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第六幕 九 「手袋を換えて下さい」
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九
「先生、ごめんなさい。」
涙の名残を瞳にとどめながら、リンはしゃくりあげている。
ヒョウに抱き上げられたまま客室に戻り、そのままベッドに座らされたリン。ヒョウは杏子が運んできた救急箱を使い、素早く手馴れた仕草でリンの膝の傷の処置を終えていた。
リンの膝の前で床に膝を着いてしゃがみこんでいるヒョウ。
「もういいのです。」
謝罪の言葉を繰り返すリンに、ヒョウは優しく微笑みかける。リンを見上げるようにしている。
だが、これ以上ないというくらいに落ち込んでいるリンは、ヒョウの言葉も耳に入らないようだった。視線を伏せ、ヒョウの顔すら見ていない。
「先生。」
「リン。」
今度は窘めるようにヒョウの声が響く。
びくっと全身を震わせるリン。
「手袋を換えて下さい。」
身構えていたリンの前に、ヒョウの黒い手袋に包まれた手が差し出される。
リンは俯きながら、小さく肯定を響かせた。
ヒョウからの命令を実行しようとして立ち上がろうとするリン。
しかし、それを制止するように、ヒョウの手が上げられる。
「先生?」
ヒョウの行動にリンは首を傾げた。
ヒョウとリンの視線がぶつかる。
ヒョウは優雅に微笑むと立ち上がり、小さなトランクを持ってリンの横に腰掛けた。
「お願いします。」
リンは素直に肯定を響かせると、小さなトランクを開いた。
開いたトランク。そこには異様な光景が広がっていた。
整然と詰められた何十組という黒い手袋。どこにそんな需要があるのかという程の数。一年を通したところで、そんなに使うことはないだろう。その上、全てが黒い布で出来ている。トランクの中は、黒い布を詰め込んだと言ってもいいほどだった。
中から一組の手袋を取り出し、リンはまず手袋を自分の膝の上に乗せる。
そして、ヒョウの手から、現在装着されている手袋を剥ぎ取った。
黒い手袋の中からは、白磁のように透き通ったヒョウの白い手が現れる。長く細い指は、ヒョウの肢体のイメージそのままだ。
剥ぎ取った手袋をベッドの上に放り投げ、リンは膝の上に置いた新しい手袋を手に取る。
だが、新しい手袋を装着するはずの手は、いつの間にかリンの視界から消えていた。
「先生?」
ヒョウの手は、リンの髪を撫でていた。
リンは、ヒョウの行動の意味を尋ねるように、ヒョウの顔を見上げる。
「ほら、こうして私は貴方に触れられます。」
リンの瞳に、じわっと涙が広がっていく。
「大丈夫ですよ。このようなことで、貴方の価値が損なわれることはありません。」
「先生、大好き。」
飛びつくようにヒョウに抱きつくリン。
手袋を取ったヒョウの白い手は、リンをずっと撫でていた。
「さあ、リン。元気が出たのならば、ケーキでも食べましょうか?」
元気よく響くリンの鈴は客室の中に響き渡った。
時刻は午前三時。
昨日のお茶会と同じ時刻。
玄関や広間には、本日の作戦会議出席者が一人また一人と集い始めていた。それぞれに新しく掴んだ新情報を持ち合い、相手の持ってくる新情報に期待して・・・。
上手と下手、それぞれより再登場する登場人物。
用意されたスポットライトに照らし出されるのは、
事件の側面なのか?
それとも、悲劇の断面なのか?
BGMとして流れている蝉の声も、
照りつける太陽という演出も、
何もかもがまだ、ばらばらのピースでしかない。
全てを繋ぎ合わせるのは、
果たして誰の役目なのだろう?
さあ、会議が始まる。
さあ、仲間達が集う。
さあ、事件が動く。
さあ、
「先生、ごめんなさい。」
涙の名残を瞳にとどめながら、リンはしゃくりあげている。
ヒョウに抱き上げられたまま客室に戻り、そのままベッドに座らされたリン。ヒョウは杏子が運んできた救急箱を使い、素早く手馴れた仕草でリンの膝の傷の処置を終えていた。
リンの膝の前で床に膝を着いてしゃがみこんでいるヒョウ。
「もういいのです。」
謝罪の言葉を繰り返すリンに、ヒョウは優しく微笑みかける。リンを見上げるようにしている。
だが、これ以上ないというくらいに落ち込んでいるリンは、ヒョウの言葉も耳に入らないようだった。視線を伏せ、ヒョウの顔すら見ていない。
「先生。」
「リン。」
今度は窘めるようにヒョウの声が響く。
びくっと全身を震わせるリン。
「手袋を換えて下さい。」
身構えていたリンの前に、ヒョウの黒い手袋に包まれた手が差し出される。
リンは俯きながら、小さく肯定を響かせた。
ヒョウからの命令を実行しようとして立ち上がろうとするリン。
しかし、それを制止するように、ヒョウの手が上げられる。
「先生?」
ヒョウの行動にリンは首を傾げた。
ヒョウとリンの視線がぶつかる。
ヒョウは優雅に微笑むと立ち上がり、小さなトランクを持ってリンの横に腰掛けた。
「お願いします。」
リンは素直に肯定を響かせると、小さなトランクを開いた。
開いたトランク。そこには異様な光景が広がっていた。
整然と詰められた何十組という黒い手袋。どこにそんな需要があるのかという程の数。一年を通したところで、そんなに使うことはないだろう。その上、全てが黒い布で出来ている。トランクの中は、黒い布を詰め込んだと言ってもいいほどだった。
中から一組の手袋を取り出し、リンはまず手袋を自分の膝の上に乗せる。
そして、ヒョウの手から、現在装着されている手袋を剥ぎ取った。
黒い手袋の中からは、白磁のように透き通ったヒョウの白い手が現れる。長く細い指は、ヒョウの肢体のイメージそのままだ。
剥ぎ取った手袋をベッドの上に放り投げ、リンは膝の上に置いた新しい手袋を手に取る。
だが、新しい手袋を装着するはずの手は、いつの間にかリンの視界から消えていた。
「先生?」
ヒョウの手は、リンの髪を撫でていた。
リンは、ヒョウの行動の意味を尋ねるように、ヒョウの顔を見上げる。
「ほら、こうして私は貴方に触れられます。」
リンの瞳に、じわっと涙が広がっていく。
「大丈夫ですよ。このようなことで、貴方の価値が損なわれることはありません。」
「先生、大好き。」
飛びつくようにヒョウに抱きつくリン。
手袋を取ったヒョウの白い手は、リンをずっと撫でていた。
「さあ、リン。元気が出たのならば、ケーキでも食べましょうか?」
元気よく響くリンの鈴は客室の中に響き渡った。
時刻は午前三時。
昨日のお茶会と同じ時刻。
玄関や広間には、本日の作戦会議出席者が一人また一人と集い始めていた。それぞれに新しく掴んだ新情報を持ち合い、相手の持ってくる新情報に期待して・・・。
上手と下手、それぞれより再登場する登場人物。
用意されたスポットライトに照らし出されるのは、
事件の側面なのか?
それとも、悲劇の断面なのか?
BGMとして流れている蝉の声も、
照りつける太陽という演出も、
何もかもがまだ、ばらばらのピースでしかない。
全てを繋ぎ合わせるのは、
果たして誰の役目なのだろう?
さあ、会議が始まる。
さあ、仲間達が集う。
さあ、事件が動く。
さあ、
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