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第一部
第三章 SUR級モンスター 女子力の化身、襲来!!⑤『メイドさんの謝罪』
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五
のろのろと重たい心を引き摺りながらも、沢崎直は着替えをしていた。
とりあえず用途を推測し、布を纏い、身体を覆い隠していく。
うまく着られているとは言い難いが、裸よりはマシといった様子で、用意されていた服を全て身に着けると、今度はベッドに深く座り込んだ。
先程見た光景が脳内にこびり付き、もう立っていられなかったのだ。
どれだけ忘れようとしてもあの記憶が、苛むように沢崎直を責めたてる。
(……やっぱり、男、なんだよね、私。)
両手で顔を覆って俯き、盛大なため息を吐く。
男として生きていくこれからを思い、身体は鉛のように重たくなった。
(……別に、女に生まれて幸せってわけじゃなかったけどさ……。男になるのは、話が別じゃん!)
誰に向けるわけでもなく、心の中で愚痴をこぼす。
(大体さぁ、今、現在このアルバート氏に間借りしてる感じだけどさ。これって、いつまでのことなの?……転生って言ってもさ。本当の私は……。)
そこで、沢崎直はゾッとするような感覚を思い出す。
交通事故に遭い、命が消える瞬間の真っ暗闇。無に帰す前の絶望。
前世の最期は、人生で思い出したくもない瞬間ナンバーワンだが、瞼の裏に焼き付き忘れさせてもくれない。人間誰しも最後は死ぬものだが、最後だからそれを思い出すことはありえない。生き返りでもしない限り、己の最期を記憶にとどめて繰り返し思い出すなどあるはずがないのだ。
滅多にできない経験をしているといえば聞こえがいいが、出来ればしたくない経験でもある。その上、生き返ったら知らん男になっているなど、有難迷惑に近い。
(どうせ生き返るなら、自分が良かった……。せめて、女の人が良かった……。)
沢崎直の心は更に陰鬱に沈んでいった。
コンコン
陰鬱に己の内に沈み込んだ沢崎直の耳に、外界から齎されるノックの音。
そのノックの音は少し控えめで、思わず沢崎直は顔を上げていた。
「はい?」
室内から返事をすると、扉が外側からおずおずと開かれる。
開かれた扉の向こうから申し訳なさそうに顔を出したのは、先程大絶叫を響かせたメイドさんだった。
「あ、あのー。アルバート様……。」
酷く申し訳なさそうにしながらも、一応持ってきたワゴンと共に部屋に入り、扉の前に陣取るメイドさん。
扉が閉まり、少し逡巡を繰り返した後、メイドさんは続けた。
「先程は、そのー……。」
「……。」
「大変申し訳ありませんでした!!」
かと思ったら、急に大きな声を上げて頭を下げるメイドさん。
ベッドに座ったままだった沢崎直はびっくりして立ち上がった。
「えっ?あの?」
「本当にあんな失礼な態度。驚いたとはいえ、アルバート様に取っていいものじゃないですよね。本当にすいません。ごめんなさい。」
捲し立てるようにメイドさんは一気に言い終えると、再び深く頭を下げた。
驚いて立ち上がったままの沢崎直は、突然の謝罪に何と言葉を返していいか分からず、あわあわと慌てて言葉を探していた。
そんな沢崎直の沈黙を、頭を下げたままのメイドさんは、主人がお怒りだと捉えたのだろう。一向に頭を上げる様子はない。
頭を下げさせたままではいけないと、何か早く言葉を返さなければと焦れば焦るほど、沢崎直の口はうまく回らない。
主人が沈黙を続けることに畏縮して、メイドさんは頭を上げることも出来ない。
これは、両者にとって非常に良くない状況だった。
メイドさんがちらとでも主人の顔色を窺おうとして顔を上げたり、視線を向けたりすれば今まさに沢崎直があたふたとしているのが確認できて、怒っていないのが伝わったし、逆に沢崎直が少しでも慌てふためいたような言葉を発することが出来たら、頭を下げたままのメイドさんに沢崎直の沈黙の真意が伝わったのだろうが、現状、それは無理な相談だった。
メイドさんはちゃんと教育が行き届いているせいで、主人の顔色を窺おうとはしない。もしかしたらさっきの超絶イケメンに、何か言われてここに来ているのかもしれない。だとすれば、更に失礼を重ねるようなことは絶対にできないだろう。
このまま永遠に沈黙が続き、どちらかの自制心が完全にへし折れるまでの攻防になる万事休すの状態かと思われたが、意外なところから助け舟が出される。
ぐーっ。
不定期に存在を主張する沢崎直の腹の虫が、圧倒的な威力で硬直した状況を打開した。
「へ?」
思わず間抜けな声を出しちゃうメイドさん。根は素直な子なのだろう。
ぐーっ。きゅるるるるる。
立て続けに鳴き続ける腹の虫。
間抜けな声に続いて、思わず顔も上げちゃうメイドさん。
「……ごめんなさい。あの、違うんです。」
怒っていると思い込んでいた主人は、赤い顔で消え入りそうな声を上げた。
「び、びっくりして何を言っていいか分からなかったんです……。」
消え入りそうな主人の告白に、メイドさんは堪えきれず笑い出した。
穴があったら入りたいとはこういう状況だろう。
沢崎直は自分で制御できない腹の虫を苦々しく思いながらも、メイドさんの押してきたワゴンに視線を向けた。
(……だって、すごくいい匂いがするからぁ!)
