転生したらついてましたァァァァァ!!!

夢追子

文字の大きさ
上 下
18 / 187
第一部

第二章 理想の王子様、現る。(しかし、貴方も男)③『親友・亜佐美』

しおりを挟む
     三

 恋人に捨てられてから一週間。沢崎直は淡々と日々をこなし続けていた。
 決まった時間に目を覚まし、会社に行き、仕事を終えて家に帰る。
 泣きも喚きもせず、日常をこなすことで平静を保とうとしていた。
 沢崎直にとって一番ショックだったのは、恋人と別れたことではなく、誠実で真面目だったはずの男が人格すら変わってしまったようになり、平気で人を裏切れるようになってしまったことだった。もしも、自分との付き合いがあの男を変えてしまったのだとしたら、それは後悔してもしきれない。女子力というものが、それほどに重要性があり、それを沢崎直が追求しないことに原因があったのなら・・・・。
 気が付くと、そんなふうに自分を責めてしまいそうになり、慌てて日常の雑事で誤魔化す。そんな日々を一週間続けていた。
 週末になり、前々から決まっていた親友との飲み会の予定が入っていたので、沢崎直は日常の一環として出かけていくことにした。
 本当は心の底から先週末にあったことの顛末を全て洗いざらいぶちまけたかったが、相手に迷惑かな?とか、そもそもどうやって切り出したら?とか、結局余計なことばかり考えてしまって、楽しいはずの親友との予定に気鬱さすら感じてしまっていた。
 結局、何もなかったかのような顔でいつも通り待ち合わせ場所に向かう。
 そのまま涼しい顔でやり過ごそうとしていた居酒屋の座席で、アルコールが入った親友の亜佐美がスマホを取り出し話題を切り出してきた時、沢崎直は正直助かった気持ちになっていた。
「ねえ、直。この間、こんなの見つけたんだけど……。アンタの男、大丈夫?」
 亜佐美に見せられたのは、インスタの画面だった。複数の男女が、キャンプでバーベキューを楽しんでいるような場面が切り取られている。
 それを見て、沢崎直の意思は固まっていた。
 亜佐美は、これだけでは足りないと言わんばかりに画面をスクロールして次々に変化させていく。彼女の日課のSNSパトロールは時折役に立つ。
「この女、結構有名なあざと女子だよ。何か、ここ最近一緒に映ってる頻度が高すぎる気がするんだけど……。」
 次々に現れては消えていく情景は、キラキラと飾り立てられていて、酷く薄っぺらく沢崎直には感じた。
「……別れようって言われた。先週。」
「は?」
 突然の沢崎直の告白に、亜佐美のジョッキを持つ手が止まった。
 沢崎直はただ淡々と事実を報告するように続ける。
「最近忙しいって、デートもドタキャンされてたんだけど。久々に会ったら、別れようって。捨てられた。」
「ちょっ!アンタ、それ。何で早く言わないのよ!?」
 亜佐美がジョッキを置いて、真剣な瞳で沢崎直に向き合った。
 亜佐美の剣幕をありがたく思った沢崎直は、少しだけ申し訳なくなり言い訳じみた響きで答えた。
「だって……。亜佐美、仕事忙しいでしょ?最近。」
「バカ!」
 そう小気味よく響かせると、亜佐美は感情の発露のまま沢崎直のことを抱きしめた。
 亜佐美の温もりでようやく、凝り固まっていた沢崎直の心が少しずつほどけていく。
 虚勢を張っていないとやっていられなかった自分の弱さを、ようやく沢崎直は自覚した。
「何なのよ、あの男!あんなあざと女より、絶対直の方がいいに決まってるのに!!」
 自分のために怒ったり泣いたりしてくれる親友の存在は、沢崎直にいつも力をくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...