上 下
103 / 187
第二部

第五章 イケおじ師匠とナイショの特訓!!!⑱『師匠について』

しおりを挟む
      十八

 それから数日経ったある日の午後。
 執事のリヒターと会話していた沢崎直は、何の気なしに師匠の名前を出した。
「そういえば、この間、師匠のゲオルグ・ガーランドという方から手紙が来たのですが……。リヒターさんはどんな方かご存知ですか?」
「ゲオルグ殿ですか。はい、存じております。」
 執事として微笑みを絶やさないリヒターは、沢崎直にお茶を淹れながら頷いた。
 ヴィルからの要領を得ないようで真実っぽい感想しか聞いていない沢崎直は、師匠の人物像が気になって仕方がなかった。リヒターが知っているなら、話は早い。沢崎直はリヒターに続きを促した。
「私は、覚えてなくて……。どんな方ですか?」
「そうですね……。」
 お茶を淹れ終えたリヒターが、質問に答えるために考えをまとめ始めた。
 淹れてもらったお茶を早速飲みながら、沢崎直はリヒターの言葉を待つ。
「とてもお強い方ですよ。剣の腕で言えば、我が国最強と名高い騎士です。以前は王国騎士団の団長の一人として、活躍しておられました。」
 リヒターから齎される師匠の情報は、初めて聞くことばかりで沢崎直の好奇心がくすぐられる。並べ立てられる言葉の数々が煌びやかで、期待値は鰻登りだ。
「そんなにお強いのですか……。」
「はい。功績などを含めると我が国における英雄と呼んでも差し支えがないのではないでしょうか?」
「英雄……。」
 性格に難があって酒好きで、剣が凄くて英雄。
 既にこの時点でクセが強い。新しく次々に出てくるトピックを統合しても、全く人物像が想像できないし、何なら聞けば聞くほど分からなくなっていく。
「騎士団をお辞めになってからは、剣を究めるため諸国に修行の旅に出ておられるようです。その傍ら、弟子としてアルバート様とヴィルヘルムに剣を指南して下さいました。何でも、若き日に旦那様にお世話になられたようで、その恩義に報いるためだったとか。」
(アルバート父ともお知り合いなのか……。)
 カップに口をつけ、美味しいお茶の味に満足しながら、師匠の人となりを沢崎直なりに想像してみる。
 騎士団の団長っぽくて、剣が強くて、酒好きで、剣の修行の旅に出てて、師匠で……。
 やはり分からない。なので、沢崎直はもう少し具体的な情報を知るための質問をすることにした。
「お年はどれくらいの方ですか?それに、背は高い方ですか?」
「そうですねー。ご年齢は四十を少し過ぎた頃だと記憶しています。背丈は高いのではないでしょうか。ロバート様ほどではないにしろ、少なくとも騎士として体格に恵まれた方でありました。」
(うんうん。ロバート兄さんほどマッチョじゃないけど、ムキムキの男性。)
 英雄的であり、剣を究めんと修行しているのであれば、現在も鍛練を怠っているなどということはあるまい。
 とりあえず沢崎直の脳内に、長身の鍛え上げられた肉体を持つ騎士像が浮かび上がった。そこに個性を肉付けするために、リヒターに質問を重ねていく。師匠とは近いうちに会うことになるのは確実だろう。その時までに、もう少し情報が欲しい。
「騎士団をお辞めになられたのは、剣の修行のためですか?それとも、何か理由が?まさか、私とヴィルに剣を教えるためではないですよね?」
 沢崎直は茶飲み話として気軽に質問をしたのだが、その質問にリヒターの微笑みがぴくりと反応した。
 いつも穏やかな微笑みを絶やさずに対応してくれるリヒターには珍しいことだ。
 沢崎直は見間違いかと思い、もう一度しっかりとリヒターを見つめた。
 リヒターはすぐにいつもの柔和な微笑みを取り戻していたため、妙な反応の確認は出来なかったが、それでも沢崎直の質問にすぐには答えず、言葉を探していた。
 やはり、こちらもリヒターには珍しいことだ。
 主人の問いかけに対して当意即妙であるのが、優秀な執事・リヒターという人であるはずなのに、いつまで経っても沢崎直の質問に明確な答えが返ってこない。
 沢崎直は首を傾げて、ティーカップをテーブルに置いた。
(……もしかして、ヴィルが言ってた『性格に難がある』ってことと関係あるのかな?)
 しばらく時間を要した後、リヒターは沢崎直の質問に答えるために口を開く。
「申し訳ありません、アルバート様。ゲオルグ殿が騎士団をお辞めになった理由について、わたくしは詳しくございません。」
 リヒターに頭を下げられ謝罪される。
 沢崎直は両手を振って、慌てて頭を上げてもらった。
「い、いえ、いいんです。大丈夫です。ちょっと聞きたかっただけなので。はい。」
 師匠のことを聞こうとすると、皆、最後は言葉を濁し、口が重くなる。一応、剣の腕は立つし、辺境伯家の御令息の剣術指南役であるはずだが、よい評判を口にする者はいない。
(結局、どういう人なんだろう……?)
 疑問はますます深まっていく。
 この日、沢崎直の心のメモ帳には、師匠について要注意のチェックマークが入れられることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「『面倒』ですが、仕方が無いのでせめて効率的に片づける事にしましょう」  望まなかった第二王子と侯爵子息からの接触に、伯爵令嬢・セシリアは思慮深い光を瞳に宿して静かにそう呟いた。 ***  社交界デビューの当日、伯爵令嬢・セシリアは立て続けのトラブルに遭遇する。 とある侯爵家子息からのちょっかい。 第二王子からの王権行使。 これは、勝手にやってくるそれらの『面倒』に、10歳の少女が類稀なる頭脳と度胸で対処していくお話。  ◇ ◆ ◇ 最低限の『貴族の義務』は果たしたい。 でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。 これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第2部作品の【簡略編集版】です。 ※完全版を読みたいという方は目次下に設置したリンクへお進みください。 ※一応続きものですが、こちらの作品(第2部)からでもお読みいただけます。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

ヒロインがいない世界で悪役令嬢は婚約を破棄し、忠犬系従者と駆け落ちする

平山和人
恋愛
転生先はまさかの悪役令嬢・サブリナ!? 「なんで悪役!? 絶対に破滅エンドなんて嫌!」 愚かな俺様王子なんて、顔だけ良ければヒロインに譲ってあげるつもりだった。ところが、肝心のヒロインは学園にすら入学していなかった! 「悪役令嬢、完全に詰んでるじゃない!」 ずっとそばで支えてくれた従者のカイトに密かに恋をしているサブリナ。しかし、このままでは王子との婚約が破棄されず、逃げ場がなくなってしまう。ヒロインを探そうと奔走し、別の婚約者を立てようと奮闘するものの、王子の横暴さにとうとう我慢の限界が。 「もう無理!こんな国、出ていきます!」 ついにサブリナは王子を殴り飛ばし、忠犬系従者カイトと共に国外逃亡を決意する――!

処理中です...