室内に充満した美味しそうな食べ物の匂いの前で空腹を誤魔化すなど、沢崎直に出来るはずもなかった。
のろのろと重たい心を引き摺りながらも、沢崎直は着替えをしていた。
とりあえず用途を推測し、布を纏い、身体を覆い隠していく。
うまく着られているとは言い難いが、裸よりはマシといった様子で、用意されていた服を全て身に着けると、今度はベッドに深く座り込んだ。
先程見た光景が脳内にこびり付き、もう立っていられなかったのだ。
どれだけ忘れようとしてもあの記憶が、苛むように沢崎直を責めたてる。
(……やっぱり、男、なんだよね、私。)
両手で顔を覆って俯き、盛大なため息を吐く。
男として生きていくこれからを思い、身体は鉛のように重たくなった。
(……別に、女に生まれて幸せってわけじゃなかったけどさ……。男になるのは、話が別じゃん!)
誰に向けるわけでもなく、心の中で愚痴をこぼす。
(大体さぁ、今、現在このアルバート氏に間借りしてる感じだけどさ。これって、いつまでのことなの?……転生って言ってもさ。本当の私は……。)
そこで、沢崎直はゾッとするような感覚を思い出す。
交通事故に遭い、命が消える瞬間の真っ暗闇。無に帰す前の絶望。
前世の最期は、人生で思い出したくもない瞬間ナンバーワンだが、瞼の裏に焼き付き忘れさせてもくれない。人間誰しも最後は死ぬものだが、最後だからそれを思い出すことはありえない。生き返りでもしない限り、己の最期を記憶にとどめて繰り返し思い出すなどあるはずがないのだ。
滅多にできない経験をしているといえば聞こえがいいが、出来ればしたくない経験でもある。その上、生き返ったら知らん男になっているなど、有難迷惑に近い。
(どうせ生き返るなら、自分が良かった……。せめて、女の人が良かった……。)
沢崎直の心は更に陰鬱に沈んでいった。
コンコン
陰鬱に己の内に沈み込んだ沢崎直の耳に、外界から齎されるノックの音。
そのノックの音は少し控えめで、思わず沢崎直は顔を上げていた。
「はい?」
室内から返事をすると、扉が外側からおずおずと開かれる。
開かれた扉の向こうから申し訳なさそうに顔を出したのは、先程大絶叫を響かせたメイドさんだった。
「あ、あのー。アルバート様……。」
酷く申し訳なさそうにしながらも、一応持ってきたワゴンと共に部屋に入り、扉の前に陣取るメイドさん。
扉が閉まり、少し逡巡を繰り返した後、メイドさんは続けた。
「先程は、そのー……。」
「……。」
「大変申し訳ありませんでした!!」
かと思ったら、急に大きな声を上げて頭を下げるメイドさん。
ベッドに座ったままだった沢崎直はびっくりして立ち上がった。
「えっ?あの?」
「本当にあんな失礼な態度。驚いたとはいえ、アルバート様に取っていいものじゃないですよね。本当にすいません。ごめんなさい。」
捲し立てるようにメイドさんは一気に言い終えると、再び深く頭を下げた。
驚いて立ち上がったままの沢崎直は、突然の謝罪に何と言葉を返していいか分からず、あわあわと慌てて言葉を探していた。
そんな沢崎直の沈黙を、頭を下げたままのメイドさんは、主人がお怒りだと捉えたのだろう。一向に頭を上げる様子はない。
頭を下げさせたままではいけないと、何か早く言葉を返さなければと焦れば焦るほど、沢崎直の口はうまく回らない。
主人が沈黙を続けることに畏縮して、メイドさんは頭を上げることも出来ない。
これは、両者にとって非常に良くない状況だった。
メイドさんがちらとでも主人の顔色を窺おうとして顔を上げたり、視線を向けたりすれば今まさに沢崎直があたふたとしているのが確認できて、怒っていないのが伝わったし、逆に沢崎直が少しでも慌てふためいたような言葉を発することが出来たら、頭を下げたままのメイドさんに沢崎直の沈黙の真意が伝わったのだろうが、現状、それは無理な相談だった。
メイドさんはちゃんと教育が行き届いているせいで、主人の顔色を窺おうとはしない。もしかしたらさっきの超絶イケメンに、何か言われてここに来ているのかもしれない。だとすれば、更に失礼を重ねるようなことは絶対にできないだろう。
このまま永遠に沈黙が続き、どちらかの自制心が完全にへし折れるまでの攻防になる万事休すの状態かと思われたが、意外なところから助け舟が出される。
ぐーっ。
不定期に存在を主張する沢崎直の腹の虫が、圧倒的な威力で硬直した状況を打開した。
「へ?」
思わず間抜けな声を出しちゃうメイドさん。根は素直な子なのだろう。
ぐーっ。きゅるるるるる。
立て続けに鳴き続ける腹の虫。
間抜けな声に続いて、思わず顔も上げちゃうメイドさん。
「……ごめんなさい。あの、違うんです。」
怒っていると思い込んでいた主人は、赤い顔で消え入りそうな声を上げた。
「び、びっくりして何を言っていいか分からなかったんです……。」
消え入りそうな主人の告白に、メイドさんは堪えきれず笑い出した。
穴があったら入りたいとはこういう状況だろう。
沢崎直は自分で制御できない腹の虫を苦々しく思いながらも、メイドさんの押してきたワゴンに視線を向けた。
(……だって、すごくいい匂いがするからぁ!)
室内に充満した美味しそうな食べ物の匂いの前で空腹を誤魔化すなど、沢崎直に出来るはずもなかった。
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