない。すっごく困るんだけど、それっ!?)
 消えない魔法に、少しずつ沢崎直の精神が恐慌を来し始める。
 師匠はそんな沢崎直にゆっくりと近づき、落ち着かせるように声を掛けた。
「大丈夫だぞ、ナオ。ゆっくりでいい。火が消えるところをイメージしろ。」
「わっ、分かりません、師匠。」
 泣きべそをかき始めそうな沢崎直に、師匠は更に語りかける。
「火を消すって言ったら、お前にとってはどんなことだ?」
「火?火?……水とか?」
 きょろきょろと辺りを見回してみるが火が消えそうなくらいの水は近くにない。井戸までは少し距離がある。
「水もいいが、他にはないか?小さな火を消すイメージでもいい。」
(……そんな、小さな火って言われても……。)
 現在進行形で手が燃えているような人は、冷静になどなれない。
 沢崎直は困り果てていた。
 そして、困り果てた挙句、突き出した拳にふーふーと息を吹きかけはじめた。
(何でもいいから、消えてよ、早く!)
 やけくそでロウソクの火を吹き消すように息を吹き続ける。
 そんなことではどうにもならないと思われたが、沢崎直が吹き消そうとすればするほど拳に纏わりついていた炎の勢いが弱まり始めた。
 それを見て、師匠が大きく頷く。
「そうだ、ナオ。そのまま息を吹きかけろ!」
「は、はい!」
 ふー、ふー、と何度も息を吹きかけて、ようやく拳の炎は鎮火した。
「手は大丈夫か?」
 尋ねながら師匠は、少し強引なくらいの勢いで弟子の手を掴み確認する。
 沢崎直は大人しく師匠にされるがままになっていた。
 火傷どころか、かすり傷一つ沢崎直の手に付いていないのを確認して、師匠はようやく手を離す。
「……ったく、驚かせんなよ、ナオ。」
「わ、私もびっくりしました……。」
 師匠と弟子の二人でようやく胸を撫で下ろす。
 火が消えたことでようやく冷静さを取り戻した沢崎直は、改めて師匠に質問をすることにした。
「師匠。魔法って、前に飛んだりするもんじゃないんですか?」
 師匠は弟子の質問に分かりやすく答える。
「飛ぶぞ、普通はな。小さな子供が初めて使って見せる時だって、威力はいまいちだが基本的に前に向かって飛んでいくもんだ。勢いがなくて途中で霧散することはあるし、いつまでも飛び続けるもんでもないが、前に放たれるもんだ。」
「そうですか……。」
 弟子は納得して頷いた。
(私だって、そう思う。)
 だが、沢崎直の魔法は前に飛ぶどころか、拳に纏わりついて離れなかったのだ。
 師匠は更に魔法のレクチャーを続けてくれる。
「もちろん高度に操作すれば色々なことが出来るのが魔法だが、初心者が最初に唱えるのは前に飛ぶタイプの基本的なものだ。それが一番簡単だからだ。」
「……簡単。」
 その一言に少しだけ傷つく沢崎直。
 あまり出来がいいとは思っていなかったが、自分が引き起こした珍事を思い、少し落ち込む。
 しかし、師匠は沢崎直の引き起こした珍事に興味を持ったようで、少し考え始めた。
「何でああなったんだろうな……。そりゃ、付与系の魔法ってのはあるが、それは肉体を強化したり弱体化させるもんだろ?纏って維持し続けるとなると……。いや?強化の一環なのか?あれは。」
 考え込む師匠の様子を見て、どうやら出来ないことに落胆されているわけではなく、引き起こされた珍事の理由が難解そうなだけなのではないかと沢崎直は、少しだけ落ち込むのを止めた。
 師匠はまだ考えながらも、顔を上げる。
「よし、消し方は分かったからな。もう一回やってみろ。だが、今度は的に放つイメージを持ってみろ。」
 師匠に言われ、沢崎直は素直に従う。
 手のひらを掲げて的に向かおうとするが、師匠が更に指示を加えた。
「もっと的に近づいてみろ。その方が上手くいくかもしれん。」
「はい!」
 沢崎直は的から一メートルの所まで近づくと、もう一度構えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

処理中です...