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さいしゅうしょう
さいしゅうわ。
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「頼み込んだって、どういうこと?」
「実はのう、ガルフは時間で言うとカナタよりも先にカナタとの記憶を思い出し、わしの元へやって来たのじゃ。絶対にカナタに会いに行くと。けれど、毒を持ったままの状態ではどこでなにが起きるかわからぬと」
だから以前却下した、人狼たちに助けてもらうと言うことを願ったのだと言う。
「カナタよ、お前は相当に想われておるのじゃよ」
「え?」
ガルフは、涙を見せるようなことはしなかったけれど、アドルフに頼む時には額を地面に擦り付け、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら土下座したのだという。
「たのむ!長、身勝手なことだってわかってる。でもよ、俺にはカナタとルウしかいねえ。あいつに会えねえ人生なんて考えられねえんだ。だから、あいつを探しに行ける身体を取り戻してえんだ!」
屋敷に響き渡る声でアドルフに頼み込むガルフを見兼ねて、アドルフは解毒剤を渡したと言った。
「人狼に盛る毒の種類くらいは把握しておった。けれど、それはガルフがリーダーになるときにだけ渡そうと隠していたのじゃが…」
カナタへの一途な想いが、またしてもアドルフの心を変えたのだ。
「ガルフ…」
「こ、こっち見んなよ。バカ…」
カナタは嬉しさが胸に込み上げて、ガルフを見つめたが、ガルフは恥ずかしそうに視線を逸らした。
「さて…ここからが本題じゃよ、3人とも」
緩んだ空気が、一変して凍り付きそうな緊張感に包まれた。
「ガルフとルウが、この世界で住まうことを望むのであれば、その身を人へと変えねばならぬ」
「え、どういうことですか?」
「カナタよ、そなたの生まれ育ったこの世界に人狼と言う種族はおるか?」
「い…いえ、いません…」
薄々わかっていた。
ガルフとルウ…人狼がこの世界で生きていけるわけないと。
「ということは、ガルフとルウは人として、別の場所でそれぞれの人間の年齢に換算して、時をさかのぼって生まれ直さねばならぬ」
「そんなことしたら…僕と2人は…」
また出会えなくなるかもしれない。
そんなのは絶対に嫌だと、カナタは首を横に振った。
「俺は構わねえぜ?」
そこにガルフがキッパリと口を挟んだ。
「ぼくもだいじょぶだよ!」
ルウも躊躇うことなく頷いた。
「ふたりとも、どうしてそんな簡単に言えるんだよ!また会えなくなるかもしれないだろ?」
「簡単なことだろ?なにがあってもお前のことは絶対に見つけ出す、それだけだ」
「うん!カナタの匂いは、僕が人間になっても絶対に見つけ出すよ。それにもう離れないって、約束したでしょ?」
2人の気持ちの強さに、カナタは気圧されてしまった。
2人は僕を信じてくれている。
けど、カナタはもう根拠のない約束をして2人と離れるのは嫌だった。
…意を決してカナタはアドルフに尋ねた。
「ガルフたちのいた世界では、どうなんですか?」
「ほっほっ、察しがいいのう、カナタよ。あちらの世界には人間がおる。3人ともそのままに暮らすことができるじゃろう。ただし、カナタがこの世界で生きてきた記憶は全て無くさねばならぬ」
確実にあちらの世界の住人として生きるために。
ガルフとルウがこの世界で人間になるか…
カナタがこの世界での記憶を失ってガルフたちの世界で生きるか…
「そんなことさせるわけねえだろ。カナタの生きてきた世界での記憶がどれほど大事なものか、わかって言ってんのかよ?」
「そうだよ。ぼくと兄ちゃんはずっとふたりだったけれど、カナタには家族が…」
ルウがそう言いかけた途端に、カナタは声を張り上げた。
「やめて!」
ルウの肩がビクッと震えた。
「ごめんルウ…。でも、でもね、僕にとって、ガルフとルウも家族と同じくらい大切な存在なんだ。それに僕は…僕は…」
カナタは目尻に溜めていた涙を頬に伝えながら声を振り絞った。
「どんな姿でも、ガルフとルウのことが大好きだ。でも、人狼だから…それも含めてガルフとルウだから…それを失っちゃダメだよ」
人にはない、人狼としての優しさ、あたたかさをカナタはガルフとルウからもらった。
