3 / 187
第一部
第一章 とりあえず責任者よ出てこい!!!②『上と下』
しおりを挟む
二
「……やっぱり……。」
圧倒的な恐慌の後、何度も何度も確かめてみたが、彼女の結論は変わらない。
それ即ち『上は無いけど、下はある。』だ。
さっきまでは確かに逆だったはずだ。沢崎直として生を受けて二十五年。彼女についていたのは上で、下ではない。決して豊かとはいえない大きさのバストではあったが、ある程度の膨らみはあった。
だが、今はどうだろう?
触ってみても覗いてみても、ペッタペタの胸板は大胸筋の発達は感じるものの、女性のそれではない。
それに、こちらはまだ触っても覗いてもいないのだが、明らかな異物が両足の間にぶら下がっている気がしてならない。
他にも、先程から彼女が発する独り言が全てイケボで再生されるのは何故なのだろう?
二十五年間慣れ親しんできた特別高くも低くもないが、意思疎通には困らない程度に響く彼女のいつもの声が聞こえてくることはない。代わりに聞こえてくるのは、この声一つでもしかしたらハーレムすら築けそうな気がする男性の甘い声だ。
「どういうこと?」
何度目になるか分からない疑問を虚空に投げても答えが返ってくることはない。
虚空に響くのはイケボなので耳は嬉しいが、問題は解決しない。
何度水面を覗き込んでも、映るのは涼やかな美貌の男性でしかない。
こちらも目は嬉しいが、やはり何の問題解決にもならない。
ため息を一つ吐くと、沢崎直は立ち上がった。
どうせここにいたって、何もならない。
そう結論付けて歩き出す。
目を覚ました直後よりも、身体は動くようになっていた。立って歩く分には何の問題もなさそうだ。それどころか、以前よりも動かしやすい身体になっている。しっかりと鍛えられていて筋肉が程よくついた身体は、俊敏さと力強さを兼ね備え、その上頑丈そうだ。
立ち上がると、以前よりも視界が高くなっている気がするのもこの身体のせいなのだろう。
「顔良し、スタイル良し、声良しって、人生楽勝モードじゃない?チートか!?」
平凡代表として、当然の意見を口にしてから、彼女は歩き出す。
洞窟内には微かな風が吹き込んでおり、その風を頼りにして目的地に当たりを付ける。
壁に手を当て、風の吹きこんで来る方向に歩き続けると、薄闇の向こうに確かな光が見え始めた。
「今度は泉じゃなくて、出口がいいんだけど……。」
光は段々と強くなり、白い光が彼女を包み始める。
その強い白い光は、彼女の人生最期の記憶を呼び起こすには十分だったが、それでも彼女は足を止めずに果敢に歩き続けた。
そして、視界が開ける。
光に目を慣らすため、まずは目を閉じる。
その後、ゆっくりと目を開けた彼女の視界に広がったのは……。
……森だった。
鬱蒼と茂った森だった。
どうやら彼女が先程までいたのは、森の中にある洞窟の中であったらしい。
あまりにも森過ぎて大した情報も得られないため、状況が好転したとは言い難いが、彼女は落ち込むことはなかった。
人生なんて所詮こんなものだ。
そう易々と問題が解決することなんてない。それどころか問題が問題を連れてやって来ることだってザラだ。
ため息一つで気分を切り替えると、周囲を観察する。
「……どっちに進んだらいいかな?」
独り言はもちろんイケボ。まだ慣れない響きに、違和感は付きまとう。
周囲に人影はなく、道を示す案内板などの類ももちろんない。それどころか舗装された道はおろか、けもの道の形跡すらない。
どうしたもんかと悩み始める。闇雲に森を歩くなど、あまり上策とは言えない。できれば人のいる場所にたどり着きたいのだが……。
その時、森に響き渡ったのは女性の耳を劈くような悲鳴だった。
その悲鳴を聞いて沢崎直は思った。
どうやらここは天国ではないらしい。
自分の身に危険が迫っているようだった。
「……やっぱり……。」
圧倒的な恐慌の後、何度も何度も確かめてみたが、彼女の結論は変わらない。
それ即ち『上は無いけど、下はある。』だ。
さっきまでは確かに逆だったはずだ。沢崎直として生を受けて二十五年。彼女についていたのは上で、下ではない。決して豊かとはいえない大きさのバストではあったが、ある程度の膨らみはあった。
だが、今はどうだろう?
触ってみても覗いてみても、ペッタペタの胸板は大胸筋の発達は感じるものの、女性のそれではない。
それに、こちらはまだ触っても覗いてもいないのだが、明らかな異物が両足の間にぶら下がっている気がしてならない。
他にも、先程から彼女が発する独り言が全てイケボで再生されるのは何故なのだろう?
