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被害者相談室

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今…僕の執務室には、難しい顔をしたディランとネロがいる。

婚約者と一緒の生活を始めて一週間。
ジアからの課題を頑張ってこなしているらしいが…話があると言われて、三人で会う時間を作った次第だ。

「アリステア…どうしていいかわからない」

「……俺も、です」

「何がだ?」

ディランとネロが、深刻そう顔で訴えてきた。

「いや、その…嬉しいは嬉しいんだけど…」

「お、俺もです…」

「さっきから情報がゼロなんだが?」

主語と述語以前に説明をしろ。
結果すら話さないで、謎の感想ばかりだな。

「…えーと……アリステア様は、ジア嬢から積極的に…その、こ、行動された事は…?」

「は?いつもされるが?」

「……うわぁ…これだからアリステアは…」

「っ!い、いつも…!?」

………何なんだ、こいつらは。

ディランには『参考にならねぇ…』という空気出され、ネロには大袈裟に驚かれた。

「何だ?婚約者の積極性が増してタジタジになっているのか?」

この漠然とした空気が面倒くさくなり、適当に可能性がありそうな事を言ってみる。

「う…さすが、アリステア…」

「っ…鋭い…」

「いや、わかるだろ。さすがと言われる事は言っていないぞ」

馬鹿か…。
人の事は言えないが、二人とも婚約者関係だと凄く分かりやすくなるな。

「アリステア様は、何でそんなに平然としていられるんですか…?」

「別にそんな平然としているつもりはないが…十二歳の頃からそうだからな」

「っ!?じゅっ、十二歳っ!?」

「だよねぇ…私も初めて聞いた時は驚いたよ」

ネロの声が裏返り、ディランが遠い目をしている。
ふっ、甘いな…お前たちが思っているよりずっとジアは強烈だぞ…。

「……で、お前たちは、積極的になってくれたのは嬉しい限りだが、婚約者への対応に困っていると?」

「そうなんだよ…押され気味で、ね」

「…何だか『そういうスイッチ』が入ると凄くって…」

「ふーん…」

確かにディランはヘタレだし、ネロは初心だからな。

というか…ネロはクラウディア嬢のーーー身内のそういう話は平気なんだな。

だけど、へえ…?
ジアの課題はかなり効果が出ているらしい。

「関係が順調なら、別に良いんじゃないか?」

「出た…アリステアの合理的意見…」

「俺、そんな鋼のメンタルじゃないんですが…」

「……………………」

そんなんだから押されてるんじゃないか…?
もう言っても意味がないから言わないが。

「ちなみに、アリステアはジア嬢にどう対応しているんだ?」

「普通にさせたい様にさせているし、したい事はしている」

「え…惚気…?」

「凄い何ともない様に言われた…」

「お前らホント失礼だな」

ジアは、僕から何をされても喜んで、何でもご褒美と認識してしまうからね。
アホ可愛いうえに、僕の事が好き過ぎるんだよな。
もちろん、僕もジア以上に好きなつもりだけど。

「はぁ…具体的に何されてるんだよ?」

「え…クララに、押し倒されたり…」

「あ、姉上…すご…」

いや、身内の話を聞いて平然としているネロもな。

「別に好きならあたふたしても良いんじゃないか?」

「えええ……アリステアはどうしてるの?」

「は?ほぼ毎回されてるからな…普通に受け入れて、しばらくしたら押し返す」

「………………………毎、回」

「…経験値の差が……」

何だかわからんが、ディランとネロが衝撃を受けている。

うん…もう良いだろう。
これではっきりした。
問題の解決方法は一つ、慣れるしかない。

その時、執務室のドアがノックされた。


「アリステア様、ジアですっ」

「!どうぞ、おいで」

「はい!失礼します!」

世界で一番可愛い声がして、すぐに入室を許可した。
ジアはニコニコと可愛い顔をして入ってきた。

「ごきげんよう、ディラン様、ネロ様」

「やあ」

「どうも」

おお…さすが高位貴族。
さっきの様子が嘘の様に普段の様子に戻った。

令嬢の前ではカッコ悪いところは見せないか。

「どうしたの?」

僕はジアを隣に座らせると、すぐに抱き寄せた。

「その、ディラン様とネロ様のお耳に入れたい事がありまして…」

「耳に入れたい事?」

ジアは抱き寄せた事で少し表情を溶かしながら、そう言ってきた。

本当、可愛い…と癒されて油断していると、ふわふわの声でとんでもない爆弾が落とされた。

「お話を聞いていると、クラウディア様はお仕置き的なえっちも好きみたいです!頑張れば、ずっとディラン様が主導権を握れると思いますっ!」

「ぶっ…!」

ディランがお茶を吹き出した。

「シャーロット様は獣みたいにガツガツしたのも好きそうです!一度、がむしゃらに攻めてみたらどうでしょうかっ!?」

「っ!け、けほっ…」

ネロがむせた。

ジア…こうなる事を見抜いていた…?
二人が悩む事をわかっていた…?

二人の望んだ具体的で恐らく的確なアドバイスだが、これは新たな問題が生まれそうだな…。
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