もしかしたら人間に変わっても、この2人の優しさは変わらないのかもしれない。
でも、自分の為に姿が変わると言うのは違うことだと、カナタは思った。
もう大丈夫だよ…
ちゃんと家族と向き合うことも出来た。
別れた彼女のミサキは、人気のある先輩に乗り換えたけど、その人とも別れて自分の生き方を見つけた。
今の僕は、もう思い残すことは無い。
ガルフとルウを、生まれ直させることなんてしない。
僕は、かわらない2人とこれからの人生を生き直したい。
「カナタ…」
「カナタ、お前…」
「アドルフ様、お願いです。僕を…ガルフたちの世界へ、連れて行ってください」
……
3年後…
雑貨屋の店主は完全に引退をして、今ではカナタが店の主人として切り盛りをしている。
ガルフは、1日、人の姿で持ち前の体力を駆使して多くの荷物を運ぶ現場で仕事をしている。
ルウは、たくさん本を読んで蓄えた知識で今や街の学校でトップの成績を残している。
「すごいや、ルウ、また100点取ったの?」
「うん。今回はちょっと難しかったけれど…」
「こりゃ将来は医者か?」
カナタとガルフは、よき夫婦として、ルウの将来の為に仕事に奔走している。
3人で洞窟から引っ越してきたこの家も、もう少しで賃貸から購入にこぎつけられそうだ。
こちらの世界に戻って来てからルアンとマイラは見かけなくなってしまった。
けれど、不思議と寂しさは感じなかった。
あの2人なら、どこかで元気に暮らしていると思えたから。
けものとであってしまったカナタは、元の世界での記憶を失った。
もし失ってなくても、引きずられることはきっとなかっただろう。
それほどに今こうして3人で暮らしていられる幸せを噛み締め、生きていられている。
『異』なる存在だろうと、『人狼』だろうと、『同性』だろうと、こいにおちるのに理由なんていらない。
世界も種族もこえて出会って離さないと決めたガルフとルウ。
ガルフにとってはカナタとルウ。
ルウにとってはガルフとカナタ。
それぞれの守りたい愛する人とこれからも幸せの日々がずっと続いていくように生きていく。
明かりの灯る家の中には、外を歩く誰が見ても幸せそうに笑っている3人の影が目に映っていた。
けものとこいにおちまして。 Fin.
「実はのう、ガルフは時間で言うとカナタよりも先にカナタとの記憶を思い出し、わしの元へやって来たのじゃ。絶対にカナタに会いに行くと。けれど、毒を持ったままの状態ではどこでなにが起きるかわからぬと」
だから以前却下した、人狼たちに助けてもらうと言うことを願ったのだと言う。
「カナタよ、お前は相当に想われておるのじゃよ」
「え?」
ガルフは、涙を見せるようなことはしなかったけれど、アドルフに頼む時には額を地面に擦り付け、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら土下座したのだという。
「たのむ!長、身勝手なことだってわかってる。でもよ、俺にはカナタとルウしかいねえ。あいつに会えねえ人生なんて考えられねえんだ。だから、あいつを探しに行ける身体を取り戻してえんだ!」
屋敷に響き渡る声でアドルフに頼み込むガルフを見兼ねて、アドルフは解毒剤を渡したと言った。
「人狼に盛る毒の種類くらいは把握しておった。けれど、それはガルフがリーダーになるときにだけ渡そうと隠していたのじゃが…」
カナタへの一途な想いが、またしてもアドルフの心を変えたのだ。
「ガルフ…」
「こ、こっち見んなよ。バカ…」
カナタは嬉しさが胸に込み上げて、ガルフを見つめたが、ガルフは恥ずかしそうに視線を逸らした。
「さて…ここからが本題じゃよ、3人とも」
緩んだ空気が、一変して凍り付きそうな緊張感に包まれた。
「ガルフとルウが、この世界で住まうことを望むのであれば、その身を人へと変えねばならぬ」
「え、どういうことですか?」
「カナタよ、そなたの生まれ育ったこの世界に人狼と言う種族はおるか?」
「い…いえ、いません…」
薄々わかっていた。
ガルフとルウ…人狼がこの世界で生きていけるわけないと。
「ということは、ガルフとルウは人として、別の場所でそれぞれの人間の年齢に換算して、時をさかのぼって生まれ直さねばならぬ」
「そんなことしたら…僕と2人は…」
また出会えなくなるかもしれない。
