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第二部
第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!㉗『板挟み』
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二十七
沢崎直が進んで立ち上がり、馬車へと向かい始めるとその行動に驚いたヴィルが、走って追いついてきた。
「アルバート様、お座りになっていてください。師匠の言うことなど無視して構わないのですよ。どうせ、酒など手に取った瞬間に消えていくのですから。後で帰り際に、その辺に放っておけば自分で取りに来ます。」
師匠は酷い言われようだが、まあヴィルにここまで言われるほどの日頃の行いというものがあるのだろう。
沢崎直はヴィルに微笑みながらも馬車を目指す。
「いいんです。全部とは言いませんが、少しくらいは運ばせてください。私は師匠の事も、師匠に教えていただいた剣も忘れてしまって、本当に申し訳なく思い心苦しいのです。ですから何かさせていただきたいと思いました。」
(あと、くまさんの話よりお酒の話を師匠としたいです。)
心の中で言えない本音を付け足し、殊勝な顔をする沢崎直。
ヴィルはそんな健気に見える主人に感無量の様子であった。
「……アルバート様。」
吐息多めの呟き。イケボのとんでもないセクシーな破壊力に、沢崎直は恐れおののいたが、表面上は平静を装って馬車へと向かう足を進める。
馬車の停めてある場所に到着すると、沢崎直は中から運びやすそうなサイズの箱を持ち上げた。
(……とりあえず、ウェルカムドリンクくらいにはなる量かな?)
師匠の酒の消費量が見当もつかないが、自分が持って気軽に運んでいるように見える大きさを沢崎直は選んだ。あまり大きな箱を持っていては、ヴィルに気を遣われてしまうだろう。その辺の塩梅にも気を遣い、来た道を戻り始める。
沢崎直が酒を運び始めては、ヴィルもそれに続かざるを得ない。酒を師匠に運ぶという行為自体には不服を感じながらも、健気な主人の行動を邪魔してはいけないと思ったのだろう。ヴィルは沢崎直よりも大きな箱を持って、ついてきてくれた。
主従二人で、師匠の元へと手土産の酒を運んでいく。
室内に酒を持って帰ってくると、師匠は実に嬉しそうに微笑んだ。
「おう、気が利くじゃねぇか、二人とも。」
「どこに置いたらいいですか?」
「んあ?ああ、その辺に……。」
「アルバート様、こちらです。」
師匠の言葉に、今度はヴィルが割り込んだ。
師匠が座っている位置からは最も遠い場所を目指すヴィル。
その上、ヴィルは酒の入った箱を対岸に置いた後、その箱の上に腰かけてしまった。長い足を優雅に組み、師匠に挑発的な笑みを向ける。
「アルバート様。師匠は先程まで飲まれていたのですから、本日はお身体のためにも休肝日にした方がいいと思われます。この手土産の酒は、明日以降にお飲みになられるものですから、邪魔にならぬように部屋の隅に片づけておきましょう。ああ、それに残りは倉庫に入れて備蓄に回した方がいいかもしれませんね。鍵をかけておきましょうか?」
ヴィルは優雅に微笑んでいたが、確実に師匠に対して怒っていた。
師匠はヴィルの所業に、すっと目を細める。
「ヴィル。……てめぇ。」
奥歯をぎりっと鳴らして、ヴィルを睨みつける師匠。
だが、すぐに気分を切り替えると今度はアルバートに向き直った。
「アル坊。その箱はこっちに持ってこい。」
必要以上に優しい声音で話しかけられる。
師匠に笑顔で手招きまでされて、沢崎直は素直に従おうとした。
だが、そこに遮るようなヴィルの声が響く。
「アルバート様。その箱は、師匠のお邪魔になってはいけませんから、こちらに。」
ヴィルの声も必要以上に甘くて柔らかいものになっていた。ただでさえイケボ、ただでさえ超絶イケメンの推しは、沢崎直にとろけそうなほどの笑顔を向けて手招きする。
沢崎直は花の匂いにつられる虫のように、ふらふらとヴィルの方に吸い寄せられ始めた。
「アル坊。」