二十五年間慣れ親しんできた特別高くも低くもないが、意思疎通には困らない程度に響く彼女のいつもの声が聞こえてくることはない。代わりに聞こえてくるのは、この声一つでもしかしたらハーレムすら築けそうな気がする男性の甘い声だ。
「どういうこと?」
何度目になるか分からない疑問を虚空に投げても答えが返ってくることはない。
虚空に響くのはイケボなので耳は嬉しいが、問題は解決しない。
何度水面を覗き込んでも、映るのは涼やかな美貌の男性でしかない。
こちらも目は嬉しいが、やはり何の問題解決にもならない。
ため息を一つ吐くと、沢崎直は立ち上がった。
どうせここにいたって、何もならない。
そう結論付けて歩き出す。
目を覚ました直後よりも、身体は動くようになっていた。立って歩く分には何の問題もなさそうだ。それどころか、以前よりも動かしやすい身体になっている。しっかりと鍛えられていて筋肉が程よくついた身体は、俊敏さと力強さを兼ね備え、その上頑丈そうだ。
立ち上がると、以前よりも視界が高くなっている気がするのもこの身体のせいなのだろう。
「顔良し、スタイル良し、声良しって、人生楽勝モードじゃない?チートか!?」
平凡代表として、当然の意見を口にしてから、彼女は歩き出す。
洞窟内には微かな風が吹き込んでおり、その風を頼りにして目的地に当たりを付ける。
壁に手を当て、風の吹きこんで来る方向に歩き続けると、薄闇の向こうに確かな光が見え始めた。
「今度は泉じゃなくて、出口がいいんだけど……。」
光は段々と強くなり、白い光が彼女を包み始める。
その強い白い光は、彼女の人生最期の記憶を呼び起こすには十分だったが、それでも彼女は足を止めずに果敢に歩き続けた。
そして、視界が開ける。
光に目を慣らすため、まずは目を閉じる。
その後、ゆっくりと目を開けた彼女の視界に広がったのは……。
……森だった。
鬱蒼と茂った森だった。
どうやら彼女が先程までいたのは、森の中にある洞窟の中であったらしい。
あまりにも森過ぎて大した情報も得られないため、状況が好転したとは言い難いが、彼女は落ち込むことはなかった。
人生なんて所詮こんなものだ。
そう易々と問題が解決することなんてない。それどころか問題が問題を連れてやって来ることだってザラだ。
ため息一つで気分を切り替えると、周囲を観察する。
「……どっちに進んだらいいかな?」
独り言はもちろんイケボ。まだ慣れない響きに、違和感は付きまとう。
周囲に人影はなく、道を示す案内板などの類ももちろんない。それどころか舗装された道はおろか、けもの道の形跡すらない。
どうしたもんかと悩み始める。闇雲に森を歩くなど、あまり上策とは言えない。できれば人のいる場所にたどり着きたいのだが……。
その時、森に響き渡ったのは女性の耳を劈くような悲鳴だった。
その悲鳴を聞いて沢崎直は思った。
どうやらここは天国ではないらしい。
自分の身に危険が迫っているようだった。
33
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語
京衛武百十
ファンタジー
<メイトギア>と呼ばれる人型ホームヘルパーロボット<タリアP55SI>は、旧式化したことでオーナーが最新の後継機に買い換えたため、データのすべてを新しい機体に引継ぎ、役目を終え、再資源化を迎えるだけになっていた。
なのに、彼女が次に起動した時にいたのは、まったく記憶にない中世ヨーロッパを思わせる世界だった。
要人警護にも使われるタリアP55SIは、その世界において、ありとあらゆるものを凌駕するスーパーパワーの持ち主。<魔法>と呼ばれる超常の力さえ、それが発動する前に動けて、生物には非常に強力な影響を与えるスタンすらロボットであるがゆえに効果がなく、彼女の前にはただ面倒臭いだけの大道芸に過ぎなかった。
<ロボット>というものを知らないその世界の人々は彼女を<救世主>を崇め、自分達を脅かす<魔物の王>の討伐を願うのであった。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
独自ダンジョン攻略
sasina
ファンタジー
世界中に突如、ダンジョンと呼ばれる地下空間が現れた。
佐々木 光輝はダンジョンとは知らずに入ってしまった洞窟で、木の宝箱を見つける。
その宝箱には、スクロールが一つ入っていて、スキル【鑑定Ⅰ】を手に入れ、この洞窟がダンジョンだと知るが、誰にも教えず独自の考えで個人ダンジョンにして一人ダンジョン攻略に始める。
なろうにも掲載中
チート狩り
京谷 榊
ファンタジー
世界、宇宙そのほとんどが解明されていないこの世の中で。魔術、魔法、特殊能力、人外種族、異世界その全てが詰まった広大な宇宙に、ある信念を持った謎だらけの主人公が仲間を連れて行き着く先とは…。
それは、この宇宙にある全ての謎が解き明かされるアドベンチャー物語。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる