ダンジョン世界で俺は無双出来ない。いや、無双しない

紫紺

紅葉とシングルナイトが斬り結ぶ。
鹿島が遠隔斬撃を仕掛けるがシングルナイトの鎧にはかすり傷１つ付けられない。

真はなるべくシングルナイトの視界を奪うためアイテムボックスから小石を取り出して全力で顔目掛けて投げる。
何度か顔に当たるが効果的なものは無かった。

(クソッ！アイテムで能力をブーストしてもまだまだSランクモンスターには遠く及ばないか！！）

今真がシングルナイトに唯一通用する武器は《紫紺の短剣》しかなかった。
素の状態でもかすり傷は付けられた為魔力を纏わせれば斬り裂く事は容易だった。
しかし真の身体能力はここに来るまでレベルも上がりBランク下位にまで達している。
だがSランク相手には役不足だという事を痛感していた。

「うらぁぁぁ！！！」

また紅葉がシングルナイトに斬りかかる。
Sランクである紅葉の一撃には真とは比較にならない魔力と純然たる力が込められている。
シングルナイトはその体の性質的にカウンターが得意なモンスターだった。
圧倒的な鎧で防御に手に持つ剣で一刀両断。
強者だからこそ出来る戦法だがSランクハンターの紅葉を前にしては鎧で一撃貰ってから反撃する甘えた戦い方はせずに即座に反撃するしかなかった。

鹿島も遠隔斬撃を顔メインに狙いを定め攻撃をする。

正面からは紅葉の自身を絶命させる事が可能が一撃、紅葉とシングルナイトの外からは鹿島のひたすら集中力を削ぐ遠隔斬撃、そして鹿島が真の代わりに遠隔斬撃で視界の妨害にシフトすると真は《紫紺の短剣》に全力の魔力を纏わせて暗殺メインの戦いに変える。

暗殺といっても紅葉の攻め、鹿島の妨害の最中に背後から首を狙って攻撃するだけの単純な動作だったが紅葉に集中力の大部分を割いているシングルナイトにはかなり効果的だった。

「ふっ！」

鹿島の攻撃で視界が遮られ挙動が一瞬遅れた所を紅葉の攻撃がシングルナイトを捉える。
鎧に当たった瞬間に体を回転させて剣をいなし傷を最小限に抑える。

「おいおいクソがぁ……バケモンかよ………」

あまりにも出鱈目な動きに思わず顔が引きつる。
紅葉にも余裕が無くなり少しずつ言葉に女性らしさが消えて元々荒かった言葉遣いが更に荒々しくなる。

群れるからこそSランクに認定されたクラスターデーモンとは違いシングルナイトはたった一体でSランク認定されている本物のバケモン。
早く決着を付けないとただでさえ最初から全力な紅葉の体力が持たない。
だからこそ押し切る為に全員がより力を入れて剣を振る。

「はぁぁぁぁ！！！」

「おらぁぁ！！」

「っっっっ！！！！！」

少しずつ紅葉の剣がシングルナイトの体を捉える回数が増える。

（後少し……後すこし！！！！）

剣が剣と交わりより一層攻防が激しくなる。

「っ！！」

「ルァァア！！」

紅葉が押され始めると鹿島が遠隔斬撃での攻撃回数を増やしてただでさえ激しい動きで集中力がいる戦闘をするシングルナイトの視界を邪魔する。

苛々していたのは鹿島の遠隔斬撃を手で弾いて剣を破壊する。
また隙が出来る。
そんな小さな隙を紅葉が逃すはずもなく。その鎧に剣を振り下ろす。
紅葉のそんな攻撃にもギリギリ反応する。

「な？！」

しかし極限の戦いだからこそ忘れて両者は忘れていた。
途中から暗殺に徹していた者がいた事を

「ふっっ！！」

あえてその手に納められている短剣で斬らず
シングルナイトの背中を真はあわよくば殺すつもりで蹴りぬく。

「グルァ？！ーーー」

意識外からの無防備だった背中への攻撃はシングルナイトの体を完全に崩す。

「貰ったあぁぁぁぁあぁ！！！！」

ドゴンッッッッッッッッッ！！！！

全身全霊の一撃がシングルナイトに叩き込まれる。
膝が折れて仰向けに地面に倒れる。
鹿島、紅葉、真が肩で息をする。
3人が今自分達が協力して倒したSランクモンスターの死体を見る。
左の肩から右の脇腹に掛けて鎧が陥没、全身大小様々な傷だらけだった。

あまりの疲労に真の膝が笑い崩れ落ちる。
鹿島が真を支えて立ち上がらせ芥と同じ神殿の隅に連れて行き休んで行くよう伝える。

「俺も……戦いますよ」

「駄目だ休んでいろ！俺や紅葉さんも肩で息してるくらい疲労してるんだ！芥はどうやら自分で回復したあと力尽きて寝てしまったようだがお前もそうしておけ」

「………分かりました。起きた時はまた同じ病室の事を祈ります」

「あぁお前は寝ていろ」

「鹿島さん、次はあのイケメンの兄ちゃんの所だ」

少しふらつきながら離れた位置で最上級のモンスターを嬉々として殺しているゴレマスの加勢に向かう。
真はその後ろ姿を見て体の力を抜く

（疲れた……絶対高額の報酬を駄々こねてでもねだって響の脚の治療に回してやる）





ガチャ……

落ち掛けていた意識が急速に覚醒する。

「はっ？、え、は？」

頭が混乱している。
何故なら今紅葉が殺したはずのシングルナイトが地面に手をつき立ち上がろうとしていたからだ。

（なんでなんでなんでなんーーーーまさか？！）

ふとこの世界の当たり前の事実を思い出す。

モ・ン・ス・タ・ー・は・殺・す・と・影・が・抜・け・落・ち・体・が・消・え・る・

（そう言えば影が抜けていなかった！なんで気付かなかった！！）

「こうーーーー」

真が紅葉の名前を叫ぼうとした時シングルナイトが飛び跳ね真との間にあった距離を詰め口を掴む。

「グ、ルルァァァ……」

「ぐ、うぅぅぅぅ！！！！」

声を出した事で紅葉達が異変に気付く。

「真君？！」

「荒鐘ぇ！」

助けようと剣を握るがシングルナイトが真の口を掴み持ち上げている手に力を入れる

「あぁぁあ！！！！」

「真君！！！」

紅葉の悲鳴が上がる。
真も鹿島も紅葉も死ぬ事を確信していた。
しかし




「手を……出すなぁあぁあぁぁあ！！」

赤・黒・い・ゲートが開き見知らぬ男が出てきて手に持った短剣で腕を斬り落とし、瞬時に2本目の短剣で首を跳ねる。

「「「…………は？」」」

「荒鐘真……デルガ様から貴方を守るよう承った」

俺達に背を向けると最初から全力の魔力を身に纏って歩きだす。

「その短剣を持つならもっと強くなれ」

紫紺の鎧を身に纏う騎士

神殿に現れた