そんな沢崎直の背中に、今度は師匠の声が響く。
結局、二人の男の間を沢崎直が箱を持ったまま右往左往する時間が、それからしばらく続いたのだった。
沢崎直が進んで立ち上がり、馬車へと向かい始めるとその行動に驚いたヴィルが、走って追いついてきた。
「アルバート様、お座りになっていてください。師匠の言うことなど無視して構わないのですよ。どうせ、酒など手に取った瞬間に消えていくのですから。後で帰り際に、その辺に放っておけば自分で取りに来ます。」
師匠は酷い言われようだが、まあヴィルにここまで言われるほどの日頃の行いというものがあるのだろう。
沢崎直はヴィルに微笑みながらも馬車を目指す。
「いいんです。全部とは言いませんが、少しくらいは運ばせてください。私は師匠の事も、師匠に教えていただいた剣も忘れてしまって、本当に申し訳なく思い心苦しいのです。ですから何かさせていただきたいと思いました。」
(あと、くまさんの話よりお酒の話を師匠としたいです。)
心の中で言えない本音を付け足し、殊勝な顔をする沢崎直。
ヴィルはそんな健気に見える主人に感無量の様子であった。
「……アルバート様。」
吐息多めの呟き。イケボのとんでもないセクシーな破壊力に、沢崎直は恐れおののいたが、表面上は平静を装って馬車へと向かう足を進める。
馬車の停めてある場所に到着すると、沢崎直は中から運びやすそうなサイズの箱を持ち上げた。
(……とりあえず、ウェルカムドリンクくらいにはなる量かな?)
師匠の酒の消費量が見当もつかないが、自分が持って気軽に運んでいるように見える大きさを沢崎直は選んだ。あまり大きな箱を持っていては、ヴィルに気を遣われてしまうだろう。その辺の塩梅にも気を遣い、来た道を戻り始める。
沢崎直が酒を運び始めては、ヴィルもそれに続かざるを得ない。酒を師匠に運ぶという行為自体には不服を感じながらも、健気な主人の行動を邪魔してはいけないと思ったのだろう。ヴィルは沢崎直よりも大きな箱を持って、ついてきてくれた。
主従二人で、師匠の元へと手土産の酒を運んでいく。
室内に酒を持って帰ってくると、師匠は実に嬉しそうに微笑んだ。
「おう、気が利くじゃねぇか、二人とも。」
「どこに置いたらいいですか?」
「んあ?ああ、その辺に……。」
「アルバート様、こちらです。」
師匠の言葉に、今度はヴィルが割り込んだ。
師匠が座っている位置からは最も遠い場所を目指すヴィル。
その上、ヴィルは酒の入った箱を対岸に置いた後、その箱の上に腰かけてしまった。長い足を優雅に組み、師匠に挑発的な笑みを向ける。
「アルバート様。師匠は先程まで飲まれていたのですから、本日はお身体のためにも休肝日にした方がいいと思われます。この手土産の酒は、明日以降にお飲みになられるものですから、邪魔にならぬように部屋の隅に片づけておきましょう。ああ、それに残りは倉庫に入れて備蓄に回した方がいいかもしれませんね。鍵をかけておきましょうか?」
ヴィルは優雅に微笑んでいたが、確実に師匠に対して怒っていた。
師匠はヴィルの所業に、すっと目を細める。
「ヴィル。……てめぇ。」
奥歯をぎりっと鳴らして、ヴィルを睨みつける師匠。
だが、すぐに気分を切り替えると今度はアルバートに向き直った。
「アル坊。その箱はこっちに持ってこい。」
必要以上に優しい声音で話しかけられる。
師匠に笑顔で手招きまでされて、沢崎直は素直に従おうとした。
だが、そこに遮るようなヴィルの声が響く。
「アルバート様。その箱は、師匠のお邪魔になってはいけませんから、こちらに。」
ヴィルの声も必要以上に甘くて柔らかいものになっていた。ただでさえイケボ、ただでさえ超絶イケメンの推しは、沢崎直にとろけそうなほどの笑顔を向けて手招きする。
沢崎直は花の匂いにつられる虫のように、ふらふらとヴィルの方に吸い寄せられ始めた。
「アル坊。」
そんな沢崎直の背中に、今度は師匠の声が響く。
結局、二人の男の間を沢崎直が箱を持ったまま右往左往する時間が、それからしばらく続いたのだった。
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