15 / 82
第三幕 二 「この事件に旨い結末をつけるためにお前達を呼んだのだ」
しおりを挟む
二
「そんなモノ、一介の探偵の手に負えるものでもないでしょう?」
驚きの後、やっと落ち着きを取り戻し始めた室内で、一人の探偵が呆れたたような声を出した。
それは、精一杯虚勢を張っているような榊原だった。
「事件の早期解決だって?警察が組織力をもってしても捕まえられない殺人鬼を、どうやって探し出すっていうんです?」
努めて冷静に、榊原は続ける。あまりにとんでもない事態に、口元に張り付いているのは皮肉げな笑みだけだ。
「探偵というのは少数精鋭なんですよ。組織力を駆使しても痕跡の見つからないモノを、どうやって探すんですか?警察による情報統制のおかげで、情報一つ集まらないっていうのに。」
榊原の口から溢れるのは正論だった。
琉衣も霧崎も、榊原に加勢するべく頷いている。
だが、探偵達の反論にも一行に孝造は耳を貸そうとしなかった。
「分かっておる。だから、お前達に頼んだのだ。この事件、警察の情報統制のおかげで、一行に解決せん。犯人を断定したというのに、発表すらままならん。敷地内で秘書が死んだだけでも評判が悪いというのに、その上事件が解決せんことにはつまらぬ噂が広がるばかりだ。そこで、この事件に旨い結末をつけるためにお前達を呼んだのだ。」
「結末?」
孝造の予期せぬ言葉に、探偵達の顔が曇り始める。
しかし、孝造はそれに構うことなく続けた。
「そうだ。説得力のある情報や証拠を集めて、事件を解決してくれ。一番はその殺人鬼を捕まえることだが、それは難しいだろう?だったら、別の可能性を探れということだ。」
「実力もあり宣伝力のある探偵の言葉ならば、その結末に箔も付くということですね?」
今まで一言も発していなかったヒョウが微笑みを孝造に向けていた。
孝造に向けられていた不信感のこもった視線が、一斉にヒョウに向けられる。
ヒョウは大袈裟に肩を竦めて見せた。
「孝造氏はお困りのようですから、人助けの好きな皆さんにはうってつけの依頼ではないですか?」
涼しげな声音は微笑みとともに探偵達に届く。
榊原はヒョウを睥睨して鼻で笑った。
「アンタにこそ向いてるんじゃないか?」
「それはどうも。」
軽く受け流すヒョウ。
二人の口論はそれ以上続かなかった。
二人の口論が終了すると、それまで渋い顔で黙っていた霧崎が唸り始める。
「うーん、しかしですね。それは、神聖な真実を穢すことになります。」
理想主義の霧崎らしい発言が、面と向かって孝造に投げかけられる。
孝造は迎え撃つように威圧するように霧崎を睨みつけた。
「どういう意味だ?」
「死の押し売り師の逮捕。それは、警察や探偵の悲願ですから、俺も警部も努力はします。それに、この事件に別の可能性があるのなら、俺はそれを見逃すつもりもありません。だが、孝造さん、貴方の言い方では、どうも無理矢理事件を解決させろと聞こえるんですよ。こじつけでも何でもいいからと。」
真っ直ぐに見つめる霧崎の瞳には、高潔な理想が輝いている。
だが、そんな高潔な理想の輝きに、孝造は軽く鼻を鳴らすだけだった。
「くだらん。」
素っ気なく呟くと、霧崎から視線を外し、ため息を吐き出す。
「お前のキレイ事などどうでもいいが、事件を解決してくれるなら何でもいい。初めに言ったと思うが、今回の依頼は成功報酬だ。あとはお前らの好きにしろ。」
孝造はこれで議論は終わりだというように、椅子から立ち上がる。
「おい、水島。」
一方的に強制的に議論を終らせ、秘書を呼びつける孝造。
秘書の水島は文句一つなく、孝造の命令に従う。
「はい。」
まだ納得のいかない探偵たちを尻目に退室する孝造。
水島は、孝造を見送った後、探偵達に振り返った。
「では、皆様。私共は、この後予定がありますので失礼致します。屋敷の者には伝えておきますので、敷地内の調査や情報収集などはご自由になさって構いません。尚、何か分かりましたら、私共は夕食には帰って参りますので、その時に報告なさってください。」
一礼して足早に立ち去っていく水島。
一切の隙も見せない男の背中には、誰も声一つ掛けられなかった。
広い室内に残されたのは、七人。
警察と探偵。
置き去りにされたような者達は、閉められた扉をしばらく万感の思いで見つめていた。
「そんなモノ、一介の探偵の手に負えるものでもないでしょう?」
驚きの後、やっと落ち着きを取り戻し始めた室内で、一人の探偵が呆れたたような声を出した。
それは、精一杯虚勢を張っているような榊原だった。
「事件の早期解決だって?警察が組織力をもってしても捕まえられない殺人鬼を、どうやって探し出すっていうんです?」
努めて冷静に、榊原は続ける。あまりにとんでもない事態に、口元に張り付いているのは皮肉げな笑みだけだ。
「探偵というのは少数精鋭なんですよ。組織力を駆使しても痕跡の見つからないモノを、どうやって探すんですか?警察による情報統制のおかげで、情報一つ集まらないっていうのに。」
榊原の口から溢れるのは正論だった。
琉衣も霧崎も、榊原に加勢するべく頷いている。
だが、探偵達の反論にも一行に孝造は耳を貸そうとしなかった。
「分かっておる。だから、お前達に頼んだのだ。この事件、警察の情報統制のおかげで、一行に解決せん。犯人を断定したというのに、発表すらままならん。敷地内で秘書が死んだだけでも評判が悪いというのに、その上事件が解決せんことにはつまらぬ噂が広がるばかりだ。そこで、この事件に旨い結末をつけるためにお前達を呼んだのだ。」
「結末?」
孝造の予期せぬ言葉に、探偵達の顔が曇り始める。
しかし、孝造はそれに構うことなく続けた。