そんなのは絶対に嫌だと、カナタは首を横に振った。
「俺は構わねえぜ?」
そこにガルフがキッパリと口を挟んだ。
「ぼくもだいじょぶだよ!」
ルウも躊躇うことなく頷いた。
「ふたりとも、どうしてそんな簡単に言えるんだよ!また会えなくなるかもしれないだろ?」
「簡単なことだろ?なにがあってもお前のことは絶対に見つけ出す、それだけだ」
「うん!カナタの匂いは、僕が人間になっても絶対に見つけ出すよ。それにもう離れないって、約束したでしょ?」
2人の気持ちの強さに、カナタは気圧されてしまった。
2人は僕を信じてくれている。
けど、カナタはもう根拠のない約束をして2人と離れるのは嫌だった。
…意を決してカナタはアドルフに尋ねた。
「ガルフたちのいた世界では、どうなんですか?」
「ほっほっ、察しがいいのう、カナタよ。あちらの世界には人間がおる。3人ともそのままに暮らすことができるじゃろう。ただし、カナタがこの世界で生きてきた記憶は全て無くさねばならぬ」
確実にあちらの世界の住人として生きるために。
ガルフとルウがこの世界で人間になるか…
カナタがこの世界での記憶を失ってガルフたちの世界で生きるか…
「そんなことさせるわけねえだろ。カナタの生きてきた世界での記憶がどれほど大事なものか、わかって言ってんのかよ?」
「そうだよ。ぼくと兄ちゃんはずっとふたりだったけれど、カナタには家族が…」
ルウがそう言いかけた途端に、カナタは声を張り上げた。
「やめて!」
ルウの肩がビクッと震えた。
「ごめんルウ…。でも、でもね、僕にとって、ガルフとルウも家族と同じくらい大切な存在なんだ。それに僕は…僕は…」
カナタは目尻に溜めていた涙を頬に伝えながら声を振り絞った。
「どんな姿でも、ガルフとルウのことが大好きだ。でも、人狼だから…それも含めてガルフとルウだから…それを失っちゃダメだよ」
人にはない、人狼としての優しさ、あたたかさをカナタはガルフとルウからもらった。
もしかしたら人間に変わっても、この2人の優しさは変わらないのかもしれない。
でも、自分の為に姿が変わると言うのは違うことだと、カナタは思った。
もう大丈夫だよ…
ちゃんと家族と向き合うことも出来た。
別れた彼女のミサキは、人気のある先輩に乗り換えたけど、その人とも別れて自分の生き方を見つけた。
今の僕は、もう思い残すことは無い。
ガルフとルウを、生まれ直させることなんてしない。
僕は、かわらない2人とこれからの人生を生き直したい。
「カナタ…」
「カナタ、お前…」
「アドルフ様、お願いです。僕を…ガルフたちの世界へ、連れて行ってください」
……
3年後…
雑貨屋の店主は完全に引退をして、今ではカナタが店の主人として切り盛りをしている。
ガルフは、1日、人の姿で持ち前の体力を駆使して多くの荷物を運ぶ現場で仕事をしている。
ルウは、たくさん本を読んで蓄えた知識で今や街の学校でトップの成績を残している。
「すごいや、ルウ、また100点取ったの?」
「うん。今回はちょっと難しかったけれど…」
「こりゃ将来は医者か?」
カナタとガルフは、よき夫婦として、ルウの将来の為に仕事に奔走している。
3人で洞窟から引っ越してきたこの家も、もう少しで賃貸から購入にこぎつけられそうだ。
こちらの世界に戻って来てからルアンとマイラは見かけなくなってしまった。
けれど、不思議と寂しさは感じなかった。
あの2人なら、どこかで元気に暮らしていると思えたから。
けものとであってしまったカナタは、元の世界での記憶を失った。
もし失ってなくても、引きずられることはきっとなかっただろう。
それほどに今こうして3人で暮らしていられる幸せを噛み締め、生きていられている。
『異』なる存在だろうと、『人狼』だろうと、『同性』だろうと、こいにおちるのに理由なんていらない。
世界も種族もこえて出会って離さないと決めたガルフとルウ。
ガルフにとってはカナタとルウ。
ルウにとってはガルフとカナタ。
それぞれの守りたい愛する人とこれからも幸せの日々がずっと続いていくように生きていく。
明かりの灯る家の中には、外を歩く誰が見ても幸せそうに笑っている3人の影が目に映っていた。
けものとこいにおちまして。 Fin.
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