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侵入者

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嘘でしょ。
サァー…と血の気が引き、恐怖に体が冷えていく。  

エリザベス王女と二人きりになる前までは閉まっていたはず…。
という事はーーーつい先ほど、音もなく…?

警備が厳重な王女宮の、エリザベス王女の部屋に侵入できる輩は限られてくる………シリルではない。
このタイミングで侵入者が現れたのは、シリルと何らかの関係があるのか、ないのか。

どちらにせよ、ここに侵入に出来たとなるとプロには間違いない。
間者…?
それとも、暗殺者…?

とにかく、エリザベス王女を守らないと…今の私たちは隙だらけだ。

もちろん、私も死にたくはない……が、エリザベス王女のそばで五年間過ごして、私の気持ちはより強い方に変化していた。
最初は不幸や死を回避し、彼女たちに幸せになってもらいたいだけだったが…今はそれに加え、エリザベス王女のためにも生きて、そばで守らなければと思うようになった。

私にどこまで出来るかわからないけど、出来る事をやるしかない…!

エリザベス王女は私をカウチソファーに押し倒していて、完全に背中が無防備になっている。
体勢を逆にしないと…!

「ビーチェ…?どうしたの?…きゃっ!」

私は少し起き上がり、カウチソファーの背もたれ側に転がり、彼女を庇うように強引に押し倒した。
エリザベス王女は可愛すぎる小さな悲鳴を上げて、私の下敷きに…驚きで呆けた顔も可愛すぎて札束を課金するレベルの可愛さだが、今は尊死している場合ではない。

「えっ………あっ…♡」

目を鋭くして侵入者が何処に潜んでいるか警戒していると、間を空けて、下からときめいたような甘い声が聞こえた。
視線を向けると、何故かエリザベス王女が…所謂キュン顔をしていた。
彼女は目が合うと、吸い込まれるように私の頬に利き手を伸ばしてきた。
非常事態で無ければ、身を任せて、極上の蕩け顔を一時間ほどガン見したいところだが……私は、頬に添えられた尊い手を掴んで、真剣にお願いした。

「エリー様、じっとして?動かないで下さい」

「う、うんっ♡わかったぁ…♡」

良かった…胸の上に両手を置くと、エリザベス王女は頷いてくれた。

「きょ、今日のビーチェは、そのっ…大胆っ、なんだねっ♡」

エリザベス王女が小声で何か呟いた気がするが、私の意識は完全に別の方に向いていた。

さて、どうやって部屋の外にいるリーを呼ぼうか。
助けを呼ぼうとした瞬間に殺られる可能性もある…プロの侵入者なら少しの動きも見逃さないだろう。

「!!………………っ…っ」

「ーーー!」

私が恐怖を抑え込みながら神経を尖らせていると、部屋の角のカーテンから息遣いのような音がした。

だが、むやみに視線を向けるのは危険だ。
耳をそばだてて、意識だけをそちらに向ける。

すると…だんだんと息遣いが荒くなってきている気がするのだ。

一体、なに…?

間者とも暗殺者とも思えない異様な状況に困惑し、変な汗が流れ、滴り落ちた瞬間…ブツブツと呟く声が聞こえてきた。

「えっ、嘘…ずっと王女様のあまあま溺愛攻めだと思ってたのに、まさかご令嬢の下剋上攻めだったとはっ……いつもとは違う押せ押せのご令嬢と、逆に押され気味の王女様っ…い、いい…最高にいいっ……って、あっ…」

ーーーは…?

大きな声ではないが……確かに、そう聞こえた。
若い男のテノールだ。
無意識に出た言葉なのだろう…自分の失態に気付いて声を短く上げた。
え…この人、ここに何しにきたんだろう…?
間者にしろ暗殺者にしろ、プロに違いないのに…本当に何しにきたの…?

マニアックな事を口走った侵入者の意図も目的もわからず、余裕のない頭はより混乱していく。

「あら…だぁれ?」

…そして、更に私の頭を更に混乱させる事が起こった。

エリザベス王女が…取り乱す様子もなく、毅然とした態度で、威圧的な低い声を出したからである。
私に押し倒されているはずのエリザベス王女は、難なく、私を上に乗せたまま起き上がった。
それに対しても驚愕してしまった…彼女は、こんなに力が強かっただろうか…?

え…こんなエリザベス王女見たことがない…。

「なるほど…ビーチェの様子が急に変わったのは、侵入者がいたからなのね。私もまだまだね…ビーチェの事が心配過ぎて意識が向いてなかったわ。ビーチェに何も無くて良かった…」

冷えた表情でため息を吐き、私を庇うように立ち上がると、光る“何か”をカーテンの方へ素早く投げた。

「っ!?…ぐっ」

それは、侵入者の男に当たったようで、彼から苦しそうな声が漏れた。

ええ…な、なにが起こってるのぉおおお。

「エ、エリーさま…?」

「ありがとう、ビーチェ♡私を守ろうとしてくれていたのね…♡ちゅっ♡」

ちゅっ…と、唇のすぐ横にキスをした彼女は、私にはいつも通り…相変わらず甘い声、甘い態度で接してくれている。

侵入者を前にしているにも関わらず、頬が熱くなるのを感じる。
先ほど妄想していた『ドライでクール』な雰囲気を纏ったエリザベス王女が目の前にいて、好きが溢れてメロメロになりかけていた。

か、かっこいい…♡
しゅきぃ…♡

「それで、貴方の目的はなぁに?とりあえず、人を呼ばせてもらうわね」

「あっ、ちょっと!ちょっと待って下さい!は、話っ…話を聞いて!」
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