「そうだ。説得力のある情報や証拠を集めて、事件を解決してくれ。一番はその殺人鬼を捕まえることだが、それは難しいだろう?だったら、別の可能性を探れということだ。」
「実力もあり宣伝力のある探偵の言葉ならば、その結末に箔も付くということですね?」
今まで一言も発していなかったヒョウが微笑みを孝造に向けていた。
孝造に向けられていた不信感のこもった視線が、一斉にヒョウに向けられる。
ヒョウは大袈裟に肩を竦めて見せた。
「孝造氏はお困りのようですから、人助けの好きな皆さんにはうってつけの依頼ではないですか?」
涼しげな声音は微笑みとともに探偵達に届く。
榊原はヒョウを睥睨して鼻で笑った。
「アンタにこそ向いてるんじゃないか?」
「それはどうも。」
軽く受け流すヒョウ。
二人の口論はそれ以上続かなかった。
二人の口論が終了すると、それまで渋い顔で黙っていた霧崎が唸り始める。
「うーん、しかしですね。それは、神聖な真実を穢すことになります。」
理想主義の霧崎らしい発言が、面と向かって孝造に投げかけられる。
孝造は迎え撃つように威圧するように霧崎を睨みつけた。
「どういう意味だ?」
「死の押し売り師の逮捕。それは、警察や探偵の悲願ですから、俺も警部も努力はします。それに、この事件に別の可能性があるのなら、俺はそれを見逃すつもりもありません。だが、孝造さん、貴方の言い方では、どうも無理矢理事件を解決させろと聞こえるんですよ。こじつけでも何でもいいからと。」
真っ直ぐに見つめる霧崎の瞳には、高潔な理想が輝いている。
だが、そんな高潔な理想の輝きに、孝造は軽く鼻を鳴らすだけだった。
「くだらん。」
素っ気なく呟くと、霧崎から視線を外し、ため息を吐き出す。
「お前のキレイ事などどうでもいいが、事件を解決してくれるなら何でもいい。初めに言ったと思うが、今回の依頼は成功報酬だ。あとはお前らの好きにしろ。」
孝造はこれで議論は終わりだというように、椅子から立ち上がる。
「おい、水島。」
一方的に強制的に議論を終らせ、秘書を呼びつける孝造。
秘書の水島は文句一つなく、孝造の命令に従う。
「はい。」
まだ納得のいかない探偵たちを尻目に退室する孝造。
水島は、孝造を見送った後、探偵達に振り返った。
「では、皆様。私共は、この後予定がありますので失礼致します。屋敷の者には伝えておきますので、敷地内の調査や情報収集などはご自由になさって構いません。尚、何か分かりましたら、私共は夕食には帰って参りますので、その時に報告なさってください。」
一礼して足早に立ち去っていく水島。
一切の隙も見せない男の背中には、誰も声一つ掛けられなかった。
広い室内に残されたのは、七人。
警察と探偵。
置き去りにされたような者達は、閉められた扉をしばらく万感の思いで見つめていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
悪役令嬢が死んだ後
ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。
被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢
男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。
公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。
殺害理由はなんなのか?
視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は?
*一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。
【完結】闇堕ちメモリアル
月狂 紫乃/月狂 四郎
ミステリー
とある事件を機にホスト稼業から足を洗った織田童夢は、それまでの生き方を反省して慈善事業に勤しむこととなった。
だが現実は甘くなく、副業をしないと食っていけなくなった。不本意ながらも派遣でコールセンターへ勤務しはじめた童夢は、同僚の美女たちと出会って浮かれていた。
そんな折、中年男性の同僚たちが行方不明になりはじめる。そのうちの一人が無残な他殺体で発見される。
犯人は一体どこに。そして、この裏に潜む本当の目的とは……?
月狂四郎が送るヤンデレミステリー。君はこの「ゲーム」に隠された意図を見破れるか。
※表紙はAIにて作成しました。
※全体で12万字ほど。可能であればブクマやコンテストの投票もお願いいたします。
参考文献
『ホス狂い ~歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る~』宇都宮直子(小学館)
暁に散る前に
はじめアキラ
キャラ文芸
厳しい試験を突破して、帝とその妃たちに仕える女官の座を手にした没落貴族の娘、映。
女官になれば、帝に見初められて妃になり、女ながらに絶大な権力を手にすることができる。自らの家である宋家の汚名返上にも繋がるはず。映は映子という名を与えられ、後宮での生活に胸を躍らせていた。
ところがいざ始まってみれば、最も美しく最もワガママな第一妃、蓮花付きの女官に任命されてしまい、毎日その自由奔放すぎる振る舞いに振り回される日々。
絶対こんな人と仲良くなれっこない!と思っていた映子だったが、やがて彼女が思いがけない優しい一面に気づくようになり、舞の舞台をきっかけに少しずつ距離を縮めていくことになる。
やがて、第一妃とされていた蓮花の正体が実は男性であるという秘密を知ってしまい……。
女官と女装の妃。二人は禁断の恋に落ちていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる