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第一部
第二章 理想の王子様、現る。(しかし、貴方も男)③『親友・亜佐美』
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三
恋人に捨てられてから一週間。沢崎直は淡々と日々をこなし続けていた。
決まった時間に目を覚まし、会社に行き、仕事を終えて家に帰る。
泣きも喚きもせず、日常をこなすことで平静を保とうとしていた。
沢崎直にとって一番ショックだったのは、恋人と別れたことではなく、誠実で真面目だったはずの男が人格すら変わってしまったようになり、平気で人を裏切れるようになってしまったことだった。もしも、自分との付き合いがあの男を変えてしまったのだとしたら、それは後悔してもしきれない。女子力というものが、それほどに重要性があり、それを沢崎直が追求しないことに原因があったのなら・・・・。
気が付くと、そんなふうに自分を責めてしまいそうになり、慌てて日常の雑事で誤魔化す。そんな日々を一週間続けていた。
週末になり、前々から決まっていた親友との飲み会の予定が入っていたので、沢崎直は日常の一環として出かけていくことにした。
本当は心の底から先週末にあったことの顛末を全て洗いざらいぶちまけたかったが、相手に迷惑かな?とか、そもそもどうやって切り出したら?とか、結局余計なことばかり考えてしまって、楽しいはずの親友との予定に気鬱さすら感じてしまっていた。
結局、何もなかったかのような顔でいつも通り待ち合わせ場所に向かう。
そのまま涼しい顔でやり過ごそうとしていた居酒屋の座席で、アルコールが入った親友の亜佐美がスマホを取り出し話題を切り出してきた時、沢崎直は正直助かった気持ちになっていた。
「ねえ、直。この間、こんなの見つけたんだけど……。アンタの男、大丈夫?」
亜佐美に見せられたのは、インスタの画面だった。複数の男女が、キャンプでバーベキューを楽しんでいるような場面が切り取られている。
それを見て、沢崎直の意思は固まっていた。
亜佐美は、これだけでは足りないと言わんばかりに画面をスクロールして次々に変化させていく。彼女の日課のSNSパトロールは時折役に立つ。
「この女、結構有名なあざと女子だよ。何か、ここ最近一緒に映ってる頻度が高すぎる気がするんだけど……。」
次々に現れては消えていく情景は、キラキラと飾り立てられていて、酷く薄っぺらく沢崎直には感じた。
「……別れようって言われた。先週。」
「は?」
突然の沢崎直の告白に、亜佐美のジョッキを持つ手が止まった。
沢崎直はただ淡々と事実を報告するように続ける。
「最近忙しいって、デートもドタキャンされてたんだけど。久々に会ったら、別れようって。捨てられた。」
「ちょっ!アンタ、それ。何で早く言わないのよ!?」
亜佐美がジョッキを置いて、真剣な瞳で沢崎直に向き合った。
亜佐美の剣幕をありがたく思った沢崎直は、少しだけ申し訳なくなり言い訳じみた響きで答えた。
「だって……。亜佐美、仕事忙しいでしょ?最近。」
「バカ!」
そう小気味よく響かせると、亜佐美は感情の発露のまま沢崎直のことを抱きしめた。
亜佐美の温もりでようやく、凝り固まっていた沢崎直の心が少しずつほどけていく。
虚勢を張っていないとやっていられなかった自分の弱さを、ようやく沢崎直は自覚した。
「何なのよ、あの男!あんなあざと女より、絶対直の方がいいに決まってるのに!!」
自分のために怒ったり泣いたりしてくれる親友の存在は、沢崎直にいつも力をくれた。
恋人に捨てられてから一週間。沢崎直は淡々と日々をこなし続けていた。
決まった時間に目を覚まし、会社に行き、仕事を終えて家に帰る。
泣きも喚きもせず、日常をこなすことで平静を保とうとしていた。
沢崎直にとって一番ショックだったのは、恋人と別れたことではなく、誠実で真面目だったはずの男が人格すら変わってしまったようになり、平気で人を裏切れるようになってしまったことだった。もしも、自分との付き合いがあの男を変えてしまったのだとしたら、それは後悔してもしきれない。女子力というものが、それほどに重要性があり、それを沢崎直が追求しないことに原因があったのなら・・・・。
気が付くと、そんなふうに自分を責めてしまいそうになり、慌てて日常の雑事で誤魔化す。そんな日々を一週間続けていた。
週末になり、前々から決まっていた親友との飲み会の予定が入っていたので、沢崎直は日常の一環として出かけていくことにした。
本当は心の底から先週末にあったことの顛末を全て洗いざらいぶちまけたかったが、相手に迷惑かな?とか、そもそもどうやって切り出したら?とか、結局余計なことばかり考えてしまって、楽しいはずの親友との予定に気鬱さすら感じてしまっていた。
結局、何もなかったかのような顔でいつも通り待ち合わせ場所に向かう。
そのまま涼しい顔でやり過ごそうとしていた居酒屋の座席で、アルコールが入った親友の亜佐美がスマホを取り出し話題を切り出してきた時、沢崎直は正直助かった気持ちになっていた。
「ねえ、直。この間、こんなの見つけたんだけど……。アンタの男、大丈夫?」
亜佐美に見せられたのは、インスタの画面だった。複数の男女が、キャンプでバーベキューを楽しんでいるような場面が切り取られている。
それを見て、沢崎直の意思は固まっていた。
亜佐美は、これだけでは足りないと言わんばかりに画面をスクロールして次々に変化させていく。彼女の日課のSNSパトロールは時折役に立つ。
「この女、結構有名なあざと女子だよ。何か、ここ最近一緒に映ってる頻度が高すぎる気がするんだけど……。」
次々に現れては消えていく情景は、キラキラと飾り立てられていて、酷く薄っぺらく沢崎直には感じた。
「……別れようって言われた。先週。」
「は?」
突然の沢崎直の告白に、亜佐美のジョッキを持つ手が止まった。
沢崎直はただ淡々と事実を報告するように続ける。
「最近忙しいって、デートもドタキャンされてたんだけど。久々に会ったら、別れようって。捨てられた。」
「ちょっ!アンタ、それ。何で早く言わないのよ!?」
亜佐美がジョッキを置いて、真剣な瞳で沢崎直に向き合った。
亜佐美の剣幕をありがたく思った沢崎直は、少しだけ申し訳なくなり言い訳じみた響きで答えた。
「だって……。亜佐美、仕事忙しいでしょ?最近。」
「バカ!」
そう小気味よく響かせると、亜佐美は感情の発露のまま沢崎直のことを抱きしめた。
亜佐美の温もりでようやく、凝り固まっていた沢崎直の心が少しずつほどけていく。
虚勢を張っていないとやっていられなかった自分の弱さを、ようやく沢崎直は自覚した。
「何なのよ、あの男!あんなあざと女より、絶対直の方がいいに決まってるのに!!」
自分のために怒ったり泣いたりしてくれる親友の存在は、沢崎直にいつも力をくれた。
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